21:犯人
森人族の姫が王都に逃げたと分かり、彼は舌打ちした。
さすがに王都まで行かれてしまうと手が出せない。森人族の国跡で始末できなかったのが失敗だった。
まさか、数百のブラッドデーモンを退けられるとは思わなかった。森人族の姫と共にいる者たちがそこまで強いとは。
運び屋から奪われた時点で、彼は森人族の姫を殺すべく動いていた。本来は別の使い方を考えていたのだが、自分の手から離れたなら始末するしかない。
下級の森人族ならともかく、上級の王族である森人族は彼の目的の障害となる。例え一人でも生かしておくわけにはいかない。
手に入れた力のおかげで、彼の目的までの距離は縮んだ。目的のための、森人族抹殺だ。念入りにやらなければ。
なにせ、彼が滅ぼさねばならないのは森人族だけではない。次は鉱人族だ。人間に協力する亜人を順に滅亡させるのだ。
森人族と鉱人族は特に優先度が高い。何せ、この二つの種族が強力すると、勇者の剣という最上級の聖剣が作られてしまうのである。
勇者の剣は、上級魔族ですらたやすく切り裂く。またそんなものを作られてはたまらない。
たった一人とはいえ、王族だ。あの森人族の姫を殺すためには全力で、しかし慎重にやらねば。
力は無限にある。とはいえ、無限の力を完全に使いこなせているわけではない。
彼にも限界がある。力を使いすぎれば、自分の身の破滅すらあり得るだろう。
彼は、手に入れた力のかたまりを握りしめる。
見た目はただの水晶の欠片。知らない者からしたら、観賞用にもならないお粗末な品だ。
彼も最初はそこいらの石ころの一つだと思っていた。偶然手にして、その内に秘められた魔力を確認するまでは。
小さな水晶片に、どうして無限の魔力が秘められていたのかは知らない。彼にとっては、理由よりもその力自体が重要だった。
どうする、と考える。どうすれば、あの森人族の姫を亡き者にできるのか。
また人間を利用するのは難しいだろう。もう警戒されてしまっている。砦の一つや二つ潰して、ブラッドデーモンにしたところで効果はない。人間を洗脳して暗殺、というのも相手の警備状況からして無理だ。
となれば、おびき出すか。下級の森人族を餌にして。
まだ在庫はある。きちんと生きた森人族だ。魔法の触媒用に、少しだけ残してあった。
仲間がまだ生きていると知れば、王族は助けようと思うかもしれない。そこに、彼自身が赴けば護衛もろとも抹殺できる。
少しばかり無理をしてでも、彼自身の正体がバレても仕方がない。王族の首を取るにはそれだけの価値があるのだから。
手段は決まった。次は詳細を決めなければ。
どこに森人族を置くか。どうやって森人族の姫に知らせるか。
人間は転移魔法で連絡を取り合う。ならば、王都から離れていても連絡は取り合えるだろうし、王都から離れていれば兵力も分散している。
餌を撒くのは、なるべく辺境がいいか。そういえば、人間が亜人を奴隷として使うという場所が辺境ある。そこならば餌を撒くには自然で、都合がいい。
彼は、気づくと笑みを浮かべていた。
楽しいのだ、狩りが。
森人族の国を襲った時、彼は楽しくて仕方がなかった。何かを奪うというのは、彼の性分にとても合っていた。
特に命を奪うのは最高だ。彼は、今まで奪われるばかりだった。その立場が逆転した優越感は素晴らしい。
きっと、この水晶片は、天からの贈り物なのだ。失うばかりだった彼に、今度は奪いつくせという天からの啓示なのだ。
そう考えると、彼の復讐心はさらに滾る。恐怖心などどこかへ消えてしまう。
きっと、次の狩りも上手くいくだろう。次も、その次も。
水晶片を握った時に得られる全能感が、彼の消極的な思考を全て拭い去る。
これからを想像すると、まるで神にでもなったかのような気がする。今、自分こそが世界の中心なのだと思える。
彼は出来上がった計画をすぐに実行するべく動いた。
森人族の娘を二人、魔法で洗脳し、彼についての記憶を消した。
合わせて、こちらも捕えてあった人間の兵士を洗脳する。記憶の一切をいじって、森人族を辺境へ運ぶように命令する。
結果が楽しみだ。森人族の姫を殺せば、次もまた多くの命を蹂躙できる。次も、その次も彼の欲を満たしてくれるだろう。
彼はこれから続くであろう幸福な日々を想像する。嬉しさがこらえきれず、声になって漏れる。
笑みをいつしか高笑いに変えて、彼は一人で愉悦にひたっていた。
