表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/59

10 教会とカレイドスコープ

 第二階層の攻略開始から、二週間が経過していた。


 その間のダンジョン運営は順調で、独立大隊はマッピングと魔術スクロールの交換に(せい)を出していた。外からは食料を(ふく)めた支援物資が届くが、その中には毎度のごとく、大量の魔石がびっしりつめ込まれている。


「あの人たち、正体不明のダンジョンに魔石を放りこむなんて、勇気がありますよね」


「俺としてはありがたいが、この状況が続いて魔石の相場が荒れないか心配だ」


「ふむ、いずれは避けられないことだと思いますよ」


「やっぱりそうだよな」


 白天使は食堂のすみのソファーベッドに寝転がったまま、相槌(あいづち)を打つ。俺はというと、石のテーブルに紙の資料を並べながら、監視モニターを見る。頭の中だけでも処理できるが、意外とアナログな方法も捨てたものではない。


「しかし、あんなに魔術スクロールを必要とするものなんですかね? そんなに在庫を増やしたいのでしょうか?」


「入手できるうちに仕入れておきたいのかもしれないし、転売することを見越(みこ)しているとも考えられるな」


「人間は考えることが多くて大変です」


「まったくだよ」


 高価な魔術スクロールがこれだけ求められるのだから、他国にも流す気なのかもしれない。俺としては、魔術スクロールは軍事機密として秘匿(ひとく)されると思っていた。ごまかしが()かなくなってから動くと予想していたが、そうでもないようだ。


 おそらく軍からの常時配備(じょうじはいび)の突き上げが強く、それに配慮(はいりょ)したのだろう。軍人は死にたくないから、生存率を上げる魔術スクロールをこっそり使うなんて認めたくない。


 そうなると周辺国にもバレるので、いっそ最初から売りさばくことも選択肢として考えているとすれば自然だ。その強気な判断が通る時点で、きっとこの国は強者の地位で安定しているのだろう。



「おっ、やっと第二階層に本腰入れるみたいだな。第一階層から人が減ってるぞ」


「もっと魔物の処理に本気になってほしいですよね」


 魔物の処理をきっちりしてもらわないと、いつかはダンジョンが崩壊して、内部から魔物があふれ出る。しかし俺が個体数を調整しているものだから、外の連中(れんちゅう)にさほど危機感はないらしい。


 第一階層のスライムは毎日大量に処理されるが、第二階層のスケルトンはさほど討伐(とうばつ)されていない。第一階層の調査もある程度落ち着いたようなので、これからに期待したい。


正直(しょうじき)に言うと、洞窟のマッピングをここまで優先するとは思わなかった」


「あれだけ大幅(おおはば)にリニューアルすれば、それは調査を優先しますよ。第一階層はエントランスホールに直結(ちょっけつ)しているんですから、未知の危機があれば怖いじゃないですか」


「第二階層だってポータルでエントランスホールに繋がっているんだから、調査を優先してほしいよ」


 どうやら第二階層に挑戦した初日に、無限湧きのスケルトンに囲まれたうえに、武装した上位種が出てきたのがよほど嫌だったらしい。一当(ひとあ)てして上位種が来たら逃げるをくりかえすだけでも、割と安全に(かせ)げるはずなんだが、調整をミスったようだ。


「それにしても、第一階層の隠し空間は見つけられなかったみたいですね。反応を確認するのが楽しみだったので、残念です」


「ああいうのは何年後かに見つかるくらいで、ちょうどいいだろう」


 隠し部屋は軍の調査もたどり着いていない奥にある。マッピングが途中で打ち切られたので、民間が見つけるなんてこともあるのかもしれない。


 そうなれば調査担当者はお説教をくらうかもしれないが、全体としては盛り上がるだろう。組織力のあるチームが一人勝ちで全てを持っていったら、意外性がなくてつまらない。


「第二階層でも帰還スクロールが使用できる確認が取れましたし、多少は大胆(だいたん)に調査してくれそうですね」


「ああ、誤作動しないとは知っていたけど、実際に使う兵士はひやひやしただろうな」


 帰還スクロールは、一言でいえば、ダンジョンから脱出するためのものだ。しかし、高コストになるだけあって面倒だった。なにせ他のダンジョンでも使えなければ、目玉にはならない。


 帰還スクロールには、ダンジョンの入口判定機能、使用者登録とその位置情報判定機能、空間に割り込む形で対象を転移させる機能を複合させた。


 転移した先で壁や地面と合体することがないように、セーフティーを取り付けるのにも苦労した。入口が埋め立てられていたり、人で混雑(こんざつ)していたら起動できないのが弱点だが、その辺の検証と対策はあちらにお願いしたい。



「しかし教会の罠には引っかからなかったのに、どうして宿泊施設の罠に引っかかったのか不思議だ」


「あれは引っかかっても仕方ないですよ」


 廃墟(はいきょ)一角(いっかく)にたたずむ宿に、もはや生存者などいない。しかし鍵のかかった部屋を突破(とっぱ)すれば、かつての客が元気に出迎えてくれる。それを返り討ちにすることで、異国の通貨や物資を入手することもできる。


 しかし客から荷物を奪えば、付近の哨戒(しょうかい)が一定時間アクティブになるため、手間取れば魔物に囲まれる。犯罪行為に(きび)しいのがこの城塞都市であり、リターンを得るにはリスクが必要だった。


