プロローグ
ここから本編
そう遠くない未来。
第三次世界大戦以降、世界は劇的に変化していた。
エターナルオンライン。通称【EO】。
世界中で遊ばれているゲームだ。
プレイヤーたちは異世界へと転移した勇者。
異世界にて魔王討伐を目指すという単純なストーリー。
よくあるVR・MMORPGだ。
のんびり釣りをしたり、狩りをしたりとスローライフを送ったり。
家を建てて、ゲーム内で出会った人と結婚したり。
高難易度のダンジョンを攻略して、レアアイテムを手に入れたり。
楽しみ方は人それぞれのめちゃ自由なRPGなのである。
しかも、課金要素は汗をかいたり、食べ物の味、痛みや、苦しみという感覚等の直接ゲームプレイには関係ないものばかり。
超優しいRPGなのである。
課金よりプレイヤースキルが優先されるゲームなのだ。
しかしこのゲーム。
ただのゲームではなく、天国と呼ばれている。
豊かな生活が送れるから?
自分が主人公となり第二の人生を歩むことができるからか?
ゲームの腕に課金要素が絡まず、純粋なスキルで何とかなるからか?
否。
すべて違う。
このゲームの異常な点は。
死者のみがプレイすることのできるゲームである。
科学の発展とはとても奇妙なものだ。
人が死んだとき、記憶や人格などをデータとして保存する技術を応用する。
死ぬ寸前のデータを保存しておき、仮想世界にそのデータをアップロードすることで、
疑似的に不老不死、永遠の命を手に入れることができたのである。
このゲームだけではない。
シューティングゲーム、恋愛ゲーム、手強いシミュレーション。
その外にも、様々なジャンルのゲームが開発されている。
このゲームを遊ぶためにわざわざ自殺するものまで出てきたため、一時期規制されていたとか。
そのため、販売は中止、医学の世界と協力し、不治の病や、不慮の事故で死んだ人を対象として使う、一種の治療となった。
そして。
この世界に新たにやってきたこの男もまた。
死者である。
《ようこそ、エターナルオンラインへ》
脳内に機械音が流れる。
理解が追い付かないまま、その声は淡々と説明を続ける。
《新規プレイヤー認証、特典を確認》
《EXスキル『憂鬱』を獲得》
《EXスキル『七魔剣の呪い』を獲得》
《職種『持たざる者』を確認》
「おい、待ってくれ、なんだこれ」
声を出そうと口を動かし、のどを鳴らすが、声は出ない。
視界は真っ暗で遮られていて、何も見えない。
赤髪の青年の視界は暗く閉ざされていたが、
視界が晴れ、景色が見えだした。
《視覚コマンド・起動》
灰色の空。
白い雲。
黒い台地。
モノクロの世界。
木々を揺らす風の音も、感触も一向に伝わってこない。
漆黒の世界だ。
《色覚コマンド・起動》
《触覚コマンド・起動》
視界が端から急に色づきだす。
さわやかな青い空には白い雲が流れる。
緑の力強く生い茂る草原の草木たちはざわざわと揺れ、
彼らを揺らす、風が男の頬を撫でた。
翼が空を覆いつくすのではないかというぐらい巨大な鳥か空を駆ける。
白く輝きまぶしかった太陽は、遮られ地上に影が下りる。
鳥が過ぎ去ったあと、突風が草原に吹き荒れる。
髪が揺れ、体がもっていかれそうだ。
赤髪が風に揺れ、太陽で白くきらめいている。
太陽に向け手をかざしてみると、一匹の青い鳥が指先にとまる。
《聴覚コマンド・起動》
心地の良い小鳥のさえずりが聞こえた。
指先に停まった鳥は風を切りながら飛び立つ。
風が木々を揺らし、葉がお互いにこすれあう音色。
青い空に木の葉が舞った。
「おい、お前、金目のもの置いていけ」
野蛮な男たちの低く威圧的な声。
うんうん、どれもいい音だ。
大自然って感じ。
「おい、聞いてんのか」
ん?
「おい、さっきから聞いてんのか」
「え、」
「え?じゃあねぇんだ、しにてぇのか!?」
後ろを振り向くと屈強な男が数人。
斧にナイフに槍。
え、俺乱暴されちゃうの。
女騎士じゃなくって、男なのですが。
そんな女っぽい雰囲気出してましたか。
そんな襲われるほど金品持ってないです。
武器じゃない別の槍で後ろからぶすっと行かれちゃうんすか。
妙に風が気持ちいいと思っていたらふんどしでした。
いや和風要素ここにいるの。
めっちゃ涼しくて快適ですね。
しかも武器も持っていない。
いやこの俺にどんな金品求めてんだ。
後ろのやつマジですか見たいな顔してるけど。
仲間がリーダー的な人を疑いの目で見てますけど。
俺のふんどしそんな高価に見えました?
