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前日譚

正直飛ばして次から呼んだほうがいい。


夜を駆ける。

寒空の下、首に巻いたマフラーをなびかせ走る青年が二人。

一人は夕日のように真っ赤な髪色をしていた。

もう一人は、無限に広がる海のような、真っ青な髪をしていた。


「おい!どうするつもりだ!」

「とにかく失敗だ、誰かが作戦を漏らした!」


彼らは髪が思い出させる穏やかな風景とは似合わない、

大声を荒げながら、星空の下をかけている。


「いたぞ!追え!」


走る青年たちの後ろには黒服の男たちが数人ほど追いかけてきていた。

いったい誰なのか。

だれも止めることはできずに、ただ追いかけまわされる。

まるで鬼ごっこだ。

入り組んだ路地を、蛇が地面を這うようにうねうねと進んでいく。

鬼は蛇を捕まえようと、必死で食らいつき追いかける。


「くそっ、行き止まりかよ!」


路地を這うように進んだ先に待っていたのは壁。

自分の背丈より高いその壁。

普段なら気にもしないところだが、今の青年たちには断崖絶壁に見えた。

万全な体力があれば這い上がれた壁を、疲弊しきった二人はただ見上げるのみだ。


「チル!お前だけでも、逃げろ」


赤い髪の青年を青髪はチルと呼んだ。

額から流れる汗が、苦しい現状を説明していた。


青い髪をした青年がポケットからバタフライナイフを取り出す。

普通のバタフライナイフとは違う。

黄金に輝いていた。

どこか、怪しいナイフだった。

何か文字が書いてあるようだったが、

教養のない彼らには識別できない言語だった。

見るからに怪しい。

一本入っている黒い線がその怪しさを増幅させていた。


「グリム、それを使うっていうのか」

「あぁ、逃げるにはこれしかない」


逃げる。

これを使うのは本当に正しいことなのだろうか。

これを使ったところで、本当に逃げたことになるのだろうか。

こいつを利用しひっくり返そうとしていたはずなのに。

こんなところで、俺のために使っていいのか。

チルは頭を抱え、地面からゆっくりと顔を上げる。

息を切らし、肩を上下に動かし、それを見届けるグリム。


「すまん、チル」


そういってグリムと呼ばれた青い髪の青年は赤髪の青年の脳天を突き刺さす。

血が三途の川のようにだらだらと流れ出る。

あふれだした血液は止まることはない。

血を伝い、ひび割れたアスファルトの中へ吸い込まれていく。


ナイフに入っていた黒い線のようなものが端からじわじわと赤くなる。

まるで血液を吸い取る注射器のように。

じわじわと。

血液を吸い取っていく。


≪転送率 肉体転送=78% 精神転送=45% 記憶転送=28% 計転送率=50%≫


どこからともなく音が鳴る。

どうやらバタフライナイフからなっているらしい。

不気味な物体が機械的な音声でさらに不気味なものになる。


「俺はどうなってもいい、こいつだけでも・・・!」


≪転送率 50% 不安定です 中断を推奨します≫


赤髪から滴る赤い血とは無縁な様子で、無情にも淡々と状況を説明する声。

この場にいる誰の者でもない、機械の合成音声のような不気味な声だ。

青髪は血走る眼で死体へと振り返る。


「ふざけんな、何が何でも、飛ばしやがれ!」


黒服の肉体と、青髪のナイフとの闘い。

すでに弱っていた青髪は防戦一方成す術がない。

右から左へ、繰り出されるナイフをよける体力なんて残っていない。

殴られた頬がじんわりと赤くなる。

自分のことなどどうでもいいかのように青髪は叫んだ。


≪音声認証完了 招待状の効果を発動します≫


金色の輝きがあたりを包みだす。

まばゆい光に目を開けられなくなり、その場にいるものは全員目をふさぐ。

すると脳の中に、声が聞こえた。


≪ようこそ、エターナルオンラインへ≫


閃光の中、グリムはつぶやく。


「待ってろ、チル、いつか助けに」


その声は、誰にも聞かれることはなかった。



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