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1話 冒険者になるには


「納得いかねぇーーー!!!」


悲痛な叫び声が、小さな村のすぐ側にある、これまた小さな森に木霊する。森の中心にある空き地で頭を抱え、叫び声を上げた少年は、そのまま髪を掻きむしる。短く切り揃えられた茶髪がみるみる内にぐしゃぐしゃになる。


「しょうがないよレント、だってこの村は働き手が少ないし、子供も年々少なくなってる。僕達の代もたったの4人しか居ないんだから」


未だに髪をぐしゃぐしゃにしている少年──レントを黒髪の少年が宥める。少年はレントの奇行にも手馴れた様子だ。


「……そら、親父たちが言ってることも分かるぜ。どうしても畑仕事には人手がいるし、俺たちに村の外に出て行って欲しくない気持ちも分かる。けどよ、俺たちの人生なんだからさ、好きにさせてくれてもいーじゃねえか」


掻きむしる手を止めたレントは黒髪の少年に向き直り、憤慨する。おそらく今日も父親の説得に失敗したのだろう。


「それによ、俺たちの職業は農夫でも無いんだし、神サマに定められた職業に沿う方が正しいだろ!」


しかめっ面で顔を寄せてくるレントに、黒髪の少年はまあまあと手で軽く抑える。


「せっかく神サマの啓示で剣士の職業を与えられたのによー!剣じゃなくて鍬を振る戦士がどこに居るっつんだよ」


レントはおもむろに立ち上がり、ぶつくさと文句を垂れ流しながら、拾った枝で素振りの動作をする。職業の恩恵もあってか、妙に様になっており、確かに鍬よりも剣を振るう方が良さそうに見える。


「まあ僕も納得はいかないのは分かるけど、村を出るにしてもお金がいるし、小遣いだけじゃ流石に足りないだろうから、父さん達の許可を貰わないと、中々難しいよね……」


そう呟いた黒髪の少年にレントは向き直り、手に持った枝で黒髪の少年の方を指す。


「ぬぁーにが中々難しいだ!レイン!!お前が俺たちの中でいっちばん冒険者に向いてるんだから、もっと気合い入れて親父たちを説得してくれよ!伝説の勇者と同じ魔法が使えるんだからさ!!」


「素質があるってだけで、実際はまだ使えたこもないんだけどね……」


「練習しろ!練習!俺なんて職業が決まってからは毎日素振りとかしてるぞ!」


あはは……と、レインと呼ばれた黒髪の少年は気まずげに目を逸らす。


「一応、練習はしてるつもりだけど。でも、村には長老の大ばば様しか魔法を使える人が居ないし。それこそ次元魔法は、300年前の伝説の勇者以来、歴史に埋もれてしまったからどうも使い方が分からないんだ」


ほかの魔法は使えるんだけどねと、レインは水の初級魔法を唱え、指先で発生した小さな水の塊を、適当に放り投げる。着弾地点では、水を吸った土が黒く変色する。


教会で神の啓示を受ける際に、魔法の素質がある者は、自身の職業と共にそのことを告げられる。

レインは水と風属性、そして伝説の勇者が使っていたとされる、次元魔法への素質があった。

次元魔法は、伝説の勇者以来、使い手が居なかったということもあり、失われた魔法──失伝魔法とも呼ばれていた。

しかし、水と風属性の魔法はすぐに使えるようにはなったが、次元魔法だけはさっぱり使えず、魔法を教えてくれている大ばば様もわからないと首を傾げていた。


「もちろん僕も冒険者にはなりたいから、父さん達を説得しようとしてるよ。けど、水魔法で畑に水を──とかなんとか言って、全然聞き入れてくれないんだ」


10歳の時に神の啓示を受けるために、レイン達は隣町の教会に向かった。その時にレインは、固有魔法である、次元魔法の素質があると神様から啓示を受けた。

御伽噺にもなっている伝説の勇者と同じ魔法が使えると知った時は、飛び跳ねる様に喜んだものだが、実際は全く使えない。使い手が300年も居なかった訳だから、そもそも教えてくれるような人も居ないし、ぐぬぬと魔力を込めてもうんともすんともいわない。

