表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/59

25 クローズドガーデンとスカイレストラン

 ダンジョンの誕生から、二年と三か月が経過していた。

 季節は真冬だが、ダンジョン内の熱気は最高潮(さいこうちょう)に達しつつあった。


 先行組の到達(とうたつ)階は九十を突破し、第三階層のクリアが目前にせまっていた。最初は死傷者も多くて不安だったが、少しずつ順応(じゅんのう)していく探索者の姿は、たくましいものだった。俺たちはそれを、とある階層の一室から見守っていた。



「マスター、九十九階に探索者が来ましたよ!」


「おお、それは観察したい」


 九十九階、閉ざされた庭園(クローズドガーデン)

 その名の通りに、立体迷路の庭園が大部分を占める階だった。


 どこまでも続く造花と人工植物、水路と石材の迷路は、そなえもなく侵入すれば抜け出せなくなる。動かない人間を救出するように庭師NPCを設定してあるが、迷子は気が気ではないだろう。


 クローズドガーデンの全てはセーフゾーンで、魔物が一匹もいないご褒美MAPだ。

 そして攻略に関係がないので、その全てを無視しても問題ない。



「すぐに屋上には行かないみたいだな」


「無視するには色々と気にかかる光景なのでしょう」


「まぁ先に調べるか、後で調べるかの違いか」


 いざ九十九階に侵入すれば、探索者の目の前には屋上への階段がある。

 その階段を上がるだけで攻略は完了だ。


 クローズドガーデンはただの寄り道で、疲れを(いや)すための空間というコンセプトで作りこんだ。のんびり遊んでギミックを発見できれば、貴重な宝物や異界品が手に入るだろう。


 階段のそばには英気(えいき)(やしな)うためのスカイレストランとログハウスがある。一階の自動販売機では出さないような高めの料理や、お試しで一度出したきりなものも提供されることになる。



「まずスカイレストランに入りました。お昼前ですし、何か食べていってほしいですね」


「やたらと警戒しているようだが、大丈夫か?」


「彼らはあそこに魔物がいないと知らないですから、擬態(ぎたい)した何かが隠れていると思っているのでしょう」


「そういえば階の全てがセーフゾーンなのは初めてだったな。NPCに説明させても、言葉通りに受け取るわけがないか」


 九十九階に足を踏み入れたのは、二十名の合同パーティーだった。

 そんな彼らのうちの十名は、スカイレストランで給仕(きゅうじ)NPCにハイテンションでからんでいた。好奇心の強いものは大窓に両手を当てて、水天一碧(すいてんいっぺき)の絶景に騒いでいる。


 しかし、苛烈(かれつ)な九十階以降を乗り越えてきただけあって、探索者の警戒心も高かった。残りの十名は内外の警戒を担当していて、無駄な動きを見せない。


 優れた探索者は思い切りがよく、その言動は陽気にも冷徹にもなる。スイッチのように一瞬でオンオフが切り替わるのは、機械的にも見えて不思議だった。



「流石にウェイターに斬りかかったり、拘束したりはしなかったな」


「もうNPCはそういうものと認識されているふしがありますね」


「NPCが手足を縛られる時代があったなんて嘘のようだ」


「ふふ、あれは絵面(えづら)が犯罪の一場面のようで面白かったです」


 白天使とNPCの昔話をしていると、ちょうど給仕NPC二人がワゴンにのせた料理を、ラウンドテーブルに配膳(はいぜん)していくところだった。調理時間がゼロなのでファーストフードも顔負けだ。


「かなり高額DPになるが、支払えるだけの現場権限と財力もあるみたいだな」


「経費でタダで食べられるなんて、うらやましい限りです」


 白天使はいつも好きなように食べているだろうと思ったが、それとこれは別だと言いそうなので無視する。スカイレストランには自動販売機の十倍はするものもあるが、値段分の味は保証されていた。


「NPCにお任せにしたら中華料理になったみたいだ。普段食べている料理とはかなり違いそうだが、問題ないだろうか?」


「問題ないに決まってますよ! 私たちも昼は中華にしましょう、蒸し料理がもっちりしていて好きです」


「俺は炒め物やフカヒレスープが好きだな……、いやそういう話を今するのか?」


「デザートはシュークリーム失敗作です、生地をいかにふくらませるかの実験をしているので!」


「そこは洋風なのか」


 侵入した探索者たちは、わいわい言いながら未知の料理を食べ比べている。

 花椒(かしょう)と唐辛子たっぷりの品を当てたやつがさわいでいるが、毒とまでは思ってないあたり、ダンジョンはそれなりに信頼を得ているらしい。さわぎを無視してNPCに食器やインテリアの購入ができないかを聞くものもいて、なんとも自由なことだ。


