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26 第三階層攻略と英雄譚

 探索者が九十九階に足を踏み入れてから、十日が経過していた。


 探索者たちはクローズドガーデンの調査をしつつ、ほどほどにリフレッシュし、立体迷路の攻略も終わらせていた。迷子案内の庭師NPCを知ったことで、この階の迷路には目立った危険がないと感じたようだった。


 老竜攻略のために高層の情報を流したのか、後続も九十九階に到着して百人ほどに増えた。低層や中層では争いが目立った先行組だったが、五十階のキマイラ戦を乗り越え、竜の存在を知ってからは協力関係も強まっていた。


 そんな探索者たちは後続との情報のやり取りをしつつ、最後の調整をしていた。

 そして、とうとうその時がやってきた。



「レイド戦ってこんな感じの盛り上がりなのか、規模がすごいな」


「人数はこれでも物足りないですけど、全員が精鋭かつ劣化した竜相手なら上々です」


「あの竜って死んだように寝ていたけど、本当に起きるんだな。もし永眠してたら、この空気どうしようかと思ってたよ」


「そういうシュールな展開の笑い、私はけっこう好きですよ」


 探索者たちが屋上に突入すると、中央で眠る老竜がその目に入った。

 くすんだ黄金の竜鱗は、いかなる物理も魔術もはじくが、ところどころが剥げ落ちている。大翼の皮膜(ひまく)は片方が裂かれていて、尾は千切(ちぎ)れてさえいる。しかし痛々しさを感じないくらいに、泰然(たいぜん)とした存在感があった。


 陣形を作った探索者たちが老竜のテリトリーに入ると、眠れる竜は起動した。

 久方ぶりの戦いに歓喜するように、隻眼(せきがん)を見開くと侵入者を威圧するべく咆哮(ほうこう)した。



「さあ戦いの始まり……、ってなんだあれ?」


築城(ちくじょう)の異界品を起動したのでしょう。本来は兵士が利用するものを、竜を封じ込めるための(おり)に仕立てた感じですね」


 探索者の一人が、(とりで)のミニチュアを取り出したのが見えた。

 それが光を放つと、地面がせりあがるように動き、竜をいくえにも囲む砦が完成した。

 

 本来の屋上はダンジョン製の白い建材でつくられた、水平な地面が続くだけだ。しかし何もなかったはずの屋上には、たしかな防衛線が出現していた。それは一夜城どころの話ではなく、さながら増設された百一階のようだった。



「地形変化までできるものがあるんだな、スペックで上回る相手に正面戦闘はしたくないってことか」


「迷宮の氾濫(はんらん)に対抗するための切り札の一つでしょうから、価値がつかないほどの貴重品だと思います」


「あれって俺のやっている物質生成みたいなものか?」


「いえ、あれは再現したその場しのぎの偽物です。マナを本物の物質に変換できるのはダンジョンの機能くらいですから」


 それは三日も経過すれば自然崩壊するような、一時的な囲いに過ぎなかった。しかし、短期間ならその強度は本物に並ぶようだった。殺し合いの時間に十分であるなら、物質生成するよりもお手軽で便利かもしれない。


「うーん、とりあえず防戦しつつ様子を見ているが、どうなることやら」


「耐えられるように準備してきたあたり、余裕はありそうです」


 老竜は隻眼で片翼が破れていて、尻尾は半ばで途切れ、鱗は剥げ落ちてさえいる。しかし電車数両分にもなる体長に、十メートルを超える高さ、数百トンは超えていそうな巨体はそれだけで凶器だ。


 史上最大の恐竜を凌駕(りょうが)するサイズと苛烈(かれつ)さ。五十階ボスのキマイラが子猫に思える魔物が暴れまわっているのだから、探索者も必死だった。



「魔術も異界品も大量に使っているな」


「死なないこと、失敗しないことを優先していますね。あれでは竜の魔石を手に入れても、赤字でしょうね」


 魔石を使いすぎるとリターンが減るが、ケチりすぎても代価を命で支払うことになる。パトロンは青息吐息(あおいきといき)かもしれないが、見守る側としては力が入っているのはよろこばしいところだ。


 外部ダンジョン産の異界品を見られるのも、俺にとって色々と刺激になるものだった。


「俺たちのダンジョン産の異界品は、あまり使われていないようだけど」


「数が少ないこともありますが、竜相手は想定してなかったので流石に力不足ですね」


「もっと出力を上げた異界品を用意した方がいいか?」


「あんまりやりすぎるとダンジョン攻略じゃなくて、マスターの嫌いな戦争に使われますよ」


 のんきな俺たちを差し置いて、殺し合いは過熱していた。老竜は囲いを(くだ)いていくが、それでも重厚な防衛壁は崩しきれない。遠距離からの攻撃にいらだった老竜は、何もかもを滅ぼすための準備に入る。


「ブレス準備動作に入ったぞ」


「やや、これはまずいです」


 竜のもたらす滅びの息は、ダンジョンの壁や地面という異界の法則さえも乗り越える。頑丈(がんじょう)につくってある屋上の地面すらも(けず)るので、九十九階に被害がでないように設計するのが大変だったくらいだ。


