合格から入学前日
3日前に試験が終わってから、私といえばずっと読書三昧。
そして、しばらくぶりに論文を書いてみたりしている。
単純に言えば自国内の食変化やその文化への影響について。
試験の結果も日程の知らせと同様、お父さまに届けられる。
この後の夕食で知らされる予定だけれど、いざ直前になると少しドキドキするわね。
「エリシオの結果は明日出るのよね?」
「はい、そうですね。」
もう一日、ドキドキする時間があるのね。
「お嬢様は、私の受験について、何も思われないのですか。」
「え?どうして?学びたいから行くのでしょう?貴方の自由よ。」
変な質問するのね。
まぁ、従僕の受験を当日まで知らなかった私の方が問題かもしれない。
「そうですか。」
エリシオは考え込むようにそこから黙ってしまったけれど、やっぱり主としてまずいわよね。
でもお父さまも教えてくれなかったし、わかりようも無い気がするし。
「アレクシア、問題なくクラスAで入学できたね。」
「おめでとう、流石ね、シア。」
お父さまもお母さまも心から喜んでくれている。
クラスAということは少なくとも1年生の間はエリシオと同じクラスにはなれない。
平民の推薦受験はどれほど成績が良くてもクラスBまでしか入れないから。
差別感もあるけれど、クラスAに入れる人は高位貴族が多く、意識も高い。
家格の差異をどれほど埋めようとしても、学園のその理念に沿うためには上の者も下の者も曖昧な時間が必要となる、というわけね。
「明日はエリシオの結果発表よね」
「そう、だね。うん。エリシオも受験していたんだ。本人から聞いたのかい?」
お父さまは少し気まずそうにして答えてくれる。
「ええ。受験の日に一緒に行って、受験場所に行く直前に教えてくれたわ。」
「そうか。すまない。隠していたわけでは…いや、隠してはいたんだが、エリシオの受験はまずかったかな?」
「え?どうして?エリシオもどう思うか聞いてきたけれど、別に学びたい人に門戸は開かれるべきだと思うわ。個人の自由だもの。」
私ってそれほどに狭量に見えているのかもしれない。
そう思うと少し気持ちが落ちちゃうけれど、そういう評価であることを入学前に知れたことは良い事よね。
無事にエリシオもクラスB-2に入学が決まり、準備万端な8月19日。
太陽の強さもまだ健在なので、室内でヴィアルド様とのお茶会。
試験前からお互い忙しいため会えていなかったのよね。
「アレクシア嬢、体調は大丈夫?明日は入学式だけれど。」
「大丈夫です。この通り、随分元気ですよ。」
私の返答と顔色を見て、安心してくれたみたいに笑う。
「それなら良い。エリシオが向こうの、君に見えない位置から凄い形相で見てくるから、アレクシア嬢の体調が悪いのに無理をさせているのか気になったんだ。」
ちらっと私の奥を見るとヴィアルド様は何でもない雑談をしているように笑って話し続ける。
「それでも学園入学後も続いてしまうとアレクシア嬢自身に関わる噂でも立つと面倒ごとに繋がりかねないから悩ましいところだね。」
「噂…。」
変な噂。エリシオが私に恨みを抱いているとかかしら。
「まぁ、入学後に見かけたら私も助言くらいはできるけれど…ああいう表情が今日だけなら良いね。」
明日入学式なのに、見てもいない表情には注意も出来ないし、噂も嫌だし、困るわね。
その夜、お父さまに私とエリシオ、一緒に呼ばれた。
「何かありましたか、お父さま?」
真面目な様子のお父様に私の背筋もいつも以上に伸びてしまうわ。
「今日呼んだ理由だけれど、明日からの学園入学に伴って考えていたことがあってね。」
お父さまの次の言葉を待つ間、室内に普段は無い静けさが落ちる。
「エリシオ、君にアレクシアの従僕から外れてもらう。」
「え」
驚いたのは私。急にどうしたのかしら。
同学年で学園に入るからかな。
「エリシオは理由がわかるね?」
珍しくエリシオが何も答えずにいるから顔を見上げると眉根を寄せている。
「お父さま、やっぱり同学年で学園に入るのに主と従僕という立場が良くないからということ?」
「うーん、そこが直接的にダメなわけではないよ。」
立場が問題ではない?
「アレクシアは気づいていないと思うけれど、以前から…最近は特に、アレクシアと近い距離に来る者に対してあからさまに態度や表情が悪い。」
「えっ」
それってヴィアルド様が言っていた表情の話しよね。
「そういう態度は、学園入学後に相互の家格や人物を知る人間が増えていく中でアレクシアの足を引っ張るものだ。それがわかっていて今でも直せていない以上、当家従者見習いとして降格させてもらう。」
「…わかりました。」
「アレクシアも、明日から入学なのに申し訳ないが、わかってくれるね?」
「私の不行き届きでした。お父さまにもご負担を…申し訳ございません。お父さまの決定に従います。」
私が気づいていれば、直させることもできただろうに。
お父さまに入学前日まで時間を頂いていたのだと思うと私の不甲斐なさが明確になってしまったわね。
お父さまの部屋を出て、すぐにエリシオに声をかける。
「ごめんなさいね、私の力不足で折角の立場を無くさせてしまって。」
「どうしてお嬢様が謝るのですか。全て、私の問題です。」
エリシオはこちらを向かない。
そのままエリシオは歩きだしてしまい、きちんと話せもしなかった。
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