◆◇◆
ユニコーン騎士団の屯所で世話になって一週間。領主からの連絡があったということで、俺たちは辺境の街に来ていた。
俺と、ロスヴィータの二人。領主は兵隊の用意をしてくれていたが、まずは俺たちで確認してからという流れになった。
というか、兵隊を出されると大変だから、俺たちでなんとかしたいというのが本音。また街いっぱいのブラッドデーモンとか出てきたら、文字通り血で血を洗う戦いになってしまう。
幸い、それはいらぬ心配だった。街の人は、ちゃんと人間だった。
ということで、俺たちは素直に連絡にあった、森人族の生き残りを探している。
辺境の街ってのは、すごく混沌としている。今いる街は、亜人連合に一番近いから、なおさら。
亜人連合というのは、簡単に言えば人間じゃない種族の集まり。狼人族とか猫人族とか鳥人族とか。
明確な敵対はしてないけど仲良くもしていないという中途半端な関係にあるので、いざこざが絶えない。森人族や鉱人族と違い、全く親交がないんだよね。
んなもんだから、ケンカする、泥棒もする、そして、
「なんだあれは?」
と、ロスヴィータが指さす先には、首から値札を下げた猫人族の子供がいたりもする。
王国は奴隷ってのを認めてない。とはいえ、こんな街だと厳しくも取り締まれない。
俺は、色々と薄汚いことを知っているからあまり抵抗ないけど、アーサとか連れてきてたら大変だったろうなあ。鎖を握っているおっさんをぶった切っていたろうなあ。
アーサとイングヒルトを残してきたのは正解だったとしかいえない。咄嗟に働いてくれた俺の勘に礼を言いたい。ありがとう。
まあ、奴隷とはいっても、亜人連合との境界線に近いこの街くらいでしか売り買いできないけどな。王国に近づけば、奴隷商人なんてすぐに取っ捕まる。
王国内に限って言えば、とんでもない隙間産業なんだが、噂によれば亜人連合では普通にやってるらしい、奴隷売買。……人間もその中に含まれているという話もある。
亜人連合は強さが正義みたいなところがあるからなあ。ラザフォードたちと言ったときは、そりゃ苦労したのなんの。勇者パーティじゃなきゃすぐに豚のエサにされていたかもしれない。
「奴隷か。ふん、強い者が弱い者を利用するのは、我ら魔族と変わらんではないか。何が魔族は悪だ、笑わせる」
今はロスヴィータの手厳しい言葉にも反論できない。いや本当にアーサがいなくてよかった。
ともあれ、こんな街だから、森人族の話なんかも見つけられたんだろう。森人族の奴隷か。イングヒルトには絶対に見せられない。
俺たちは、まず酒場で噂を確かめた。
森人族が入荷されるって話は本当かい? なんてね。
今の俺はちょっとした傭兵風の雑な服装をしている。逆にロスヴィータはどこかのご令嬢風。役としては、危ない趣味を持つお嬢様とその用心棒。
街では、少し話題になっている。赤毛のお嬢様とその用心棒はヤバいぞ、って。森人族について情報をくれるなら金を払うぜ、なんてあちこちで言っているもんだから、なおさら。
危ない作戦なのは、百も承知。でも、俺もロスヴィータもレベル99だし。どっちか片方だけでも街の連中全員相手にできるし。
ある意味では石橋より安全な橋を渡っているとも言える。まあ、それは置いといて。
情報も、ぼちぼちとでは手に入っていた。確度としては、あまりあてにならないけど。こんな街だ。同じ人間でも信用できるかどうか。
今は、裏の店の裏口のさらに奥、くらいの場所へ向かっている。ここなら確実、なんて言われたデカい店だった。
ショーウインドウには、鎖で縛られた奴隷が商品として並べられていた。……さすがの俺でも見ていて気分の良いものではない。
店の前には、屈強な番兵、おそらく用心棒が立っていた。俺たちは、情報をくれた奴の名前を出して、入店の許可をお願いする。
「ちょっと待て」
筋肉でガチガチの大男が、店の中に入っていった。その間に、森人族らしき奴隷がいないか、ちょっと確認。
……森人族は見当たらない。いるのは他の亜人ばかり。希少だからか、表には出していないのか。
俺が奴隷を眺めていると、
「どうした、勇者? 奴隷が欲しいのか?」
「いらねぇよ。後、ここで勇者って呼ぶな」
「そうだったな、下僕」
「……その呼び方もやめろ」
なんでこいつは上機嫌なんだか……。街の雰囲気が気に入ったのか?