素質はあれど才能は無かった、という訳だ。

やはり、伝説の勇者の魔法は、使うにも伝説級の才能が必要という訳だろうか。


「でもよー、このままじゃ俺たち、ホントに死ぬまで村から出られず、ずっと畑を耕す生活になっちまうぜー。俺たちの夢を実現する為にも、どーにかして親父たちを説得しないと」


へなへなとレントが力なく地べたに座り込む。


「俺たち、幼なじみ4人で冒険者になって!あの大迷宮を攻略するって決めたじゃんか!」


「……トーマスとアルマも中々上手く説得出来ていないようだしね。ほんとに僕たちは冒険者になれるのかな」


そのまま仰向けで寝転がったレントは、悔しそうに叫び声を上げながら、顔の前で握り拳を作る。

しかし、今年14歳の彼らは、来年には成人となってしまう。成人になると働かなければならないため、それまでに冒険者になれる様、親たちを説得しなければ、レントの言う通り一生この村で過ごす事になるかもしれない。


「なにか、説得する材料があればいいんだけど……」


「それだ!!!」


そう呟いたレインにレントがガバッと身を起こして叫ぶ。


「そうだよ、実績を作ればいいんだ!それなら親父たちも、俺たちを認めざるを得なくなる!!」


「実績ってなにさ、はやく次元魔法でも使えるようになれってこと?」


「ばっかお前、それじゃ、お前しか認められないだろー!そうじゃなくて、俺たち全員でモンスターを倒すんだ!!」


意気揚々と語るレントにレインはため息を吐く。


「……そのモンスターがどこにいるんだよ。村はトーマスの父さんが守ってるから動物すら滅多に入ってこないし、村の近くに居たとしてもダルトンさんたちが倒してる。そもそも、ここらじゃモンスターなんてほぼ居ないだろ。……まさか、たかだか猪を倒したぐらいで説得するつもり?」


トーマスは幼なじみの1人で、その父親は村唯一の衛兵だ。近づいてくる動物などからこの村や畑を守ってくれている。

また、ダルトンさんは村の狩人のまとめ役で、狩人たちと近くの山で動物を狩ったり、ごく稀にモンスターを倒したりもしている。

しかし、この辺りにはせいぜい畑を荒らす程度の動物しか生息しておらず、モンスターなんてほとんど見かけない。この世界で最も個体数が多いモンスターとされているゴブリンでさえ、年に数体見かける程度だ。

そもそもゴブリンは、非戦闘職の子供でも倒せるぐらいひ弱なため、たとえ倒したとしても実績としては認めらないだろう。


レインの言葉を受けたレントはぐぬぬと唸っている。


「それをなんとかするのがお前の役目じゃんか〜!俺らの参謀だろ〜!!」


「まあまあ。とりあえず、僕たちだけで話し合っても埒が明かないし、トーマスにでも相談しにいかない?そろそろ休みの時間だし、暇してるんじゃないかな」


幼なじみの1人であるトーマスに相談するため、レントたちは村の入口近くの衛兵詰所に向かう。


レントとレインはまだ成人でないため、農作業の手伝い程度の仕事しかやらされていないが、トーマスは村の衛兵を継ぐために父親から特訓を受けている。トーマスの職業も騎士ということもあり、父親は村の衛兵を継がせるのにかなり期待しているようだ。

しかし、トーマス自身は冒険者になりたいと考えており、父親がなかなか話を聞いてくれないと、この間嘆いていた。


踏み固められた道を歩くこと数分、2人は衛兵詰所に到着する。

詰所といっても簡素なもので、村の入口にある小屋みたいなものだ。

そもそも入口といっても村の周囲に防壁がある訳ではなく、胸ほどの高さの木の柵があるだけで、乗り越えようとしたらすぐ乗り越えられる。そのため横着な住民たちは、入口すら使っていないので、あまり意味があるのかはわからない場所だ。


