尋問
どういうことかしら?
家格も聞いたし…王子様であることとか?
それともユーゼス伯爵なんて聞いたことがないから、新興貴族なのかもしれない。そうなると派閥とかかしら?
こんな堂々昼間に面と向かって話すこと?
疑問符を飛ばす私に気づいた2人が笑って説明してくれる。
「シア。ユーゼス伯爵というのは新興貴族なわけではないのよ。それに、アルヴィ王子殿下の話をしたいのでもないから安心してね。」
「私は派閥には入っていないんだ。情報が少ない私に対する不信感をぬぐって頂かないと、君と本の話も出来なくなってしまう。それは他に友人がいない私にとって大きな損失だし…信ぴょう性もわからない情報を探るのも精査するのも無駄が多くなるからね。私がなんにでもお答えする方が、アレクシア嬢との友人関係を維持できるかと思っているというわけです。」
後半はお母さまに向かって話しているみたい。
でも、そう、ヴィアルド様にとっても最初の友人なのね、私。
最初の友人が同じ物について話せる相手だったというのは凄い事よね。
少しだけ自然と口角が上がってしまうのを隠すためにお茶を口に入れる。
「そういうことですか。無礼があっても不問ということでよろしいですか?」
「同じ伯爵家同士です。それに全員聞こえない距離に離していただいたようですし。」
少し危険な物言いの美人の迫力って凄いのね。
それに、言われてみればさっきより遠くに皆がいる。
これくらいが見えないわけではないけれど声は聞こえない距離なのね。
「では…、爵位はどのように継がれたので?」
「遠い昔に途絶えた伯爵家です。文化院の傍らで文官として真面目に成果を上げた上で、継承権破棄後の立場として戴きました。平民は不可と言われたもので。」
それは王子殿下の話に入ってしまっているのでは?
「ユーゼス伯爵はどのようなお仕事を?」
「基本的には文化院にて人事に采配を振るい、書庫の管理等行っております。文官として王城に出向いた時には、武騎院の方の業務ですね。それ以上はちょっと。」
武騎院は、武力と騎士の最高峰だったわよね。
「婚約者はいらっしゃる?」
「いません。」
「推されるのではないかしら?」
「様々な意味で。ですが全て避けています。今のところアレクシア嬢と話すことが最も楽しい時間となっておりますので。」
婚約者がいないなんて意外だわ。
「アレクシアとの関係は。」
「今のところ友人です。」
今のところなんて言うと含みがあるように聞こえるわ。
ぱっとヴィアルド様を見るといたずらっぽく笑ってこちらを見ていた。
お母さまにこの冗談は通じるのかしら。
「ふふ、本当にしっかり答えてくださるのね。それに、ユーモアもおありで。」
通じたみたいで良かったわ。
「アレクシアは我が家の宝です。お話を伺う前からヴィアルド伯爵との友人関係は口を出すつもりがありません。」
「もちろん、どちらもわかっています。」
「伯爵はわかっているようですが、周囲はわかりませんからね。」
「そういうことです。」
うーん、要するに、王子殿下と関わると面倒ごとがあるから、お母さまにも伯爵としてですよって挨拶をしにいらしたのよね。
ずっと横で2人の会話を聞いていると、話している以上の内容で会話をしているみたい。
それでも、同じ家格であっても本来はありえないくらい率直にやり取りをしているのは貴族として珍しい。
会話というより尋問に寄っている気がする。
『花が素敵ですね』が『お宅のお嬢様の噂はよく聞いています』になるような会話、言語が大きく違うようにしか見えないもの。
貴族でよくある会話なのだけれど、私は苦手なのよね。
「ああ。少し長居してしまったし、風も出てきましたね。」
「もうお帰りですか?」
「そうだね。また、お見舞いに来ていいかな?」
「構いませんよ。体力を戻さないと文化院にも行けないので。」
庭に出るとか人と会うという風にならないと準備も気を抜いてしまいそうだもの。
「良かった。ええと、明後日だと早いかな。」
「いいえ、ずっと家にいるだけなので。」
「ありがとう。じゃあ今日と同じくらいに来るよ。」
「それじゃあ、アレクシア、ポーラがあそこにいるから、ヴィアルド様が帰られることを伝えてくれる?」
「ええ。」
長く座っていたから少しでも歩いたほうが良いものね。
「急がなくて良いからね、来る時と同じ、ゆっくり歩いて気をつけてね。」
「大丈夫よ、気を付けるわ。」
振り返ると立ち上がった私に気が付いてポーラが少しずつ近づいてきている。
後ろのお母さま達の様子を見ながらだから、まだ声が聞こえてはいけないと思っているのね。
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