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33 アイテムガチャ

 グレーテルを発見した探索者六人組は、その勢いのままにストーリーイベントを進めている。大蛇の隠れていた大穴から入手したガチャチケットは、すぐさまアイテムボックスに収納された。


「探索者六人に対してガチャチケット一枚だけど、分配(ぶんぱい)とかどうやっているんだろうな」


「固定パーティーなら、月ごとにこまかく調整しているのではないですか?」


「うーん、ダンジョンには鑑定機能があるとはいえ、かなり気を使いそうだな。特にガチャチケットは使う使わないの選択ができるし」


「リーダーにも多少は権限があると思いますけど、基本的にはパトロンの貴族が専門の人員を配置していると思いますよ」


 たしかにリーダーが全ての報酬を切り分けたり、あるいは(ゆず)りあいで決めたりするのは難しい。いっそ割り切って、専門の人材を雇った方が無駄な軋轢(あつれき)が生まれなくていいかもしれない。


 特にガチャチケットは、引いた結果が良くても悪くてもトラブルになりかねない。意見がぶつかりやすいところに、第三者を(かい)するのは合理的だ。



「これまでのクリア報酬ほど騒ぎにはならないけど、ガチャは人気を(かせ)いでいるな」


「エントランスホールのガチャ周辺は、不健全な感じですけどね」


「探索者なんてあれくらい元気な方がちょうどいいだろ、ああ平和なんだなと感じるよ」


「むむ、まぁ現状から悪化しなければ、あれはあれでいいんでしょうか」


 俺はダンジョン攻略を後押ししたいので、階層クリアには報酬を出している。


 第一階層のクリアで、魔術スクロール自動販売機。

 第二階層のクリアで、ダンジョンポイントシステム。

 第三階層五十階突破で、アイテムボックス。


 そして第三階層のクリアで、アイテムガチャを追加したのが、四か月前のことだ。



「やっぱりガチャは、半透明のカプセルがたくさんつまった、巨大な筐体(きょうたい)を用意したかったな」


「景品の大きさもさまざまですから、魔法陣タイプの方が調整も楽ですよ」


「それはそうなんだけど、現実に魔法陣が実体化していると違和感があるというか」


「景品が手に入るという結果はいっしょなのに、そんなに違うものですか?」


 白天使は首をかたむけているが、この感覚は世界で俺にしか理解できないだろう。


 ガチャといえば、景品(けいひん)の入った筐体があって、レバーを回せば出てくるものが一般的だ。しかし、ダンジョンの提供するものは大きさ種類が不揃(ふぞろ)いなので、魔法陣形式にした。


 アイテムガチャのためにエントランスホールを拡張し、会場のステージのように一段高いスペースと、そこに続く階段を一つ用意した。ステージには緻密(ちみつ)な魔法陣が()かれており、その中心にアイテムが出現する。


 アイテムガチャは、宝箱から排出されるアイテムをランダム入手する仕組みだ。ガチャチケットかDPカードでNPCに支払いを済ませると、魔法陣が起動するようになっている。



「さすがにガチャチケットでの利用が大半だが、盛り上がりもあるみたいでよかった」


「演出はぴかぴかして綺麗ですし、見物客も楽しめる要素になりましたね」


 景品の種類やレア度に応じて、魔法陣が立体的に浮かび上がり、発光する演出を追加した。景品はダンジョン機能を利用して物質転移(アポート)しているので、魔法陣はただのサービスだ。


 魔法陣の演出にこだわったのは、見世物としての側面を意識したからだ。実際に挑戦する人が現れると、周囲も見守りはやし立てる様子だった。


 最高レアを引いても秘匿(ひとく)ができないので、そのトラブルはありえるかもしれないと少し心配ではあった。



「白天使は気性的にハマったら怖そうだから、運営側でよかったな」


「私は自制くらいできますし、心配いらないですよ」


「そうか? まぁ俺たちは景品を好きに用意できるしなぁ」


「私は食事と服があればそれでいいので、あのラインナップだと当たり確率が低すぎます」


 アイテムガチャは、種類もごちゃまぜの闇鍋(やみなべ)だ。

 最高レアは一パーセント以下だが、目玉の景品として、異界品や限定の魔術スクロールを排出する。それ以外にも第三階層のクローズドガーデンへの招待券や、販売終了済みの限定品の引換券など、貴重なものも多い。


 フレーバードのティーバッグ、高級チョコセット、携帯トイレ、食品用ラップフィルム、オルゴール、カトラリー、サバイバルキット、オールインワンジェル、フィギア。様々なものを出すので、収支がプラスになることもあるだろう。


 しかし、はずれとして使い道のないものも排出されるので、ギャンブルとしては微妙だろう。なにせ一回のガチャで、中堅探索者の一月の稼ぎが吹き飛ぶDPを持っていかれる。こんなものを利用できるのは、上級探索者か貴族くらいである。



