第8話「お誘い」
「あっそうだ!折角だからさ、デートでもしようぜ!オレもゆうなちゃんも暇みたいだしさ〜」
突然パンッと手を打ち、充がそう持ちかけてきた。
「は?なんでお前とゆうなをデートさせなきゃいけないんだよ?」
呆れたように涼介はそう言った。
「反応早ぇよシスコン(笑)」
(デートに誘う時点でお前はロリコンだろ……)
「それで、どうかな?ゆうなちゃん?」
充はその細い目を真っ直ぐにゆうなの方へ向けていた。
「ふふふ……もちろんノーです!」
手を前でクロスさせて✕の文字を作る。
それを見た充はしかし、笑顔を崩していない。
まるでそうなる事を望んでいたかのようだ。
すると、充はわざとらしく頭を掻きながら
「そっかー、それは残念だなぁ〜。」
と言って「じゃあ」と涼介の隣に歩いて来て肩を組んだ。
「ここからは、オレと涼介だけで行く事になるのか〜」
しばらくの沈黙……そして
「はぁ!?」「えぇ!?」
櫻井兄妹は素っ頓狂な声を上げた。
「えっ、どしたん?」
「どしたん?じゃねぇよ、俺も行くのかよ!?」
「当たり前だろ?友達なんだし。それにお前もなんだかんだ言って課題終わってるから暇してるんだろ?」
「そりゃ課題は夏休み前にガッツリやってたからな……」
「んじゃあ、行こうぜ!えっと、神社に買い物……あとは高台で夜景だっけ?」
「おい待て充、なんで俺も行くって方向で話が進んでいるんだよ!しかも、それってゆうなが言っていたのと同じデートコースじゃねぇか!」
それにと付け加えて
「冷静に考えろよ?神社と買い物はまだわかる。だが、何故あんなカップルの多い高台に男二人で行かなきゃならないんだよ!恥ずかしすぎて死に至るわッ!!」
すると充は「フッ……」と言ってから
「一体いつからオレとお前の二人だけだと錯覚していた……?」
「なん...だと?」
「確かオレは「ここからは、オレと涼介だけ」と言ったはずだ。つまり……」
と身を翻してから叫んだ。
「実は既に一人、女子を呼んでいるのだッ!!このオレのデート計画に抜かりはないのだよッ!!」
「……ッ!?」
隣のゆうなが息を呑む声が聞こえる。
それに気付いた涼介は冷静にこう返した。
「……いや、ゆうなが行かないと言っているなら、その計画は破綻しているんじゃないのか?男二人と女子一人だと流石に可哀想だろ……。」
「まぁ待て、今に分かるさ。……なぁ?ゆうなちゃん」
そう言って充の視線が涼介の背後に向く。
それを合わせて振り返った涼介は唖然とした。
「もちろん私も行きますよ、兄さんっ♡」
そこには、先程まで隣に部屋着で座っていたはずのゆうなが、いつの間にか、涼しそうなワンピースに麦わら帽子、それに可愛らしいショルダーバックを肩からかけて立っていたのだ。
それを見た充は、唖然として固まっていた涼介だけに聞こえるように、笑いながら小さく一言。
「な?オレが言ってた意味が分かったか?(笑)」
こうして、充と涼介とゆうなの3人は、充が呼んでいるもう1人の女子を交えた4人でダブルデートを敢行することになったのだった。