「良い場所だ。この混沌とした感じ、魔王領を思い出す。王都なぞよりも、ずっと我向きだ」
そうですかい。
「魔王の住処は、こんな感じだったのか?」
「ここよりももっと住み心地が良かったわ。力持つ者こそが正義よ。ここはまだまだ生ぬるい」
ここよりも、か。元・魔王が言うんだから、その通りなんだろうな。
ロスヴィータはやっぱり魔王としての感覚が抜けないのだろうか。まあ、魔王に戻りたいって思っているんだから、抜けるはずもないか。
逆に、俺はどうにもこの街の空気が嫌になる。昔は、あまり気にならなかったはずなのに。
勇者になっちまったからかなあ。ジョブに考えが引きずられているのか? 思い返せば、戦いなんてできなかったはずの俺が、先陣を切って戦うようになってしまったんだ。ありえなくもない。
複雑な胸の内を考えていると、やがて大男が戻って来た。
「入れ」
許可が下りたようだ。店先で待つのも具合が悪かったので、すぐさま中に入れてもらう。
入ると、中はいきなりホールのようになっていた。ちょっとした貴族の家みたいだ。客との社交場にでもしてるのかね。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
いきなり、主人らしき男が出迎えてくれた。脇には外の大男にも負けないくらい大きな男が二人付いている。おお、怖い怖い。
「お客様は森人族をお求めだとうかがいましたが?」
「そうだ。いるのだろう?」
ロスヴィータの態度は、いかにもそれっぽい。遠慮のない様が、お嬢様っぷりを思い切り発揮している。
「いやはや、仕入れてから間もないというのに、よくご存じで……」
「前置きはよい。早速見せてもらおうか」
「かしこまりました。ああ、ですが先にご予算をうかがいたいのですが……」
「予算?」
「はい。森人族の奴隷は貴重ですから。並みの奴隷よりはお高くなっておりまして」
「ふん、まあいいだろう。下僕、あれを見せよ」
下僕って呼ぶなって。今は人前だから我慢するけどよ。
俺は、懐に隠してあった袋を取り出した。中には、金貨がどっさりと入っている。普通の奴隷ならば十人は買えるだろう。
「これはこれは、失礼いたしました。ささ、こちらへどうぞ」
主人が、俺とロスヴィータを店の奥へと案内する。男二人は、俺たちの後ろに付いた。もちろん、俺は何があってもいいように警戒している。
店の奥は、牢獄にようになっていた。中に入れられている奴隷は、おそらく高級なんだろう。店頭のは安めのどうでもいいやつか。
俺たちは、奥へ奥へと連れていかれる。
「森人族は強力な魔法が使えますからね。特別な檻に入れてあります」
言われて、俺はイングヒルトの時を思い出した。檻から出した矢先に魔法を撃たれたっけ。
森人族の少女は、店の一番奥にいた。魔法封じの檻に入れられ、さらに腕と足を鎖で繋がれている。
外見からは十五、六に見えるが、森人族だから実際は何十年と生きているに違いない。ボロを着せられ、やつれている。
「気力を削ぐために食事は最低限しか与えておりませんでしたが……、どうです? 森人族らしい美しさでございましょう?」
確かにね。今は汚れているけど、白い肌、金の髪、エメラルドの瞳、と磨けばすぐに美しさを取り戻すだろう。
それで、気になるお値段は、っと。
「お客様は、なんでも特に森人族をご所望だとうかがっております」
森人族を扱う店なら、当然俺たちの噂も聞いてるか。
「そこで、少しご相談がありまして」
「なんだ? 申せ」
ロスヴィータが聞くと、店主は嬉しそうに微笑んで、
「実は、ウチには森人族を仕入れる独自のルートがございます。もしこの森人族を相応の値段でお買い上げいただけるなら、新しい森人族をご用意することもできます。いかがでしょう?」
森人族を仕入れる独自のルート?
