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4話 vsゴブリン 前編


村から東へ2時間ほど進んだところ、そこにゴブリンの集落はあった。

そこそこ離れた木の影から、4人は様子を伺う。

聞いていたとおり、小さな集落だ。ダール村の4分の1の大きさもない。木で出来た小さな家が4件並んでいるだけだ。

吹けば飛ぶような家だが、一つだけ他のものより立派な家がある。恐らくそこに集落の長がいるのだろう。

家の側には焚き火の跡が残っており、その周りには動物の骨が散乱している。


「絶対あれだよな?」


「うん、間違いないと思う」


「でも、思ってたよりもガッシリしてるね」


トーマスが家の前で、なにやらガヤガヤと話している3匹のゴブリンを指さす。

緑色の肌にとんがった耳。ギョロギョロとした黄色い目は変わらないのだが──


「ほんとだ、聞いてたよりも強そう」


痩せ細っておらず、そこそこ肉付きがいい体だ。また、背丈も遠目なので正確ではないが、伝聞よりも少し大きそうだ。


「聞いてた話が間違ってたのか?」


そう首を傾げるレントに、レインは焚き火跡を指さし口を開く。


「たぶん、あれが原因だと思う」


レインが指をさしたのは、焚き火跡周辺に転がっている動物の骨だ。


「ここら辺はモンスターも基本居ないし、動物も沢山居るから、ゴブリンにとって過ごしやすい土地なんじゃないかな?」


天敵が少なく、食料も豊富。

最弱のモンスターにとって、この森は楽園みたいなものなのかもしれない。


「じゃあ、ほっておいたらどんどん増えるかもしれないってことか?」


ゴブリンの繁殖力は高く、一度に2、3匹の子供を産む。また、妊娠期間もひと月ということもあり、増殖スピードがかなり早い。脆弱なモンスターが絶滅しないための、進化の形だと考えられている。


「たぶんね。だから、倒すならまだ数も少ない今がベストだ」


「よし、じゃあやるっきゃねぇな!」


レントがグッと握りこぶしをつくる。それと同じタイミングで、各々が武器をぎゅっと握る。


「まず、僕の魔法で先制攻撃するから、あとの2匹はレントとトーマスで食い止めてくれ。先制攻撃で倒しきれなくても、1匹は僕が受け持つから、2人は戦闘に集中すること。アルマはレントとトーマスが怪我したら、適宜回復してあげて」


テキパキと出された指示に、各々は「うん」と、頷く。


「たぶん直ぐに、騒ぎを嗅ぎ付けた他のゴブリンが出てくるだろうから、出てくる前に囲まれないよう脱出を──」


そこまで話したところで、ガサガサと草をかき分ける音が聞こえ、焦るように口を噤む。

「しー」と、指を口の前に立て、レインはほかの3人に沈黙を促したところで、こそこそと茂みから様子を伺う。

音の鳴る方向には、3匹のゴブリンが「グギャギャ」と喉が潰れたような声を出し、喜色の声を上げていた。

狩りをしていたのか、捕らえられ、脚を棒に括りつけられた兎を運んでいる。

鉈を持ったゴブリンが1匹、木でできた荒い棍棒を持ったゴブリンが1匹、そして残り1匹は弓を携えていた。


……くっそ、最悪だ。このタイミングで帰って来るなんて。


「……レント」


「何があったんだ?変な声聞こえたけど」


声量を抑え、声を掛ける。


「対象変更だ。向こうからゴブリンが3匹向かってきてるから、挟まれる前に倒すしかない。幸いまだ見付かってないから、さっき話した作戦で仕掛けよう。この距離なら多少の音を立てても、集落側のゴブリンには気付かれないはずだ」


「おう、わかった」


「僕の合図で仕掛けるから、そこの茂みに身を潜めてて」


そう仲間に指示をかけ、近づいてくるゴブリンを見やる。魔法の射程に入るまで、約30秒。

この攻撃は絶対に外せないと、強く意識する。

狙いは、兎を担いでいるゴブリンの後ろ──弓を携えたゴブリンだ。


──残り20秒。


失敗は許されない。

使い慣れた魔法とはいえ念には念をと、魔法の詠唱を頭の中に思い浮かべる。無詠唱ではなく、詠唱で魔法を放つ準備をする。


──残り10秒。


ここだ!


「風よ!彼の者を切り裂け!!《ウィンドカッター》!」


杖の先端で収縮した風が刃を形取る。そしてそれは、ゴブリンに向け放たれた。


「ギギャ!?」


放たれた風の刃が弓ゴブリンの左腕を、肘から切り落とす。

ボトッと落ちた左腕の断面は、まるで鋭利な刃物に切られたかのように平坦だった。


くそっ、外した!


