48 王子様と眠りの王都
「マスター、まだ監視モニターに張りついているんですか」
「セーフゾーンでの休憩中は、探索者の実態がわかるところだからな」
第六階層の眠りの王都にて、探索者たちが大規模な攻略に乗り出していた。
重要NPCである王子によって、ストーリーイベントが発生しているからだ。
「私は飽きましたし、あとはクリアの時だけ確認できればいいです」
「この革命前夜みたいに、動き出しそうな空気がいいのに」
第六階層のNPCの町では、三か月ほど前からイベント参加者が求められていた。
依頼主はNPCの王子で、百年前に滅びた王都の探索が目的だ。本来なら探索者たちが自発的に行う集団攻略を、NPCに企画させてみたわけだ。
募集は鉄道を利用した現地集合で、月に一度の間隔でおこなわれた。
今回は三度目の挑戦とあって、大勢の探索者がイベントに参加していた。
「あれではお姫様を迎えにいく王子様というより、山賊ですよ」
「そうはいっても、探索者たちに騎士ムーブを強制させるわけにはいかないからなぁ」
「イベント専用の耐性防具を配布すれば、統一感も自然にできると思います! どうですか?」
「うーん、そのあたりは今後に導入できればって感じだな。調整も難しいし、今回はシンプルでいいだろう」
NPCの王子は、勇ましく探索者たちを率いていく。
彼は眠りの王都のセーフゾーンを経由して、いばらの宮殿を目指す。
イベントに参加する利点としては、ギミックでボスが弱体化すること、報酬が上乗せされること、そして道中にもNPCのサポートがあることだ。
NPCは俺の力で、魔物を参考に作り上げた人形だ。動かすのに一苦労で、戦わせることもできないが、サポートくらいはできる。攻撃に巻き込まれると消えてしまうが、魔物から積極的に狙われることはないので、必要以上にNPCを護衛する必要はない。
「探索者の人たちって、NPCを音の鳴るおもちゃだと思っていますよね」
「好奇心があるやつが雑にからんで、バグも探してくれるからわりと助かるよ」
「女性NPCはちゃんと保護しないとダメですよ?」
「ハラスメント行為はちゃんと取りしまってるから、安心しろ」
魔物の出る道中では口数の少ない探索者たちだが、セーフゾーンでは一転して動物園のような騒ぎだ。王子にも平気で話しかけていくので、護衛NPCの休む暇はない。
NPCの歩みは遅いが、セーフゾーンの場所も把握できるので、イベントへの参加が結果的に早道だ。魔物の情報を教えてくれるし、偵察もするし、食事の用意もできる。通常の戦闘には役に立たないが、それ以外は支えられるように設定した。
参加者が増えるほどトラブルが心配になるところだが、暴発する様子はない。第六階層を探索するには実力と仲間が必要なので、露骨な足手まといはいなかった。
「いずれはNPCにも人権を! と言われる日もくるのでしょうか?」
「ああ、NPCに感情が生じて、我々にも人権を! と言い出すパターンか」
「あははっ、私が言いたいのはそっちじゃないですよ、もぅ。でもNPCに反逆されたら、マスターはつるしあげられますね、ふふ」
「なんだよ、そこまで笑うことないだろ。NPCには汚れ仕事もまかせているし、言い逃れはできないな……」
つい近未来SFのような杞憂をしてしまう俺を、白天使が笑う。ただの人形にそれらしい行動をさせているだけなのだが、NPCの完成度が高まるほどに、俺は創造主のような愛着を持ち始めていた。
「それでマスター、今回の攻略は成功しそうですか?」
「人数も増えたし、三度目の正直でボスの討伐までいけるんじゃないか」
普段は他の階層で活動している探索者たちも、眠りの王都に集合しているようだ。
鉄道は活動実績がないと利用できないので、後続組は今回からの合流になる。
「人間にはかなり手ごわい魔物がそろっていると思いますけど、圧倒してますね」
「魔物の出現が追いつかないレベルの混雑は今だけだと思うけど、それなりに人気が持続すればいいな」
第六階層の眠りの王都では、第二階層から魔物を一新し、妖精型になっている。
もちろん魔石の質も強さも、言うまでもなく後者が上だ。スケルトンの規則正しい行動とは違い、妖精たちは町中を自由に動き回る。
火を吹く猟犬ブラックドッグ、首無しの騎士デュラハン、人の精気を吸い取るリャナンシー、泣きわめいて魔物を呼ぶバンシー、物陰の殺人鬼レッドキャップ。個体の強さも十分にあり、探索者は一瞬たりとも気を抜けないだろう。
「あれだけ人数がいたら、立ち回りの工夫もあまり見られませんし、つまらないです」
「上級探索者は魔物との正面戦闘でも勝てるし、それが軍隊じみた協力までしているからな」
接敵は避けられないので、逃走も奇襲もやりやすいように、マップを設計してある。
建物の中はもちろん、外壁と屋根には指が引っかかる出っ張りを多くして、パルクールのように素早く移動できるように細工をした。