そして2人は小屋の裏手に周り、小さな空き地で休んでいた少年に声をかける。


「おーい、トーマス。相談があるんだけどー!」


レントの呼び声に気づいたトーマスは立ち上がり近づいてくる。


「突然だね。相談って?」


トーマスは亜麻栗色の髪の少年で、3人の中で一番背が高く、一般的な身長であるレントとレインとは頭1つ分程の差がある。しかし気弱な性格からか常に猫背で、並んでもそれほど大きくは感じづらい。


「さっきレインと、どうやったら親父たちを説得出来るか考えてて。まずは説得材料を見つけようって話になったんだけど、それが見つかんなくってさあ〜。モンスターの一つや二つ倒したら、少しは箔が付くと思うんだけど、この辺りにはぜーんぜん居ないからさ、なんかいい考えないかなって」


「森の方でなにか見かけたとか、そういう情報あったりしない?」


「そうそう!でっかい熊とか森のヌシとか、俺たちの伝説の一幕になりそうなの!!」


それを聞いたトーマスはうーんと腕を組み思案する。


「あ、そういえば」


「お、なにかあんのか!?」


顔を上げたトーマスにレントが身を乗り出して食いつく。

そしてトーマスは、伝説になるかは分からないけどと、前置きして話し始める。


「うん、この前ダルトンさんとお父さんが話してるのを見かけてね。隣の森を越えて、ずっと東の方に、ゴブリンが小さな集落のようなものを作ってるらしいんだ。ゴブリンの縄張りから村までの距離はあるから、襲われはしないだろうって。でも、ゴブリンとはいえ今までにはなかった事だからって、今朝早くにお父さんは隣町の冒険者ギルドに依頼しに行ったよ。」


「それだあーーー!!!!」


天啓を得たかのような表情をしたレントがビシッとトーマスを指さす。急に動いたレントにトーマスはビクッと肩を揺らしていた。


「それだよそれそれ!俺たちがそのゴブリン共を倒して村の危機を救う!そして俺たちの活躍を見た親父たちは、この才能を埋もれさせてはならないと冒険者になるのを許す!これで万事解決じゃね!?」


「村の危機ってほどの話では無いんだけど……」


そう突っ込むトーマスの言葉が全く耳に入っていない様子のレントは握り拳を作り、妄想をふくらませる。


「ゴブリン1匹や2匹なら兎も角、あるのは集落!流石に集落を壊滅させたら親父も認めざるを得ないだろ!!」


「で、でも、危険じゃない?子供だけでもし何かあったら……」


「どうせ冒険者になったら、ダンジョンでゴブリン以上のモンスターと戦うんだ!俺たちの伝説の前哨戦としては問題ないだろ!」


「いや、でも……」


「じれったいなあ、トーマスは!レインはどう思う!?」


レントに問われたレインは考え込む仕草を見せた後、口を開く。


「まあ、危ないっていうトーマスの意見もわかる。けど、僕たちは来年に成人したら、冒険者になってダンジョンに向かうんだ。このまま何もしないでいると、父さん達を説得することなんて出来ないだろうから、いい機会だとは思う」


今のままでは冒険者にすらなれるかどうかは怪しいと、レインは2人に正直に話す。


「それに、ダンジョンの中のモンスターより、ダンジョンの外にいるモンスターの方が弱いって聞くし。外のモンスターに勝てないようじゃダンジョンなんて攻略できないんじゃないかな」


ダンジョンのモンスターよりもダンジョンの外のモンスターの方が弱い。というのも、ダンジョンの中は魔力が豊富で、そこで生まれるモンスターは幼少期より体に魔力を蓄えて成長するため、外のモンスターよりも強く育つと言われている。


「じゃあ!!」


前のめりになるレントを手で制したレインは、その前にと言葉を続ける。


「ゴブリンを倒しに行く行かないにしても、一旦アルマにも相談して、多数決を取るべきじゃないかな」


「……まあ、それもそうだな」


「うん、そうだね。冒険者になってダンジョンを攻略することは、ボクたち4人の夢だから、ちゃんと相談すべきだと、思う」


「よし、じゃあいくか!」


レントを先頭に、3人は4人目の幼なじみであるアルマに会うため、衛兵詰所を後にした。


2話は本日の18:00更新予定です。



追記:内容修正しました。

変更前:500年前 変更後:300年前

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