「ガチャはだいたい現状でよさそうだ。白天使になにか思うところはあるか?」


「宝物の重量を減らすという導入理由は、ガチャチケットで達成されましたし、そうですね、ええと、ええと」


 白天使が長考するということは、それらしい問題はなさそうだ。

 そもそも、アイテムガチャは、(もう)けるために追加したわけじゃない。


 ダンジョンの宝箱は、どうしても入れられるものの大きさが限られる。アイテムボックスを所持できない中堅以下の人たちは、宝物を持ち帰るのも大変だからだ。特に家具のような巨大なものは、泣く泣くあきらめるケースさえある。


 しかしガチャチケットなら、ポリマー紙幣(しへい)のように丈夫(じょうぶ)で軽いので、動きに支障(ししょう)がない。探索者の荷物を圧迫しないですむ。これにより、大型のアイテムや割れ物も、遠慮なく用意できるようになった。



「あっ、ひとつ思いつきました!」


「なんだ?」


「使用DPの設定が高いので、そちらに救済措置(そち)があってもいい気はします!」


「ああ、ガチャチケットの利用がメインで、DP支払いの客は重視してなかったからな……。なにかしら考えておく、よくやったな」


 実のところ、いわゆる最低保証や天井機能は、俺とて検討はしていた。しかし、笑顔で得意そうな白天使に野暮(やぼ)なことは言えなかった。


 朝食を食べたばかりだが、俺たちに満腹や飢餓(きが)はないので、報酬にラズベリーソースのワッフルを用意した。温かで香ばしさのあるワッフルと、冷たいアイスクリームとラズベリーの酸味(さんみ)がほどよい品だ。



「ところでガチャにこだわった理由って、本当にそれだけですか? 重量を下げたいならただの商品引換券にすればいいだけで、ガチャである必要あります?」


「そういえばそうだな、気づかなかったよ」


「本当ですか……?」


「まぁまぁ、早くワッフルを食べないと、つけあわせのアイスが溶けるぞ」


 ワッフルをかじりながら半眼(はんがん)の白天使にはバレていそうだが、ガチャは俺のこだわりでもある。しかし、ただ趣味に走っただけではなく、階層攻略の報酬としてのインパクトも考えた結果だ。人間は成功と失敗でかたよりが出た方が熱中するし、悪くない仕上がりになったと思う。


「国家に賭博(とばく)として法規制されても知らないですよ」


「逆に法規制しようとする人が(けむ)たがられるんじゃないか」


 なにせ高レアリティの排出品は、金を積んでもなかなか手に入らない代物だ。高レアのクローズドガーデンへの招待券は、すでにガチャの十倍以上の額で取引された。


 最高レアの異界品は三つ、限定の魔術スクロールは三種類がすでに排出されている。どれも売りに出されていないが、ガチャ一回のDPの百倍の値はつくだろう。



「ガチャ産の異界品は戦闘用がいいのか、それ以外にするか悩むなぁ」


「探索者目線なら魔物退治を加速させる戦闘用ですけど、パトロンからすればそれ以外でもうれしいでしょうね」


 俺たちが普段監視しているのは探索者なので、異界品の中でもシンプルな剣型が反応もよかった。ほかの二つは水質浄化と虫除けの異界品だったので、ダンジョン内では使用場面が見られなかった。



エイドスの剣身(けんしん)

命を奪う本質が込められた(つか)型の異界品。

使い手が握りしめれば、(あわ)く光る仮想の剣身が形成される。

軽くてするどいが耐久性もあり、壊れても再展開できるため継戦(けいせん)にも強い。



「剣型の異界品は自分で使えば足を切りかねないけど、作る分には楽しいから困る」


「調子に乗って表に出せないもの作っちゃダメですよ」


「わかってるって」


「本当ですかぁ?」


 さっそくワッフルを食べ終わった白天使が、のぞきこむように俺の表情を確認する。俺がガチャ実装をごり押ししたものだから、白天使からの信用が落ちているようだ。


 俺は異界品を作ることが好きだが、自分で使うには意味がないとすぐに気づいた。俺に戦闘の才能はないし、魔物だって俺を襲わない。探索者の接近を感知すれば、転移して逃げればいいだけだ。あまり考えたくないが、ダンジョン内なら人殺しだって、自由自在だ。


 俺を殺せるのは国家くらいだが、その国家が敵にならない以上は、必要のない(そな)えをしても意味がない。偽装系の異界品だけは便利そうなので、近々かたちになればいいなと思っている。


 つまり、俺にとって異界品は客寄せアイテムだ。死蔵してしまってはコストがもったいないので、適当なものは作らないようにしている。



「白天使だって、たまに変なものを作るから心配だけどな」


「じゃあ次に変なものを作った方が罰ゲームですね!」


 どうやら白天使には自信があるらしく、咲き(ほこ)る花のような笑顔だった。もっとも、その花はトゲだらけで、触れたら痛い気がする。計画性があまりない白天使と、計画が暴走しがちな俺、わりといい勝負かもしれない。


「そんなこんなで話している間も、探索者がメインストーリーを進めているな」


「この調子なら、第四階層はすぐに突破されそうです」


 朝から叩き起こされて始まった監視だったが、NPCグレーテルの初動は上手くいったようだ。決着も近いだろうし、第五階層の最終調整でいそがしくなりそうだ。

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