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3話 出発前夜


「……寝れない」


4人で計画を立てた次の日の晩。

計画が明日に迫っているというのに、レインは高鳴る胸の鼓動に、寝付けないでいた。


明日は初めてのモンスターとの戦闘。

それに対する緊張や不安、夢へ一歩近づくということへの期待。それらがごちゃ混ぜになり、心地いいとも悪いともとれる、よく分からない感情になっていた。


「はぁ……気分転換でもするか……」


近くの部屋で眠る両親を起こさぬよう、こっそり家から出る。

夜だというのに、星々の光に照らされて辺りは明るい。


ふと気配を感じ、隣の家を見る。隣の玄関の前には、キラキラとした目で星空を眺めるアルマが座り込んで居た。


「……アルマ」


レインが呼びかけると、アルマは振り向き、驚いたような表情を浮かべる。


「レインも寝れないの?」


「まあね。アルマも?」


「うん」


そう返事をしながら、アルマはセシルの元へ近付いてくる。

そして、よいしょ、とアルマはレインの家の庭にある、平べったい岩に座り込んだ。

月明かりに照らされた彼女の顔は、見慣れている筈なのに、どこか幻想的に見えた。


「座らないの?」


「え?ああ、うん。座るよ」


見惚れてた、という言葉を頭の隅に追いやり、アルマの隣に座る。


「なんか、こういうのも久しぶりじゃない?」


「なにが?」


「ほら、昔はよくここに座って2人で話してたじゃない。それこそ神様の啓示を受ける前とか」


レインとアルマは家が隣だったこともあり、昔はよくこうして2人で話してた。

今日の昼ご飯はなんだったとか、親に叱られたとか、他愛の無い内容ばかりだったが、2人はその時間を大切にしていた。

しかし、アルマが神官の啓示を受け、勉強漬けの生活になったことにより、その分レントやトーマスと遊ぶ機会が増えた。

久々に2人で座った岩の上は、窮屈に感じられた。


「アルマは勉強ばっかりで大変そうだったし、そうなるのも仕方ないよ」


「私が疲れてるからって、気遣ってたの?」


「まあ、そう、だね……」


レインは返事をしながら目をそらす。

疲れているアルマを気遣ったのもあるが、実は理由はそれだけではない。

神の啓示を受けるのは10歳。その頃のレインは、幼なじみとはいえ女の子に対する距離感というものがわからなくなっていたため、意図的に避けていた。

そんなことは露知らず、「やっぱり優しいね」と笑うアルマに胸がチクリと痛む。


「……ねえ、実は明日の作戦。実は反対だったんだ」


「え?」


突然の告白にドキリとする。

昨日は賛成していたはずだ。気が変わったのだろうか。


「行動しないと現状が変わらないことも、外のモンスターすら倒せないと、冒険者になんてなれないってことも分かってる。でも……」


アルマが振り向き、レインを見る。

目尻には涙が浮かんでいた。


「でも、やっぱり怖いよ」


アルマの肩が小刻みに震えている。

戦闘職とはいえ、4人は戦闘を経験したことが無い。


「もし、誰かが怪我をしたら?それが、私の魔法で治しきれなかったら?……もしも、それで、命を落としてしまったら?」


溢れた涙が頬を伝う。

魔法は万能ではない。死者を甦らせる術はなく、死は永遠の別れだ。

アルマの職業である聖職者は、パーティの回復役、みんなの生命線を担う者だ。つまり、自分が失敗するとパーティが崩壊する。そういったプレッシャーに耐えきれなくなってしまったのだろう。


「……私、そんなの耐えられない」


ぽつりぽつりと、服に涙の跡が滲む。

アルマが昨日からどんな想いで過ごしたかを考えると、心が痛む。

アルマの告白は、たかがゴブリン如きと楽観視していたレインにとって、忸怩たる思いを抱かされるものだった。


「……ごめん、アルマがどう思っているか、考えていなかった」


レインは泣きじゃくるアルマに、頭を下げる。

昔からレインは、4人の中で参謀のような役割をしていた。

物覚えが早いと、親や村の大人たちからは褒められた。

困った、どうしよう?と、年下や同年代の友からは、頼られた。

何時しかそれらは、レインの自信を裏付けるものとなっていた。知識で3人を支えるようになれると思っていた。

しかし、今はどうだ。

大切な人のことすら思いやれず、なにが参謀だ、情けない。


ぎゅっとアルマの手を両手で握る。

自分のものより一回り小さな掌。震えるそれを安心させるかのように、優しく包んだ。


「大丈夫──なんて、無責任なことは言えないけど。僕が、みんなを守る」


「……」


「これでも、失伝魔法の継承者なんだぜ?」


使えたこと無いけどね、と冗談交じりに自嘲する。その甲斐あってか、アルマは「ふふっ」と、笑みを浮かべた。


「やっぱり、レインは頼りになるね」


「今の話、そんな感想が出る内容だった?」


「うん。昔からレインは、勇者みたいだったよ」


「……僕よりレントの方が勇者っぽい性格してると思うけど」


「昔から私が困ってたら、すぐに助けてくれてたでしょ?」


「……そんなに大それたことしてないよ」


「勉強で分からないところを教えてくれたり、お母さんに叱られて家出した時に匿ってくれたり、転んで泣いた時には慰めてくれたり……確かに1つ1つは小さなことかもしれないけど、私は嬉しかったよ」