「ほう……?」
ロスヴィータが、一瞬だけ俺を見た。どうするか、ってか?
独自のルートか。この奴隷商人、森人族の国を襲ったヤツと繋がってるのか? だとしたら、その裏を知りたい。
「いかがでございましょう? 森人族は手に入れるのに苦労するものですが、ウチならばそれなりの数をご用意できます」
どうしたものかな。ここで奴隷商人を締め上げて吐かせてもいいけど、仕入先にはすぐ伝わっちまうよな。森人族の保護だけを考えるなら、この商人の話に乗るのもありだけど……。
「いいだろう。おい、下僕、先ほどの金を全部渡してやれ」
って、俺が考えている最中だってのに、ロスヴィータはあっさりと了承した。
反論したかったが、今の俺は用心棒役。下手なことを言えば、すぐに正体がバレてしまう。
なるべく平静を装いながら、ロスヴィータを見る。不敵な笑みからは真意がくみ取れず、俺は渋々持っていた金を全て奴隷商人に渡した。
「これはこれは、ありがとうございます!」
「新しい森人族は用意できるな?」
「えぇえぇ、これだけ頂ければ充分です。すぐに新しいのを仕入れますとも」
イングヒルトのためとはいえ、楽しくない商談だ。ロスヴィータが何を考えているかは分からない。なもんだから、俺は内心を表情に出さないよう我慢するのが大変だった。
俺たちは、契約書にサインしてから店を出た。先ほどの森人族を受け取るには、手続きが必要らしい。森人族の魔法対策らしいが、さて。
人目につかないように路地裏に入る。そこで俺は、ロスヴィータに先ほどの話を聞くことにした。
「なんであんな話に乗ったんだ?」
「話? ……ああ、仕入れとやらについてか」
「ああ。嘘かもしれないだろ。森人族を仕入れるって言っても、まだ生きている森人族がいるかどうかすらあやしいじゃないか」
俺が言うと、ロスヴィータは明らかに呆れているといった顔をした。
「たわけが。まだ生き残りはいるだろうよ。あの森人族は本物だった。ならば、他にも何人か生きているに決まっている」
「なんでだ?」
「たった一匹しか残さない、などという器用な真似をする奴がおるか? あれだけ念入りに国を滅ぼした輩ならば、そんなことはせぬ。残すつもりがなければ、確実に根絶やしにしておるわ」
うーん、言われてみれば、そんな気もする。イングヒルトは別格だとして、普通の森人族ならみんな始末されていてもおかしくはない。
「おそらく、あの森人族はエサだ。国を滅ぼした輩が我らを釣ろうとしておるのだろう。狙いは……」
「イングヒルト、か?」
「森人族をエサにするならば、間違いなくそうだろう。あの小娘は王族だ。王族が持つ魔力には、いくらでも使い道がある」
だから釣りたいのか。イングヒルトは、俺が偶然助け出した。相手にとっては予想外のアクシデントだったのかもしれない。それを取り戻したくて、わざと分かりやすい場所にエサを撒いたんだ。
そうなると、相手が次に狙うのは、
「そら、街の外にでも行くぞ。釣られた振りをしてやらねばな」
犯人とご対面か。でも、
「おい、さっきの森人族はどうするんだ?」
「貴様が奴隷を望むなら貰ってくるがいい。我は要らぬ」
すっぱりと言い切られた。
ずいぶんと大雑把だな……。まあいい。森人族の国を滅ぼしたヤツを捕まえられれば、後からいくらでも取り戻せるか。
俺はロスヴィータの後に従って、街の外へと出た。用意していた馬車に乗り、街から離れる。ちなみに、御者は王国の兵士さんの変装だ。
俺は兵士さんに、早めに街から離れるようにお願いした。敵が何を仕掛けてくるか分からない。あんな街でも、被害に遭うのは見たくない。
それに、
「寒気がする」
「ふん、貴様も感じたか」
街から離れるにつれて、嫌な気配が近づいてくる。
後ろからじゃないな、気配は前から感じる。
やがて、寒気が、最高潮に達した。待ち伏せされていたみたいだな。
馬を止めてもらう。俺とロスヴィータは馬車から跳び下りた。兵士さんになるべく早くここから離れるように言う。
少し歩くと、いや、歩く前にそれらしい影は見つかった。
遠くに、ポツンと小さな影があった。気配の主は、アレだろう。
俺は剣を抜き、ロスヴィータは詠唱を始める。しょっぱなから、手加減は無しだ。
影は、人間の子供くらいの大きさだった。頭をフードで覆い、つま先までローブで隠している。
ただ、アレから感じる気配は異様だった。バグを相手にしたときのようだ。不気味さが半端ではない。
ステータスは『正体不明・Lv69』。……正体不明?