 部屋を用心(ようじん)深く荒らして逃走が遅れた彼らは、宿ごと包囲されてしまった。

 そこで実験がてら、帰還スクロールを発動したわけである。



「教会に行った部隊は大人しいやつがそろっていたな」


気質(きしつ)の問題じゃなくて、合理的に考えて何もできなかったんだと思います」


 教会には妖精をモチーフにした大型ステンドグラスがはめ込まれていて、夕日を()びてかがやいていた。俺はそれが壊されてしまう気がして、そこに魔物の鎧騎士(リビングメイル)を護衛として複数設置していた。物音や暴力に反応して暴れだすという、非アクティブに見えて危険な魔物だ。


「教会に設置してから思ったが、待ち伏せや擬態(ぎたい)型の魔物はもう出さない方がいいかもしれない」


「リビングメイルは動きが(にぶ)いとはいえ、魔物が先手を取ると探索者が不利すぎますからね」


「彼らが物音をたてなかったのも、奇襲を警戒していたんだろうなぁ」


「それで実際に奇襲を回避したので、いい判断です」


 プロが潜入調査中に、不必要な音をたてるわけがなかった。彼らは高い位置にあり、持ち帰り困難なステンドグラスに執着(しゅうちゃく)しなかった。


 リビングメイルにおそるおそる近づいて、触ったりもしていた。しかし強引に装備を()ごうとしなかったために、何も起きなかった。


「ここで見つかった宝物ってどこに流れ着くんだろう」


「まず解析を行うでしょうが、その先はダンジョンの管轄(かんかつ)がどこかにもよるんじゃないです?」


「この地はもういっぱしの貴族に治められるものじゃないよな」


「そのときは首が飛ぶだけですよ。教会で見つけた宝物も、争いの元になるかもしれないと思うと、皮肉ですよね」


 教会に潜入した精鋭たちは、黙々(もくもく)と教会内を調べたが、わかりやすい成果はなかった。そんな中で、ひざまずいて祭壇(さいだん)を調べる者がいた。彼が偶然に、祭壇を前にして身をかがめるという条件を満たしたために、祭壇上に宝物が出現した。


 それは万華鏡(まんげきょう)、カレイドスコープだった。


 円筒(えんとう)をのぞき込めば、さながら光の魔術のような変化が見られる娯楽(ごらく)道具だ。オイルセルタイプでビーズを使った、味わい深い一品になった。


 この祭壇のギミックは、クールタイムのあるアイテム入手方法になる。

 そのため、連続して二つ三つと何かをもらえることはない。しかし、教会にはあと何パターンか宝箱を仕込んである。魔物を狩った方が稼げると思うが、気になるものは色々試すかもしれない。



「万華鏡はお土産やお見舞いの品にもいいし、争うことなく誰かに楽しんでほしいよ」


「それなら私たちも楽しみつつ、もっとたくさん作りましょう! 私は透明度のある宝石を入れたいです!」


「白天使は贅沢(ぜいたく)なやつだな、俺は造花(ぞうか)を試してみたいところだ」


 宝箱に入れる物には悩んだが、ほどほどに単純なものとして万華鏡を用意した。


 複雑すぎるものを出すのはコストもかかるし、あちらも使いこなせないだろう。電子機器を出してリバースエンジニアリングされても困る。機械の解析(かいせき)や部品調達は困難だが、数十年後にはどうなるかわからない。


「そういえば、彼らは万華鏡に(よろこ)んでいたようですが、よかったのですか?」


「何がだ?」


「万華鏡を外に出しても問題はないです。しかし、使った材質の方は検証していなかった気がします」


「たしかに」


 白天使からこの世界に万華鏡が存在すると確認を取って、特に考えずに万華鏡を出した。材質のスパッタリングミラーやアクリル樹脂(じゅし)がこの世にあるかまで考えなかった。次はスノードームでも出したら盛り上がるかな、とのんきなことを考えていた始末(しまつ)だ。


 思考が一瞬止まって、それから急加速する。

 ぐるぐると考えを(めぐ)らせて、考えても仕方ないなとあきらめた。


「まぁ少量だし、直近(ちょっきん)に問題なければ別にいいんじゃないか。もしダンジョン産の物質をヒントに何かを得られたなら、それは技術者を素直に()めたいよ」


「マスターってポンコツですね」


「白天使に言われるなんて、心外だな」


 どちらがポンコツかと無駄な口喧嘩(くちげんか)をするはめになって、最終的に晩ごはんの選択権を持っていかれてしまった。別にどうでもいいことにむきになってしまったあたり、俺の精神年齢はわりと低いのかもしれない。白天使の影響を受けてポンコツになりたくないものだ。


「で、結局のところ兵舎(へいしゃ)には近寄らなかった感じか」


(すき)がなくて、つついたら外に出るまで追ってきますから、小人数で無理はできませんよ」


「まぁこれから第一階層の調査組が合流するし、第二階層の状況が動くのは時間の問題だな」


 今後へのリスクを考えて、これまで兵舎には手を出さなかったようだ。しかし、これからは激しいぶつかりが見られるだろう。


「じゃあ第三階層を作って移住するか」


「はーい!」


「ふりかえってみれば、ここは夕暮れが綺麗で、居心地は悪くなかったなぁ」


「えー、絶対に新居の方が百倍は過ごしやすいですって」


 これ以上城館に(とど)まれば、見つかって面倒なことになる。第三階層に繋がるポータルは、彼らが捜索(そうさく)済みの民家の屋根裏にでもこっそり置いておこう。


 着々(ちゃくちゃく)と彼らの手が、城館に近づいている。

 城塞都市というにはあまりに巨大だったが、第二階層のクリアは近い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