やっぱ体で払え的なことなんですか。
やっぱそっちの趣味なんですか。
装備は防御力1で回避率アップのふんどし。
武器は持っておらず素手。
職業は持たざる者。
装備だけじゃなくて、倫理観とかそういうものも持たざる者なんでしょうか。
常識的な考えすら放棄するドMプレイヤーの職業なんでしょうか。
「死ね!」
あまりにも素直なその一言に体が反応する。
振り上げた斧が地面に深く突き刺さる。
勝手に体が後ろにのけぞっていた。
「ふんどしの回避率やば」
「ちょこざいな!くたばれ!」
横からの薙ぎ払い攻撃だ。
またよけて、と行きたいが。
今回は前に進み、頭すれすれで斧が通り過ぎる。
「ここだ!」
《シャイニング・アッパー》
しゃがんだ勢いを利用し、顎に一撃を畳み込む。
どうやら一番こぶしが叩き込みやすい角度だったらしい。
軽快な音楽が流れる。
おそらく会心の一撃ってやつだ。
視界の片隅で超ダサい文字が見えた。
今の行動で技が発動したみたいだ。
「やれやれだぜ」
こいつは意外と簡単そうだぞ。
さすが最初の敵、チュートリアルか。
《ドロップ『盗賊の斧』獲得》
《持たざる者の効果《盗賊の服》獲得》
《レベルアップ・スキル『ビブリオ』獲得》
ほう。
追加ドロップアイテムですか。
これは、上級者がダンジョン周回するときの職種だな。
それにビブリオとな。
「おまえ、よくもお頭を・・・!」
「お頭の仇・・・!」
こいつらちょっと戸惑ってる。
実質裸の男にお頭たおされて戸惑ってるよ、これ。
よし、使ってみよう。
「《ビブリオ》!!」
視界に機械的な四角の枠が表示される。
あ、これアニメでよく見るやつだ!
敵のステータスだ!
野蛮な盗賊 Lv48 装備;短刀
野蛮な盗賊 LV45 装備:槍
名前未設定 LV25 装備;斧
え、強いんですか?
こここの世界にきて初めての敵とのエンカウントですよね。
てかあいつらがお頭って呼んでるあいつはレベルいくつなんだ。
雑魚すぎるぞ。
「もうどうにでもなれ!」
斧を振り上げ横に薙ぎ払おうとするがあまりのも重く持ち上がらない。
回転の勢いを利用して振り回しながら持ち上げた。
このゲームにはおそらく武器ごとに重さが設定されており、それぞれで素早さや回避率が上がるのだろう。だからふんどしに素手であんな早く動けたのか。
「あ、これ止まんない」
斧を持った状態でぐるぐると回転し続ける。
なかなかいい体幹をしているじゃないか、俺。
「感心しとる場合か!」
いまだに回転は収まらない。
勢いが増していくばかり。
これ俺、どうなっちゃうの。
敵もなんだか心配そうな目で見ている。
大丈夫かって声かけられた。
大丈夫じゃないです。
「たすすけてぇぇ」
「俺たちにどうしろってんだよ!?」
無理、握力死んだ。
「にげてぇぇぇぇぇ」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
《スピニング・サイクロン》
あ、技なのこれ。
たおすやつじゃん。
飛んで行った斧を中心に竜巻が発生する。
あたりの草木を巻き込み巨大化していく。
走って逃げる二人をしつこく追いかける。
自分の背丈ほどだった竜巻が、2m近くまで成長した。
そのまま回転は衰えることなく。
野蛮な彼らに激突した。
ててててーん。
《ドロップ『盗賊のバンダナ』》
《ドロップ『盗賊の短刀』》
《持たざる者の効果『盗賊の腕甲』》
《持たざる者の効果『盗賊のズボン』》
《レベルアップ:32》
倒しちゃうか~。
またクリティカルでちゃった~。
全身揃ってしまった。
盗賊になったわ、俺。
ふんどしよりいいか。
とりあえず盗賊装備一式を装備してみると、
一式装備でEXスキル《奪取》を獲得しました。
どうやらドロップアイテムが1個増えるらしいです。
これで俺ドロップ率めちゃ上がったわ。
いつの間に高ランクダンジョン周回用のテンプレ装備そろえました?
上級者か中級者向けぐらいじゃないこれ。
「とりあえず、ここどこ」
なぜか足取りが重たい俺だった。