23:向かう先
俺とロスヴィータが元凶だった小鬼族を倒してからは、事件の収拾は順調に進んだ。
洗脳されていた兵士や森人族が記憶を取り戻したのだ。あちらこちらで報告が上がった。森人族の保護はすぐに終わった。
ただ、やはり森人族の多くは命を奪われており、全体の一割も残っていなかった。そのため、国を再度立ち上げるのは無理だった。
悩んだ王国と森人族たちは、王都の近くに森人族のための土地を作ることにした。
幸い、森人族たちをかくまえるだけの森林があり、そこを王国が提供した。
森の人、と呼ばれる森人族だ。イングヒルトも言っていたが、森への適応力が高く、すぐに村を作り上げてしまった。工事期間は、わずか三日である。
ただ、イングヒルトだけは唯一の王族ということで、王都に住むことになった。本人の希望もあり、すぐに家を提供された。されたのだが。
「なんで俺の家に?」
「王都で一番安全だから。勇者の近くが、一番安心できるでしょ?」
「……まあ、イングヒルトが納得するならいいけどよ」
何故か、俺の家に住むことを希望したらしい。安全というならば、ユニコーン騎士団の元という考えもあったろうに。
「……だって、あそこにいると、みんなが私のことを構いすぎて困るから」
「あー……」
人間への誤解が解ければ、イングヒルトは素直でいい子だ。騎士団には女性しかいないし、みんなの妹ができたような感覚だったのかもしれない。
アーサはともかく、メルヴィナあたりは可愛がりそうだなあ。面倒見良いからね。
ただ、それがイングヒルト自身を悩ませてしまったようで、結局ここに至ったわけだ。でも、うちも大して良い場所じゃないんだが……。
特に、
「森人族の小娘が、なぜ我の家に住む! 勇者がいるだけでも忌々しいというのに、この狭い小屋をさらに狭くするな!」
と吠える元・魔王がいるし。
身の回りの世話はリアンがやってくれるけど、居心地は良いのだろうか? 俺は別に困らないから構わないけど。
「大丈夫、恩人であり盟友であるアシュレイには、面倒をかけないから」
そうか。ロスヴィータのやかましさが気にならないなら、もう文句は言わない。
「えぇい、勇者、言ってやれ、迷惑だと!」
「いや、俺は迷惑じゃないからいいんだけど」
「ふ抜けめ!」
これが気にならないなら、何も言わない。
まあ、イングヒルトの意志は尊重したいところもある。なにせ、親兄弟がもういないんだ。誰と住むかを決める権利くらい、あげてもいいだろ?
それよりも、
「ロスヴィータ、そろそろ行くぞ」
「む……? ふん、分かっている。小娘の件は、また帰ってきてから話す」
今はバグについての相談の方が重要だ。あと、イングヒルトの件はもう確定だっての。
バグについて、ロスヴィータとはもうかなり話し合った。俺の聞いた話をそのまま伝えて、ロスヴィータとは意見の交換もした。
それを踏まえたうえで、またユニコーン騎士団のみんなとの会議だ。
アーサに用意してもらった馬車に乗り込むと、自然と話題は切り替わる。昨日の続きからだ。
「これからは広く情報を集めねばならん。あの騎士団とやらだけでは足りんな」
「……そうだな。って言っても、どこまでの情報が必要になるんだろうな」
「神の言うことをそのまま受けるならば、世界中だ。人間の王国だけではない。鉱人族の国、亜人連合、そして魔王領も含めて話をせねばならん」
「そこまでか、やっぱり」
「神とやらのバグがどの程度なのか絞れればよいのだが、神ですら分からんとなれば我らもとにかく世界中を調べるしかない。ふん、無責任なものだな、神も」
「一応、もう少し、らしいけどな」
「具体的な数が分からん。信用できん」
カミサマを信用できないってのは、俺もロスヴィータも同じだった。あのおっさんは、いつか殴ってやらないと気が済まない。
「とりあえずは、分かる範囲でやるしかない。バグを全てを無くせ、というのはおそらく神も期待してはおらん。神は何千年とかけてバグとやり合ってきたのだろう? ならば、たった一年でどれだけのバグを消せるかなど大まかな予想くらいしていよう」
「全部を潰す必要はない、ってか?」
「不可能だからな。森人族の一件で、ただの石ころにもバグが潜むと分かったが、我らは道端の石を一つ一つ確認するなどできん」
「……石ころなんてを調べてたら、王都に落ちてる石だけで一年終わるな」
「そうだ。故に、我らが行うのは……」
「目に見えて分かりやすい、それでいて危ないバグを潰していけばいいのか」
「それ以上はできん。世界のバグを全て消したいならば、そもそも我らだけに任せるのが間違っておる」
俺たちの結論としては、大きく、分かりやすく、さらに危険な、この三つの問題を抱えたバグを潰していこうということになった。
理由はほぼロスヴィータの言う通り、二人でできる範囲はたかが知れている。だから、手を伸ばせる範囲で頑張ろうという意見で落ち着いた。
なんだか無責任な着地点かもしれないが、そもそもどこにどれだけあるか分からないものの処理を、たった二人に任せたのがカミサマの間違いなのだ。と、思う。
俺に与えられたという権限も、全てを完全に活かせるわけではない。カミサマはなんだか大げさに言っていたが、結局は個人的に強いだけだし、ロスヴィータに至っては能力を奪われている。
無理なものは無理と、諦めることも大切なのだ。一年後、カミサマに文句を言われたら、二人で協力して殴り掛かろうとも決めた。
まあ、それ以外については、
「我は我の、貴様は貴様の目的のために動く。それだけは忘れるな。なれ合いなどごめんだ」
と、割り切ったものだが。元の世界に戻ったら、また敵になる間柄だ。仕方のないことだろう。
後は、アーサたちにもカミサマだの世界を戻すだのの話はしないという決め事もした。世界を戻せば、俺たち以外の記憶、いや、俺たちのですらどうなるか分からない。余計なことを言えば、混乱させてしまうだけだ。
騎士団の屯所が近づくにつれて、お互い無口になっていく。二人の間で話すことは、ほぼ無くなってしまった。
俺は俺の目的のために。勇者パーティのみんなが戻ってきてくれればいい。そのためなら、借り物の力もいくらでも使ってやる。
そのために、俺はこれからもバグとカミサマを憎んで戦うだけだ。
馬車が屯所に着いた。俺とロスヴィータは互いに違うものを思いながらも、目的を同じくする者として、一緒に馬車を降りた。
ご覧いただきありがとうござしました。
この後は魔王が復活したり、配下の魔族とロスヴィータが出会うことで違和感を感じたり、そもそも魔王の出現がバグの影響だったりと話が続く予定でした。
ただ私が「バグ」の定義を広げ過ぎたため物語に収拾がつかなくなり、話をまとめるのが酷く困難になりました。
なんとも情けない話でございますが、これ以上の展開が思いつかず脳みそが飽和して諦めることとなりました。
ご覧いただいた(特にブックマーク、評価を頂いた)方には大変申し訳ございません。
次のエンディングは、全てが終わり、世界を修復し終わった後の話になります。
そこに至るまでに仲良くなったアシュレイとロスヴィータ。そして完全に遊び人思考に戻った主人公のお気楽展開です。




