お口にチャックは難しい
私が先陣を切ったことで、他の子たちも動けるようになったのか、次々挨拶をしていく。
全員の挨拶が終わると王子も席に促され、リスティア夫人のお茶会開催の声がかかり、公爵家の洗練された侍女たちによりお茶がサーブされお茶菓子が並べられていく。
花のティーパーティとは、素敵な言いまわしで、美しく草花が配置された庭を眺めつつ、花をイメージしたとわかるテーブルセッティングにお茶菓子の彩り。
夫人とはこういう催しを開く、という見本のような素晴らしい場が提供されている。
よくお母さまが言っている、『会のセンスが家のセンス』というけれど、こういう場に来て慣れてくるとそう言わしめる関係性があるのかもしれない。
ただただゆっくり端でじっと過ごしていると、徐々に子ども達もお互いに移動して話したりなど自由になってきた。
その中でも目立つ人だかりは王子の周辺。
大半は一言でも話したい、程度だろうけれど、大人たちとしては将来的に友人になってほしいのだろうな。
そろそろ、日差しで疲れを感じてきたからお母さまに声をかけるべき頃合いかもしれない。
ふとお母さまの席を見ようと視線を上げると、私のすぐ横に人が来た。
自信が満ち溢れていることが見受けられ、おそらく年齢の割に体格が良い方であろう男の子。
「やぁ、レディ。退屈しているのかい?」
周りに人はいないし、私のことらしい。
退屈していないけれど。対応はしないといけないのが面倒くさい。
こういう時は、家庭教師に教わった笑顔と首をかしげる動作ね。
「私のことでしょうか?」
「その通り、麗しのレディ。良ければお名前をうかがっても?」
「…アレクシア・ディクスと申します。以後お見知りおきを。」
「僕はフーリオ・プリシナ。プリシナ伯爵家次男だ。よろしく。プリシナ領は知っているかい?王都から西にあるんだけれど…」
自分が話したいだけだったのか、続けて話すけれど、私は聞き逃せなかった。
「正確には王都から見て南西ですね。」
「えっ?ああ、まぁ正確に言うとそうだね。プリシナのシーナは有名な観光街だから是非来ると良いよ。」
「観光で有名な町はカリクスもあったかと。」
「ああ、そうか。そうかな。シーナの方が有名だけれどね。」
私はむっとしてつい口に出してしまった。
「カリスクは観光だけでなく毛織物もありプリシナ領屈指ではありませんか。シーナは有名ですが高地の生活をパフォーマンス的に見られるという形の観光でしたよね」
「へっ?あー…」
へへ、いや…といってフーリオさんとやらは下がっていった。
自領の誤った情報を吹聴するかのように軽く口に出すなんて、嫌な感じだったわ。
かといって、また家庭教師に『令嬢なんですから、お口にチャックです』と言われるのも好きではない。
耐えるか注意されるか…でも、耐えられないわ、あんな大間違いの話なんて。
ふと周囲を見ると、少なくとも近くに居た方たちに見られていたみたい。
顔を向けると一様に元の会話に戻っていったようですけれど、いらぬ視線を集めてしまったようだった。
ちょうどお母さまも気づいてくれたのかわざわざ来てくれたので、良いタイミングということにしておこう。
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