パーティー機能
白天使が迷い家からいなくなった。
しばらく調べたが、ダンジョン内部の監視にも引っかからない。俺の能力で創り出した端末も所持していないらしく、あいつの部屋に置き去りになっているようだ。
俺の能力で白天使にはマーカーをつけてあったが、それも外れているようだ。足取りは追えず、白天使は行方不明だ。
しかし、気にするほどのことでもないな、とひとりごちる。
いくら調べても干渉を受けた痕跡はなかった。つまり、外部からの攻撃や誘拐ではない。一緒にいた俺に被害がないことが、それを裏付けている。仮に俺の知覚をすり抜けた敵がいたとしたら、俺にできることは何もない。
白天使が寿命で塵一つ残さずに死ぬ種族とは思えないので、自発的に外に抜け出したのだろう。外部からの干渉には注意しているが、内から外への干渉はチェックが甘い。俺が白天使を見失った理由も、それで説明ができる。
そもそも白天使と俺が一緒にいたことが、おかしかっただけだ。
あいつのくわしい事情は知らないが、ダンジョン内で生まれたというわけでもないだろう。まともな家族がいるとは思えないが、ここに居続ける理由もない。唐突で驚いたが、いなくなること自体は、前々から想定していた。
俺とあいつは恋人でも、家族でもない。
俺が好感を持つような、静かな気性の生命体でもない。
意見が食い違えば語気が強いし、遊びで負けるとしつこく食い下がってくる。そんな無邪気なふるまいをしながら、ドライで冷酷な面が見え隠れして怖いところもある。
趣味嗜好は正反対なのだから、俺の性格を好んで一緒にいたわけではないだろう。もしダンジョンに残りたい理由があるとすれば、俺の能力で生み出される目新しさ以外になく、それも飽きがくるというものだ。
ここで得た情報を外部に流出されると困るが、白天使に俺への悪意がないのは理解している。あれで頭が悪いわけでもないので、うっかり誰かに喋るということもないだろう。
ふらっと帰ってくるなら相手すればいいし、二度と会えなくても気にすることでもない。心の空白は、ただ突然の変化に慣れていないだけだ。
「思えばダンジョンに一人は初めてだな、もう四年か……」
ここで目覚めたときから、となりには白天使がいた。
最初はあいつが俺を拉致監禁したのではないかと疑ったが、裏の意図は読み取れなかった。親切なのは俺の警戒を解くためだと邪推しても、あいつには焦りひとつなく、過ごした日々は平凡にすぎた。
「まぁ、ふりかえればいい思い出だったな」
俺は早々に、思い出として割り切ることにした。
ひとりぼっちが寂しい気質ではない。人外になった俺の体と能力ならば、植物のような境地を維持することができた。
人間に見つかるわけにはいかないので、ダンジョンの管理だけはする必要があるが、暇つぶしにはちょうどいいだろう。盆栽を手入れするような、テラリウムを組み立てるような、そういう感覚でダンジョンをいじる。
「パーティー機能は問題なさそうか」
ダンジョンの階層攻略という節目では、追加要素を実装している。
今回は、探索者カードにパーティー機能を追加した。
探索者カードは、ダンジョンでの活動実績を数値化したものだ。第五階層のクリア報酬で実装していたもので、今では身分証明や能力の提示に定着している。
元々は魔石を電子マネーにするDPカードがその役目も担っていたが、そこから枝分かれしたものとなる。現在は探索者カードとDPカードの二枚が、探索者たちにとって必須の携帯品だ。
今回のアップデートだが、探索者カードを実装した時から考えていた。
なぜなら、探索者カードは個人のための機能で、パーティーで活動する探索者たちの実情に即していないからだ。
基本的に探索者は、複数人でダンジョンの攻略をする。元々パーティーを組んだ状態でダンジョンに来ることもあれば、国や貴族が斡旋したりもする。
それらの堅苦しさを嫌う人は、エントランスホールで募集するのが定番だった。お手軽なのだが、それゆえに仲間内のトラブルも生じていた。今回はそこに手を入れることにした。
「あれ? 俺ってこんなに、ひとり言が多かったっけ。いつもは反応するやつがいたから、わからなかったな」
いなくなって初めてわかることがあるというが、そういうものなのかもしれない。とはいえ、こんなものはノイズになるだけだ。不確かな感情を仕舞いこんで、思考をダンジョンの検討に切り替える。
探索者カードに追加した、パーティー機能による変更点は三つ。
パーティーの活動実績項目、パーティーのDP共有制度、マッチング機能だ。
まず、一つ目の、パーティーの活動実績項目。
これは探索者カードの魔物討伐数などの項目を、所属パーティーに広げたものだ。これによりパーティーの実態がわかりやすくなり、パーティーごとの比較も楽になる。
ついで、二つ目の、パーティーのDP共有制度。
これによりパーティーの共同資金をプールすることができる。リーダーはメンバーからDPを徴収して、メンバーの承認のもとで使用することができる。金銭トラブルに多い、貸した・返した・払った・払っていないというものを可視化する。
最後に三つ目の、マッチング機能。
メンバーの募集やその条件が確認できて、パーティー参加を申し込むことができる。逆もまたしかりで、パーティーメンバーの欠員埋めが、素早く正確に行えるようになる。
「パーティー機能が生存率に、貢献してくれるといいが」
もっとも影響が大きいのは、おそらく二つ目のDP共有制度だろう。
DPは譲渡を厳しく制限しているので、これまでは折半や割り勘に対応していなかった。DPの共有ができることで、金銭トラブルを避けつつ、パーティー全体を考えた強化がやりやすくなった。
特に魔術スクロールは高額で、パーティーに一つは欲しいが、個人での購入は難しい。緊急事態に個人所有の魔術スクロールを使用したものの、その費用をパーティー全体で負担するか否かと、争いになったケースさえある。
パーティー機能を通せば、リーダーが勝手に資金を使いこむこともないし、メンバーが払い渋ることもできない。DP不足で未払いになると機能の凍結、DPが貯まり次第の強制徴収など、システムが自動で対処するようにも設定できる。
もちろん集めたDPの使用用途をめぐっての対立は起こりうるが、そこをまとめるのがリーダーや貴族の役割だろう。興味がなければ、徴収するDPを低額にするか、そもそも導入しなければいい。
設定の違いでパーティーの特色が出やすく、自分に適した場所を発見しやすい。今回のアップデートでリーダーの重要性は上がり、パーティーの差別化も進むと思っている。
「これが正解かどうかは、神のみぞ知る、か」
今回はパーティー機能を選んだが、途中で見送った候補も多い。とくに、索敵の自動化は最後まで悩んだ。オートマッピングに魔物の位置を表示すれば、魔物の処理がはかどるだろう。
導入を最後まで検討したが、問題があるので先送りした。魔物の位置をいつでも捕捉できるなら、探索者の索敵技術は育たず、他ダンジョンの脅威への対処が難しくなる。人間を弱体化させたいわけではない。
それに魔物の位置を探索者に開示するのは、魔物への敵対行動にはならなくとも、制限のかかる行為でコストもかかる。また、攻略が加速しすぎると、ダンジョンの難易度の調整も雑になってしまう。導入するには全てが中途半端で、階層攻略の報酬にするには適さなかった。
第七階層が開放されることもあり、いそがしさの中で白天使を思うことはなかった。
名称、漢字、ひらがなのミスなど、誤字報告ありがとうございます。