「早く行け。援護くらいはしてやる」
はいはいっと。
相手までは百メートルというところまで来て、俺は地を蹴った。
最初から全速力。剣を力いっぱい握りこんで、斬りかかった。
もっとも、素直に斬られるとは思ってなかったけどな。
予想通りに相手は、いや、敵はこちらの攻撃を防いだ。いきなり大地が盛り上がり、壁となって俺の視界をふさぐ。剣は土壁を斬るにとどまり、敵まで届かない。
「爆破鮮血砲!」
また俺を巻き込むように、ロスヴィータの魔法が飛んできた。俺は横に避け、土壁が紅い光に飲まれるのを見た。
壁の後ろに敵はいなかった。光は壁を砕いただけだ。
敵は……、俺の後ろか! 見た目が小さいからって、素早くなくてもいいだろうによ!
後ろから、氷の刃が飛んできた。俺はそいつらを切り払い、また敵にぶつかっていく。
こっちは最速で動いているのに、敵は俺よりも早かった。武器は持ってないけれど、とにかく素早く、魔法が強烈だ。
ロスヴィータの援護も来るが、それを避けながら敵は俺と戦っている。炎、氷、電撃と絶え間なく魔法が飛んでくる。
さすが、国を滅ぼせるだけあるな。どれだけ魔法を使っても、動きが衰えない。
とはいえ、こっちも一応勇者だ。逃がしてばかりってわけにはいかない。
少しずつ、相手の動きに慣れて来た。相手はとにかく脚が強いようだ。ぴょんぴょん跳びはねて俺の攻撃をかわしている。
こりゃ、武器を持っていないんじゃなくて、持てないんだな。持つと今のような戦い方ができないんだ。
なら、脚をどうにかすればいい。直接傷つけなくても、バランスを崩させるだけでいい。
一度、ロスヴィータの所へ戻る。勇者という規格外のジョブである俺とは違い、ただ賢者であるロスヴィータはかなり魔力を消耗しているようだった。
「えぇい、とっとと仕留めぬか!」
文句にも元気がなかった。かなり息切れしている。
気遣ってもどうせ怒られるだけなので、俺は簡単に説明する。
「敵の足元を狙ってくれ」
と、それだけ言って、また敵に向かっていく。遠くからロスヴィータの声が聞こえたけれど、何を言っているのかわからなかったので無視。
俺の言うことを聞いてくれてはいたようだ。ロスヴィータの魔法が、相手の足元、地面を削っていく。たまに俺にも向かってくるけど。
相手の動きを止めぬよう、俺も休まず剣を振るう。こっちもこっちで疲れ知らず。二対一なら、確実に勝機はある。
俺の一閃と、ロスヴィータの一撃が、タイミングよく重なった。そこで相手はバランスを崩した。
剣の切っ先が、敵のローブに届く。浅いがローブを切り裂き、さらに相手のテンポを乱す。
チャンスはすぐに来た。剣では届かぬ距離だったが、ついに俺の攻撃が相手を捉えた。
腹らしき部分に、俺の蹴りが直撃した。敵は大きく吹っ飛び、ゴムまりの様に弾んだ。
ローブが脱げて、相手の正体があらわになった。体格からすれば子供か老人かってなところだったが、俺の予想は大きく外れていた。
ローブの下にあったのは、細い手足、それとは反対に膨れた腹、誰かの服を奪ったのかサイズの合わぬものを着ており、顔は痩せこけて頭髪も無かった。
「おいおい……」
俺の想像を超えて、ローブの中にあったのは、小さな魔族。
王国の兵士でもあっさり倒せそうな、小鬼族だった。




