培ってきた信頼
フーリオ様のお誘いなのか挑発なのかわからない言葉は声が小さい訳でもなく、いつからか静かになった教室にいる人には聞こえていると思う。
私が本を好きなことは周知の事実だろうに、どうしてこうも嫌な気持ちにさせる言葉を選んでくるのだろう。
「フーリオ殿。」
「アルヴィ殿。どうかされましたか?」
「アレクシア嬢に明日、一緒に図書室に行こうと誘っていたんだ。私が借りたがっていた本があったらしくてね、場所を教えてくれるということで。」
アルヴィ様は、私がさっき渡したメモを持っているはず。
助け船を出してくれたのね
「それに、学園に居る間しか図書室で本を借りられないからね。膨大な量の知識と取り込もうと真面目な一生徒に、女性かどうかという話をするのはナンセンスでは?」
「知識なんて学園卒業すれば大抵の令嬢は結婚するのですから、最低限で良いでしょう。それよりも隣に居て夫にふさわしい身なりやセンスを磨く方が大事では?」
アルヴィ様の言い方に機嫌を損ねたのか、フーリオ様の声が強くなる。
「大体、本ばかり読んでいる女性では頭でっかちになって可愛くないでしょう。美しく成長するためには流行も知らねば。」
「なんて言い方。聞き捨てなりません。」
別の所から聞こえてきたのはヴィヴィアン嬢の怒りの爆発だった。
「フーリオ・プリシナ様。貴方、次男とはいえ伯爵家の人間でありながら、よくまぁそういうことを言えますわね。令嬢だから流行をよく知らなければならない、令嬢だから頭が空っぽで構わない、そういう教育を受けてこられましたの?この国には女性騎士もいれば、女性の働き手も山ほどおります。そういった人たちを否定して愉悦に浸るその様、あさましすぎます。そもそもプリシナ伯爵夫人は観光業に力を入れるために、街の外観や機能性について率先して学び意見を出す等、しっかりと考えのある女性として有名であるというのに恥ずかしくありません?本を読むからどうのとか以前に、人にかける言葉としての正解が全く見つかりませんね。どうぞ図書室で言葉遣い大全でも借りてきて熟読なさってください。」
美しく背がスラっと高いヴィヴィアン様の勢いよく早口でまくし立てていく迫力はすさまじい。
一気に話しつくすと、失礼、と言ってフィアン様とマクセス様のいる出入口に向かい、帰っていく。
かっこいいわ。
そして、ヴィヴィアン嬢の言葉でとってもスッキリした。
さっきのモヤモヤが嘘みたい。
「な…何なんだ…。」
あまりの剣幕に驚きが強すぎるのかフーリオ様は茫然とした様子。
背中に当てられた手に気づくと、アルヴィ様がすぐ隣にいていつも通りに微笑んでくれる。
でも、正面に顔を向けたその横顔は、怒っているみたい。
「フーリオ殿。君の価値観はそういうものだということで構わない。同じ考えの人間もいるだろう。ただ、多数の人間がいる場で何かを貶める言い方には注意した方が良いのじゃないかな。少なくとも君の意見は私にとって非常に不愉快で嫌な気分になった。私の気持ちの問題は君に関係ないだろうけれど、好まれたい相手がいるなら口に出す言葉は気を付けた方が良いと忠告だけしておくよ。それじゃ、失礼する。」
フーリオ様に有無を言わせず教室を出ていくアルヴィ様のエスコートの手は優しい。
彼は私の何をも、否定しない。
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