首を落とすつもりで狙いを定めたのだが、無意識の上に杖を持つ手が力み、狙いがぶれてしまった。


「レント!トーマス!今だ!!」


「おう!!」


「う、うん!」


控えていた2人に声を掛けると、準備していたレントが威勢よく飛び出した。トーマスもそれに遅れないように、ぎこちない動きでついて行く。


「弓ゴブリンは僕が引きつける!2人はそのまま残りの2匹を頼む!」


2匹のゴブリンに向かって駆けるレントたちを尻目に、腕を失い、未だ悶えている弓ゴブリンの顎を蹴り飛ばす。

レインの魔力量は決して多い方では無い。そのため、残りのゴブリンを倒すことも視野に入れると、この手負いの弓ゴブリンは、魔法無しで倒しておきたいと考えたからだ。


顎を蹴り飛ばされた弓ゴブリンは、膝立ちの状態から後ろに倒れ込む。

それでも必死に起き上がろうとしているが、頭を揺らされた影響から、上手く体を動かすことが出来ない。


じたばたと足掻くゴブリンの腹を、暴れないように右脚で踏みつける。

そしてレインは腰に差した片手剣を抜き、弓ゴブリンの首の上に合わせた。


弓ゴブリンはギョッとした顔で、先程以上に暴れ回る。左手からドクドクと血が溢れているのにも関わらず暴れるものだから、血飛沫が頬や身体にべとりと付着する。


結構な量の飛沫が頬に付いたにも関わらず、レインはそれに気が付いた様子はなく、視線は弓ゴブリンの首に注がれたままだ。

あとはその剣を振り下ろすだけだが、その時は一向に訪れない。


ドクンドクンと、弓ゴブリンから流れる血に呼応するように、心臓が早鐘を打つ。

レインは、羽虫ならいざ知らず、意図的に生き物を殺したことがなかった。先程魔法を使った時は、焦りもあり、命を奪うことが頭からすっぽり抜けていた。

しかし、こうして対面する状況になって初めて、そのことの重みに気付く。

レインは剣を持つ右手を、左手で押さえつけるようにギュッと握る。自分でも意識的にした行動ではなかったが、右手はカタカタと小刻みに震えていた。


魔法と違い、この剣でゴブリンを攻撃したら、感触が残る。皮を裂き、肉を抉り、骨を砕く──命を奪う感触。

未知に対する恐怖で身体が硬直し、レインは動き出すことが出来なかった。


そんな様子のレインを見て、弓ゴブリンはニヤリと笑う。このニンゲンは戦う覚悟もない子供だと嘲るような笑みだ。


弓ゴブリンは自身の身体に付着した血で滑らせ、体をひねるようにレインの拘束から逃れる。


「あっ!」


と、レインが気が付くも遅い。ゴブリンは這いずるようにレインから距離をとり、顎を蹴られた時に矢筒から散乱した矢を、1本手に取る。

そして、低い体勢でレインの足元に向けて体当たりを仕掛けてくる。


「うわっ!?」


棒立ちのレインは容易く倒され、マウントポジションを取られてしまう。

そして、弓ゴブリンは握った矢をレインの顔面目掛け、容赦なく振り下ろす。


「──っぁ!!」


レインは振り下ろされる腕を掴もうとしたが、血まみれた弓ゴブリンの腕はにゅるりと滑り、そのままレインの左肩に突き刺さる。

その痛みに声にならない叫びを上げる。

左肩が熱い。

まるで、熱した鉄を押し当てられたかのようだ。


「──ど、けっ!」


矢を逸らされた弓ゴブリンは憤怒の形相で、レインを絞め殺そうと首に手をかける。片腕ということもあり、絞めるのに四苦八苦している弓ゴブリンの側頭部を殴りつけた。

「ギャッ!」と地面に転がる弓ゴブリンを尻目に、すぐさま立ち上がり剣を拾う。


「レイン!!」


回復するために駆け寄ろうとしたアルマを手で制し、立ち上がった弓ゴブリンに剣を構える。


──もう、躊躇しない。殺される前に殺すしかない。


瀕死の弓ゴブリンに向かって走り出し、右肩へ袈裟斬りを繰り出す。

振るわれた刃は、いとも簡単にゴブリンの肉を断ち、鎖骨あたりで止まる。

レインが剣を引くと、弓ゴブリンはゆっくりと仰向けに地面に伏した。


嫌な感触だが、想像してたものよりか不快感はマシだった。興奮で感覚が麻痺しているだけかもしれない。


「早く回復を!」


そんなことを考えていると、今度こそ回復をと、アルマが駆け寄ってくる。


「ちょっと我慢してね……」


「……っ!」