「持ち帰り品は胡麻(ごま)団子を選んだみたいだな」


「あれは出来立てがおいしいので、ちょっともったいないですね」


「冷えても美味いと思うぞ」


「それはそうですけど、香ばしさがあった方がいいと思います」


 俺は食事の温度などそこまで気にならないが、反論はやめておく。探索者だって、気になればあたためるだろう。


 持ち帰り品はアイテムボックスにつめこまれても困るので、注文数制限をかけてある。ここまで来れる探索者なら、食事をデリバリーしなくても稼げるが念のためだ。余った料理を隠して持って帰るくらいならいいが、大量にやりだしたら出禁だ。


「警戒してたやつらは結局スカイレストランで食べないのか」


遅効性(ちこうせい)の毒でもあったら全員行動不能になりますから、当然でしょう」


 食後に一服(いっぷく)したあと、彼らは警戒役を交代した。料理を食べなかった人たちは、アイテムボックスから携帯食料を持ち出してかじっていた。


 彼らも興味はあったのか、ここの料理はエントランスホールの自販機に追加されないのかとNPCに質問していた。その返答はノーなので残念がっていた。



「ログハウスに向かってるけど、メインストーリーの条件はもう満たしてたよな?」


「イベントアイテムを持っているチームですから進行しますね」


 ログハウスの管理人NPCが、おもむろに昔話を始める。


 かつて竜に滅ぼされた大国の騎士が、復讐のためにその巣を探して世界をめぐった。彼はやがて、執念(しゅうねん)で塔の頂きにたどり着いたという。騎士は竜の目をえぐり、尾を切り取り、大翼を裂いた。しかし力(およ)ばず、深手を負い亡くなった。


 騎士の残した大剣はどれだけ時が経過しようとも、持ち主の執念を覚えている。

 竜の息の根を止めるその日を、静かに待っているのだ。



「この様子だとログハウスも利用してくれるか不明だな」


「泊まりでバカンスという雰囲気になるには、時間がかかりそうですね」


 別に泊まってもイベントは何もないが、二十棟を作りこんだ。白天使と俺の使った家もあるので大事にしてほしいが、あまり調べられても俺たちの存在がバレかねないのが悩ましい。


 俺と白天使は髪の毛も落ちないのでバレないとは思うが、もし痕跡(こんせき)を見つけたら、妖精が暮らしていたとでも思ってくれるだろうか。



「せっかく休憩場所に作ったけど、ここがにぎわうのはいつになるやら」


「利用人数を増やすなら、五十階あたりに作ってもよかったんじゃないですか?」


「秘密基地のようにしたかったんだけど、やりすぎたな」


 選ばれた者のみが立ち入れるというのも魅力の一つで、高層攻略のモチベーションになればいいなと思っていた。しかし、九十九階はさすがに高層すぎたようだ。


「ここまで来れるのは上澄うわずみの探索者だけですから、条件を緩和(かんわ)してもいいかもしれませんね」


「それはたしかにそうだ」


 第三階層の攻略も最終盤だが、探索者の居場所はかたよっている。

 三十階未満に大半がいて過密状態で、中堅は四十階以降を堅実に進めている。


 最上位の腕利きは九十階以上に乗り込んでいるが、そんな体力のあるものなど百人もいない。異界品や魔術スクロールも多用して、強引に突破してきたのだ。



「クリア後に九十九階直通のエレベーターを追加して、利用権限をチケットの形で宝箱から出すか?」


「それはいい案です! 私が苦労して作った庭園を、きっと色んな人が楽しむのでしょうね!」


「庭園を焼け野原にされても泣かないでくれよ」


「むむ、それもまた迷路の解法のひとつ……。時間をかけたものが壊れていくさまは、ある種の芸術なのでは?」


 庭園には番人となる魔物でも配置しようかと悩んだが、自由にすることにした。この階層が壊されたとしても、よほどのことがない限りは干渉しない。


 魔物のいないエントランスホールがいつのまにかホテルのようにされたことを思えば、更地にされる可能性はあった。



 探索者一行は、ある程度の施設を確認し終えると、おそるおそる階段を上がっていった。そして屋上で眠る老竜を遠目に確認して、さっさとクローズドガーデンに撤退してきた。流石に準備もなしに竜退治はできなかったらしい。


 あれこれと話し合って、彼らはクローズドガーデンの調査続行に踏み切った。魔物が出現することは一切ないが、それを確信するまで彼らの緊張は続きそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