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12:ただの勇者じゃないのさ

 使用人が来たのは、ユニコーン騎士団での打ち合わせが終わった翌日だった。

 さすがアーサ、仕事が早い。

 俺としては家事を任せられるなら見た目や年齢にこだわるつもりはなかった。家事以外に期待してなかったしね。

 だってのに、派遣されてきたのは


「初めまして、勇者様。国王陛下から、勇者様のお世話をするようにと仰せつかりました」


 とんでもない美人だった。

 艶のある黒髪のショートボブ。背は、俺よりも頭一つ分くらい下。濃紺の侍女服と白いエプロンを着て、いかにも、というような女性だった。

 特徴的なのは、やや切れ長の瞳。無機質というか、冷たいというか、感情を感じない。

 挨拶も、丁寧ながらに機械的。無駄話を禁じられているんじゃないかというくらいシンプルだ。


「リアンと申します。王城では侍女たちの監督役を務めておりました。家事は全てお任せしください」


 見た目、二十歳かそこらだというのに、監督役か。かなり優秀な方なのではなかろうか。

 『リアン・Lv28・侍女』 レベルも一般人より高い。

 妙齢の美人侍女。これ、国王陛下の趣味で選ばれたとかないよね?


「ふむ。勇者よりも有能ではありそうだ」


 確かに。ロスヴィータの言い方は気に入らないが、この人に任せれば日常生活は安泰だろう。雰囲気だけで納得できる。

 リアンは、では、と言うと早速仕事に取り掛かってくれた。

 部屋の掃除から始まり、炊事、洗濯、買いだしなどなど。こちらは何も頼んでいないのに、テキパキとこなしている。

 心を読まれているんじゃないかというくらいにキビキビと働いてくれた。あ、お茶が欲しいな、と思った時にはもう既に用意されている。

 しかも、そんな優秀侍女が、住み込みで働くことになっていた。陛下、気合入れ過ぎじゃないか?

 給金も払わなくていいとか。これも陛下の計らいらしい。

 おはようからおやすみまで、何もしなくていいというのは、楽だけど……。

 リアンが来てから三日。


「では、勇者様、冒険者ギルドへの確認に行ってまいります」


 いってらっしゃい。

 朝早くリアンが出ていくと、俺は深呼吸して気持ちを落ち着ける。

 なんだろう、この窮屈さは。リアンがいると、とんでもなく緊張する。


「従僕相手に緊張などするな、情けない」


 そうは言われても、今までにない体験なんだ。慣れるまでは仕方ないだろう。


「ふん、それでも勇者か貴様は。胆力が足りん」


 バグ相手なら何も考えずに戦えるけど。


「それではただの戦闘狂だ。貴様は蛮族か」


 というようなやりとりを、ロスヴィータとここ三日間ずっとやっている。

 まだ、バグの情報を集めだしてからさほど時間が経っていないので、全くやることがない。

 ユニコーン騎士団の方にも、まだそれらしい知らせは来ていないそうだ。なので、家に閉じこもりっぱなしである。

 やることもなく、力を持て余している。勇者の肩書が錆びそうだ。


「暇なら、コマ遊びの相手でもせい。人間もそれなりに面白いものを考えるな」


 コマ遊びというのは、軍に見立てたチップ大のコマを動かし、敵の王様を取れば勝ちというゲームのことだ。暇だ暇だと言うロスヴィータのために、リアンに買ってきた貰った。

 ちなみに、ロスヴィータの奴はこの遊びが気に入っているようなのだが、


「今日こそ我が勝って見せる。手加減は無用だぞ」


 とんでもなく下手だ。俺も得意ではないのだが、その俺に一度も勝ったことがない。

 聞くところによれば、魔王というのは敵もなにも自分だけで吹き飛ばす。なので、用兵の心得というものが全く無いらしい。

 兵の運用は、ほとんど部下の“死四天”に任せっきりだったそうな。強すぎるというのも、考えもの、なのか?