直球の褒め言葉に目をそらす。

手を繋ぎ、見つめあっていたという状況も相まって、かなり照れくさい。

照れていることをバレないよう、平然を装いながら繋いだ手を離す。「あっ」と、アルマの小さな声が聞こえた気がした。


「そんな訳で、頼りになるレインが決めたことだから、賛成したんだ」


「信頼してくれるのは嬉しいけど、ほんとに大丈夫?なんなら明日もう1回話し合っても──」


「ううん、いいよ別に。そんな時間ないでしょ?それに、もう決めてるから」


「なにを?」


ぴょんっと、アルマが岩から降り、こちらを見る。先程の泣いていた面影はなく、なにかを決意した眼差しだ。


「レインを信じるって」


胸が熱い。

信頼を寄せて貰えることって、こんなにも嬉しいことなのか。

『みんなを守る』その言葉が、ずしりと重く感じた。


「私は、これからもみんなと一緒に居たい。みんなと冒険者になって、大冒険して。好きな人と付き合ったり、結婚しても、ずっと4人で居たい。そして、最期は楽しかったって言って終わりたい」


アルマは座ったままのレインに手を伸ばす。


「だからね、明日は頑張ろうね!勝手な行動をって、大人からは怒られるかもしれないけど」


レインはアルマの手を掴み、立ち上がる。


「その時は任せて。言い訳なら、この村で僕の右に出る人居ないから」


「どうなのそれ」


2人で笑い合う。

その後、じゃあねと別れ、部屋に戻る。

先程の会話で緊張が解けたのか、目をつぶった瞬間眠りについた。



────────────────────────



次の日、村の端にある空き地に集まった4人は各々の装備を見回す。

丸い小盾を左手に持ち、腰に片手剣を差したレント。

鈍色の全身鎧に、レントのものよりも2回りほど大きい盾を背中に担ぎ、メイスを握るトーマス。

神官特有の白い修道服を身にまとい、首から提げたタリスマンを両手で包み込むアルマ。

そして、藍色のローブを羽織り、ショートワンドを手にしたレイン。腰にはレントのものと比べると、全然使い込まれていない片手剣を帯びている。


「こう、改めて揃うと壮観だなー!まるで冒険者みたいだぜ!」


「まるでじゃなくて、今からなりに行くんだろ」


「お?今日はいつもよりやる気だな、レイン!」


「まあね」


みんなを守る。その言葉を心の中でなんども反芻する。

昨日、アルマの前で誓った言葉だ。

チラリとアルマの顔をを見る。すると偶然彼女もこちらを見ていたようで、視線が交わる。

数秒間目を合わせていたが、昨日のことを思い出し、バッと顔を背ける。視線の端で、アルマも同じように顔を背けているのが見えた。


「レインくんもアルマちゃんも、急にどうしたの?」


「なんだ?やっぱり緊張してんのか?」


「い、いや、大丈夫だよ」


「う、うん!大丈夫!」


なんだか気まずい。

昨日のことをどうしても意識してしまう。

2人きりで話すのも久々だったし、間近に顔を見合わせたのもなんだか恥ずかしくなってきた。

いやいや、どっちも昔はよくあったことじゃないか。久しぶりだったから感覚が衰える的なことになっているだけで、どっちも大したこと無いはずだ。


そう考え、横目でチラリとアルマの顔を見るが、またすぐにそっぽを向く。


あれ?アルマってこんなだっけ?

肌は白いし、髪もサラサラだ。そういえば昨日近づいたときは、いい匂いもした気がする。

てか、手も柔らかかったよな。肌がキメ細かくて、すべすべというか。自分の手とは比べ物にならない。聖属性魔法に肌を綺麗にする魔法とかがあるのだろうか?


「よっしゃがんばるぞー!」と、なにやら大声でレントが叫んでいるが、それどころじゃない。

ドキドキという鼓動が収まらない。

今まで近く過ぎて気付かなかったけど、もしかしてアルマって、かわ────


「レイン、どうしたの?」


「いい!?」


「何その驚き方……」


急にアルマに顔をのぞき込まれ、心臓が飛び出でるかと思った。お陰で変な驚き方になってしまった。

突然奇声をあげるレインに、アルマは少し引いた様子だ。


「ご、ごめん、考え事してた。」


「レインは考え込んだら長いからなー」


「レインくん大丈夫?ちょっと休憩してから出発する?」


パンっと両手で頬を叩き、気合を入れる。

惚けている場合じゃない。気を抜くな、と己に喝を入れる。


「もう大丈夫。そろそろ出発しようか」


「おおー、なんかよく分からないが、そうだな!行くか!!」


4人は握りこぶしを掲げ、叫ぶ。


「「「「おー!!!」」」」


次回は、11/10の18:00頃予定です。



(たまに更新!)登場人物図鑑


No.1

名前:レイン

性別:男

職業:魔術師

魔法素質:水、風、固有(次元魔法)

趣味:幼なじみと遊ぶこと。魔法の練習。

概要:本作の主人公。幼なじみ4人組の1人。

幼なじみのレントの無茶によく付き合わされていると、村の大人からは思われているが、内心はノリノリである。アルマに淡い恋心を持つ。

次元魔法が使えないことに悩んでいる。

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