 しかし、その瞬間を待っていたものがいた。


 (きた)え抜かれた体の探索者が、空中を()けた。

 両手にかまえた大剣が光り、老竜の喉元めがけて軌道(きどう)を描いた。


 くしくも竜は致命傷を避けたが、無骨な大剣はバターのように竜鱗を切り裂いた。



「おしかったな」


「あー、あとちょっとでした!」


 因果の大剣は特攻効果のあるイベントアイテムである。

 参加者全員がボス未討伐の場合にかぎるが、竜の耐性を無視することができる。


 もっと深ければ勝負がついていたかもしれない。しかし、大剣が特攻を発揮することは実証されたし、イベント設定が上手くいったようでひと安心である。


「というかあいつ空を駆けたぞ」


「空中機動の魔術をかけられているのでしょう」


 それは魔法使いが外を飛ぶというより、空を地面と見立てて走っているかのようだった。おそらく一度立ち止まれば、落下するようなリスクあるものなのだろう。しかし足の踏ん張りがきくということは、空でも地面と同様の斬撃をくりだせるということだ。


「面白いな、魔術スクロールに追加してもいいかもしれない」


「量産するとダンジョンも外の世界も破壊されかねないので、慎重に検討しましょう」


 お手軽に空中を歩行できたら、暗殺や窃盗に使われるというのはなんとなくわかる。産出アイテムが強くなりすぎることは避けなければいけないが、ある程度使えるものを出さないと呼び水にならないというジレンマがあった。


「まだ順調だけど、いつ人が死んでもおかしくないな」


「治癒のスクロールも使ってますし、本来の死者数はごまかせている感じですね」


 即死しなければ、治癒や帰還のスクロールで立て直しができる。しかし、巨体な魔物の一撃は、身体強化していようが食らえば即死しかねない。破壊された砦のがれきで潰れることもある。


 この国の歴史でも、竜ほどの魔物との交戦経験は多くないらしい。

 倒せばまさに英雄譚(サーガ)であるが、犠牲も覚悟しなければならない。



「老竜も怒り狂って暴走しだしたし、心臓に悪い展開が続きそうだ」


「ここからが勝負の面白いところじゃないですか」


 ブレスを使えなかった老竜は、切り裂かれた首元を気にしていたが、その痛みは怒りへと変わった。自身に張り付いた有形無形(ゆうけいむけい)の拘束を両翼を広げて吹き飛ばすと、その巨体で探索者ごと破壊せんと突進していた。


「飛べないように弱体化してなかったら、すでに死屍累々(ししるいるい)じゃないか?」


「人間の数と知識と選択肢の多さは強い武器ですが、純粋にスペックが高すぎるものには弱いんですよね」


「まぁ飛んでブレスされたら、どうにもならないからな」


「どうして人間は空を飛ぶこともできないのか不思議です」


 人間の種族限界が、彼らを単騎(たんき)での強者であることを許しはしなかった。俺の目から見ると、地球人とはけた違いの身体スペックを(ほこ)る探索者だが、それでも人間の強みは罠と道具なので接近戦は難しい。


 ダンジョンの力を利用すれば、あるいは人間の限界を超えさせることも可能かもしれない。だがそれは人体改造であり、危険すぎるので要検討だ。




 暴走する老竜によって、囲いはすでに半壊していた。


 探索者たちは疲労困憊(こんぱい)といったありさまだが、老竜も無傷というわけにはいかない。元より傷だらけの体には、真新しい傷が着々とつけられていた。竜鱗が剥げ落ちた場所からは少なからぬ出血があったし、イベントアイテムである大剣のダメージソースも大きかった。


 老竜の勢いはとうに失われていたが、それでもこうべをたれることはない。痛む体で動いている探索者を必死に襲う。そうして吹き飛ばされた探索者が、また一人戦闘不能になった。しかし探索者たちも、ねばり強く戦うことをやめない。


「あの男見覚えがあるな」


「第二階層のボス戦にも参加していた人ですね」


 一人の剣士が老竜の前に飛び出すと、聖なる剣をかざした。

 それはワンアクションで青空をかき消すほどに発光して、老竜を一瞬だけひるませた。


 あまたの魔剣、聖剣であろうとも、竜鱗を前に決定的な傷をつけることはできない。

 しかしその能力をもちいて、補佐(ほさ)することならできた。


「うわ、まぶしいな、目がちかちかしたぞ」


「マスターは貧弱ですねぇ」


「そんなことを言う白天使も、びくりと飛び上がっていただろ」


「目の錯覚ですよ」


 さいわい人外の俺たちは目を焼くこともなく、その後の観察ができた。


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男が矢のような速度で走り、そして空中に跳びあがる。今度は狙いたがわず、竜の喉に因果の大剣を差し込んだ。(つか)の根元まで抵抗なくするりと入り込んだそれは、首の気道と骨を断っていた。


 老竜は一度大きくのけぞって、力を失って倒れこんだ。これまでの暴れようが嘘のように静かになり、動くことはなかった。そしてその身を一抱えもある魔石に転じた。


 探索者たちは竜殺しを達成した。

 ありえざる塔の頂上で、勝利の歓声は天まで届くようだった。



「マスター! やりましたね!」


「ああ、そうだな」


 俺は少しの引っかかりを心にしまって、笑顔の白天使と勢いよくハイタッチした。

 死者は、たったの四人だった。


 探索者たちは疲れた体にむち打ち、ひしゃげた装備を回収した。原形をとどめていない遺体から髪を少しだけ切り取り、祈りをささげて火と風の魔術で焼き払った。


 かすかに立ちのぼった(けむり)が、青空に溶けて(はかな)く消えた。



『第三階層《天高きバベルの塔》の攻略を確認しました』


『クリア報酬として、アイテムガチャがエントランスホールに設置されました』


『第四階層《キャンディハウスと花の雨》開放権限を自動販売機に追加します』

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