傷口を広げないよう、アルマは慎重に矢を抜く。抜かれた途端、栓が空くように血が流れ出し、クラクラとした喪失感が生じた。


「主よ、癒しの力をお与え下さい。《ヒール》」


間髪なく、アルマが回復魔法を唱える。

緑色の光が傷口を癒す。じわじわと暖かい感覚と共に、傷口が塞がっていく。3分ほどで完全に塞がり、血が止まった。


「ありがとう」


「無事で良かったっ!」


涙目でそう安堵するアルマの頭を軽く抱擁し、当たりを見渡す。

鉈ゴブリンと対峙するレントは、細かな切り傷が出来ているものの、鉈ゴブリンに対してかなりのダメージを与えている。


「……」


一方トーマスは、棍棒ゴブリンの攻撃を大盾で器用に防ぎながら、右手に持った剣で隙を見ては攻撃しているようだった。


「……ちょっと」


2人のことを心配していたが、杞憂だったようで、レイン程苦戦していないようだ。

とりあえずは無事に勝てそうな気配に安堵する。尤も、肩に穴が空いたのは無事と言えるかは疑問だが。


「……いつまでぎゅってしてるの!」


「あ、ごめん、考えごとしてた」


レインの腕から逃れたアルマが憤慨する。その顔は真っ赤に火照っていた。

レインの言い様に、「もう!」とそっぽを向く。

そんな様子のアルマを差し置き、決め手に欠けるトーマスに加勢しようと、立ち上がる。


棍棒ゴブリンの攻撃を防ぎ、隙を見て攻撃しているものの、決定打は与えられていないようだ。

そもそも体格差──ゴブリンの方がかなり小さいのにも関わらず、うまく攻撃を捌いているのは感心するところだ。


「トーマス!一瞬隙を作って!」


「……!」


そう声をかけると、トーマスは向かってくる棍棒ゴブリンを、大盾で大きくはじき飛ばした。

体重を入れた攻撃に体勢を崩した棍棒ゴブリンは、尻もちをつく。

その隙にレインは間髪入れず、魔法を叩き込んだ。

今度こそ、うまく当てることができたこともあり、棍棒ゴブリンはぐったりと倒れた。


その直後、「よっしゃー!」というレントの雄叫びが聞こえてくる。

時間はかかってしまったが、3人ともどうやら勝利することが出来たようだ。


そして2人はアルマから回復魔法による治療を受ける。トーマスよりもレントの方が怪我を負っていたので、先の順番だ。

傷だらけになったレントに対して、ぶつくさと文句を言いながら治療するアルマ。レントは怒られながらもどこか誇らしげで、仲睦まじい様子だ。その姿にレインの胸がチクリと痛んだ。


レントの治療も終わり、アルマはトーマスの治療に移る。

全身鎧のお陰もあってか、大きいダメージは受けていないようだ。しかし、足元を中心に所々凹んでおり、打撲のようになっているとの事だ。


何はともあれ、初戦は全員無事に──


そう安堵したその時、「グギャアアアアッ!!!」と、耳が痛くなる程に大きな叫び声が森中に響く。

音の発信源を振り返ると、弓ゴブリンが必死の形相で叫んでいた。口の端からは血の泡を吹き、黄色い目玉が飛び出しそうなほど開いている。


「──まずい!!《エアバースト》!!」


まだ生きていたのか──と、思う間もなくレインは行動する。

膨張した空気が弓ゴブリンの傍で炸裂し、吹き飛んだ弓ゴブリンがボロ雑巾のように転がる。

今度こそピクリとも動いておらず、絶命した。


レインは集落の方を見やる。

弓ゴブリンの最後の声を聞いてか、ゾロゾロとゴブリンが出てくる。

その数、ざっと20匹。

瞬時に勝てないと悟ったレインは、3人に指示をだした。


「逃げろ!!!」


そうして4人は元来た道を駆ける。

次回は11/11 18:00頃予定です。

評価や感想など、よろしくお願いします。



(たまに更新!)登場人物図鑑


No.2

名前:レント

性別:男

職業: 剣士

魔法素質:なし

趣味:幼なじみと遊ぶこと。イタズラ。

概要:幼なじみ4人組の1人。活発な性格で、幼なじみと遊ぶ時は、レントの提案から始まることが多い。

自身が魔法を使えない為、思い付いた魔法の使い方をレインに実践させているが、基本的に失敗している。

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