今回は活かされる機会はあまりないが、人数が落ち着けば評価も分かるだろう。
建物ごと巻き込むような大規模魔術は使いどころを選ぶので、探索者も細かな工夫はありがたいはずだ。
「都市は見通しが悪くて魔物が多いですし、また競争相手をおとりにする戦術が流行しませんか?」
「犯罪行為の認定をきびしくしたし、ある程度は抑制できると思う。それにここまでこれるやつなら、万が一のための帰還スクロールを持ってるはずだ」
「あっ、そうです、低層とは事情が違いました。そう考えると、力がないことは罪ですね」
「それが罪だったとしても、あっさり切りすてるのは、俺は好きじゃないな」
もしも犯罪者でなくても、自分のパーティーが半壊したら、魔物を他人にすりつけたくもなるだろう。故意に魔物をけしかける事件を、完全に抑えるのは無理だ。
誰もが力を持ち、満たされたなら、平等に幸せになれるのだろうか。
世界平和を願う無知な子どものように、あこがれとともにそう思った。
「マスター、ねぇ、マスター、話聞いてくださいよ」
「悪い、聞いてなかった。なんだって?」
「だから、うじゃうじゃいる妖精型の魔物を駆除して、もう少し見栄えにこだわりましょう。景観がよくないですよ」
「私情が混ざってないか?」
「な、なんのことでしょうか。別に私が妖精嫌いなことは、関係ないですよ」
「妖精もどきの魔物くらいで、目くじらを立てるなよ」
同族嫌悪か知らないが、白天使は妖精とは相性が悪いらしい。そのわりには迷い家のシルキーを無視はするものの、その神棚を作ってくれたりはする。心底無理なわけではなさそうだが、謎である。
「スプリガンくらいなら大人しいし、彫像みたいでかわいげがあって許せますけども……」
「スプリガンは醜悪さならデュラハンと同等……、にらむなよ、一般的な話だ」
第六階層の眠りの王都では、これまで以上に財宝の数も質も向上させた。
その財宝の守護者として、巨人スプリガンを呼び出した。場所に合わせて、体の大きさと重量を変える魔物だ。最大まで巨大化した状態からくり出す一撃はすさまじく、物理的に防ぐことは難しい。
スプリガンは伝承によれば、仲間の妖精や財宝を守る役割を持つという。魔物としては珍しく突撃型ではなく、受動的な行動パターンなので、一見すると大人しい。しかし、縄張りを侵すことでスイッチが入り、殺戮を開始するのは他の魔物と変わらない。
「スプリガンは巣で獲物を待ってるクモっぽさがあって、どことなくかわいいでしょ」
「クモのかわいさが俺には理解できな、わかった、かわいい。だからこぶしを握りしめるのはやめろ、俺は暴力が嫌いだ」
「マスターのこだわりの異界品を、けなげに守ってくれているスプリガンに感謝しましょうね」
「まぁ助かるとは思っているよ」
巨人ながら体の大きさは伸縮自在なので、隙を見てスプリガンが守るお宝を持ち逃げすることは難しい。小柄になると素早さと体の強度が上がるので、むしろより凶悪かもしれない。
討伐の難易度はこれまでの階層主にも負けていない。そのため、戦闘に使えるような武器型の異界品の数々を、スプリガンから高確率で入手可能に設定した。色々とこだわったが、いつ発見されるか楽しみだ。
十字剣フラガラッハ
太陽神ルーが海神から授かったという魔剣型の異界品。
いかなる鎧も鎖もその刃を止めることあたわず、負傷者は癒えぬ傷で絶命する。
対象を斬ることでマナの流れを乱し、魔術と異能の発動を阻害する。
光の剣クラウソラス
銀腕のヌアザが所有する秘宝とも言われる魔剣型の異界品。
何者もこの剣から逃れることはできず、持ち主に勝利をもたらす。
切っ先から光線を放ち、敵を焼く。
棘茨のクラシックケープコート
深緑色の生地に金糸の刺繍が入り込んだ、ケープコ-ト型の異界品。
魔術の才がないものであっても、茨の檻を生みだすことができる。
展開速度はやや遅いが、敵の封じ込めや分断、自衛のためと用途は広い。
「しかし、武器型の異界品の性能はどれもとがってますね。一対一の能力を底上げするものを多く出して、広範囲のものは抑えようという感じですか」
「対多数の異界品があればよろこばれるだろうけど、範囲攻撃はなるべく魔術士の担当ってことにしたいかな」
何でも便利で効率化が進めば幸福度指数が上がるかというと、そうでもない。実装するにしても、代償をつけるか、魔術スクロールのような使い捨ての品にしたいところだ。
「んー、どうせマスターは、戦争で人殺しに利用されたくないんでしょ?」
「効果範囲がせまいなら、調整ミスしても影響力が少ないというだけだ」
「マスターって、わかりやすい性格してますよね」
「この世にわかりやすい人間なんていないぞ。そういうことを言うやつが、無理解なだけだ」
監視モニターをちらりと見ると、王子様が探索者にからまれて、まずそうな保存食を押し付けられていた。王子様が眠り姫を迎えに行く日は、もう少しだ。




