院長室にて1
「お手数おかけいたしまして、大変申し訳ございません。どうぞ、おかけください。」
部屋の主であるセルファン院長はすぐに私たちを室内に通してくれた。
文化院院長の部屋とあって、沢山の本や紙類にあふれている。
部屋の家具に一致したテーブルとソファ、の向かいに少し雰囲気の違うソファがある。
「滅多に私の部屋にお客人などいらっしゃらないものですから…本日はご家族皆様で、とのことでしたので、不似合いな家具もございますがご容赦ください。」
そういうと私たちを席に通してくれた。
長くストレートに伸びた薄い金色の髪が女性的な雰囲気も垣間見せるセルファン院長は、持ち込んだらしきソファにかけた。
ヴィアルド氏が用意していたらしき茶器でお茶を入れはじめ、セルファン院長は口を開いた。
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。私が、文化院を任されております院長のセルファン・ディードです。」
「ディクス伯爵家現当主、アーキッシュ・ディクス。妻のリーフィリア・ディクスだ。そして座っている順に長男ステファン、長女であり被害者のアレクシア、次男ベリオ。」
私の紹介に鋭い棘を感じるのは当然の言い方で、私以外の4人とも挨拶中の目線に凄いプレッシャーを含んでいるように見える。
「ええ、はい。アレクシア嬢、並びにディクス家の皆様に大変失礼かつ前代未聞な大きな過ちに、院長として謝罪させていただきたい。」
深く頭を下げられるが、お父さまは意に介していないように見える。
「アレクシアへの謝罪を行うあたり、セルファン殿は院の中でも理解ある方とは受け取ります…が、おっしゃる通り前代未聞のことだ。原因は?」
セルファン院長が真っ先に私への謝罪としたことはお父さまのプラスだったようね。
顔を上げたセルファン院長はお父さまの冷ややかな顔にも反応を見せず、努めて冷静に説明してくれた。最初は。
「まず先に、明確な点からお話し致します。当然のことかと思われるかもしれませんが、必要なことでして、お聞きください。」
セルファン院長は家族一人一人を見ているようだったけれど、最後は私と目を合わせてくれた。
お兄さま達がそれぞれ私にぴったりくっつくようにしてきたけれど、心配なのだろうな。
急に、セルファン院長が顔を染めて前のめりに話始めた。
口を開くとともに止まらない言葉の嵐。
「寄稿されました論文、素晴らしいものでした。まず美しく読みやすい文体とそれにふさわしい文字!内容が重要といくら言われていても外見をとりつくろえない程度のものより一層説得力、引き込む力、読み続けさせる力を纏っておりました!」
ヴィアルド氏がお茶を置きながら説明を挟んでくれる。
「院長は文字中毒的な方でして。あまりのお気に入りに出会うと三日三晩語り続けかねないのですが、今日は無駄の無いよう話していただける予定です。何かあれば私が対応させていただきます。」
そう言いながらヴィアルド氏はセルファン院長の隣に座した。
正式な紹介はなかったけれど、立場は上の方なのかもしれない。
ただ、その間も続く論文の賛辞は照れてしまう。
家族が褒めてくれても、外部の、ましてや重役職で文章に携わる方に言われる評価は全く違うように感じるものなのね。
恐ろしいのは、その向かいで家族たちも熱心に相槌を打っているところだわ。
「当然だね。シアの文章は必要な情報を絞りつつ、研究者であれば当然ともいわれることを明示することで論文の方針も明確にしているんだから。」
「そうなのです!主流の考えに沿っているからと前提を明確にしない論文は腐るほどありますが、歴史に残る書物はどういった形であれ明示することで時代をも映します!それを9歳のご令嬢がされるとは驚きました!」
お兄さまがああいえば、セルファン院長はこういう。
でも、ふと気づいてくれたのか、セルファン院長がぴたっと止まった。
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