 日がな一日、少女とコマ遊びをする勇者。まさに宝の持ち腐れ。


「焦っても出ぬものは出ぬ。我らにできることがないのならば、万全の状態を維持し、いざ敵が現れた時のために力をたくわえておくものよ。ぬ、ま、待て、今の一手は卑怯だぞ!」


 ルールにのっとった正当な方法です。俺は騎士のコマを弾きながら、ため息を吐いた。


「お前はなんでそんなに余裕なんだ。早く元の姿に戻りたいんじゃないのか?」

「もちろんだ。しかし、神出鬼没の相手に、まだまだ出ぬのかと焦れるほど短気ではない」

「気が長いんだな」

「待つことも王の仕事だからな」

「まあ、魔王ってひたすら勇者を待っていなきゃいけないもんな」

「そこまで暇ではないわ、たわけが」


 結局、リアンが戻ってくるまでの一時間半ほどで、俺は九勝した。

 実際に戦ったら、強いのにな。なんでこんなゲームに弱いのやら。


「人間が脆弱すぎるのだ。なぜ歩兵は一歩ずつしか進めぬ。飛べぬのか!」


 普通は飛べない。魔法使いなら飛べるけど。


「勇者様、今日のクエスト一覧ですが……」


 戻ってきたリアンが、クエストの一覧を渡してくる。

 ……うーん、ここ最近は平和なんだな。

 魔物の討伐依頼が一つも無い。盗賊団の駆除も無い。後は薬草集めや、荷馬車の軽い護衛程度。


「昨日と、ほぼ変わりませんでした」

「みたいだね」


 荒事がないのは、王国所属の兵だけで事が収まっているからだ。冒険者の手を借りる必要がないのである。


「担当者にも確認いたしましたが、魔物などの脅威は日々減っているそうです。ですので国王軍や、領主の私兵で処理が終わるそうです」


 やっぱりね。

 魔王が倒れたとはいえ、一年でこうも状況が変わるとは。あの時、俺たちが魔王を倒せていたら、みんなでこんな生活を味わえたのかな……。


「ふん、魔族も地に落ちたものだ。情けない」


 ……魔王を倒していたら、このチビッ子はいなかっただろうけど。

 リアンが、俺の顔を見ながら返事を待っている。俺がどう答えるかは分かってそうだけど。


「明日からは冒険者ギルドには行かなくていいよ。騎士団からの連絡を待つ方がよさそうだ」

「かしこまりました」


 リアンは優雅に一礼すると、家事へと戻っていった。

 しかし、騎士団からの連絡待ちになると、ますます一日が暇になるな。ロスヴィータの遊び相手ばかりしているのは辛い。

 もっと、血なまぐさい毎日を予想していたのに。復讐心に駆られて、バグを潰しまくるような日々を。

 もちろん、復讐することを忘れているわけじゃない。ぼんやりしている今でも、勇者スキルはきちんと働いていて、周囲の気配を自然と探っている。

 いきなり扉を突き破って賊が入ってきても、すぐに対応できる。十人二十人程度なら、素手でも撃退できる。

 まあ、王都じゃ、賊なんて出ようがない。もう少し小さな都市ならスラムもあるけれど、王都は住民の管理がとても厳しい。

 このままじゃ、腕が鈍ってしまいそうだ。陛下にお願いして、魔物討伐隊にでも入れてもらおうか。


「またよくないことを考えてそうな間抜け面だな」


 誰が間抜けだ。端正とは言わないが、それなりに容姿のレベルも高いぞ。


「どうせ力の振るいようがないとでも思っているのだろう、馬鹿め。力はいたずらに振るうものではないわ」


 魔物を討伐する役に立つのに? みんなのためにもなるよ?


「浅はかだな。とにかく貴様は自覚が足りておらん。力をもつ者が、どうして力を使うのか考えてみよ」


 勇者なら、魔王を倒すため、世界に平和をもたらすため。

 ……違うのか?


「気づかんようだな。やはり貴様は勇者に向かん」


 ロスヴィータは、今度は答えを教えないまま引っ込んでいった。

 勇者がどうして力を使うのか、だって?

 そりゃ、人間の国を平和にするため、魔王を倒すためだろう。

 今はもう魔王はいないみたいだけど、魔物を倒すのは平和につながるだろう? なら、そのために力を使ってもいいじゃないか。

 悪い奴相手なら、バグじゃなくても勇者が戦う理由になるだろう。これのどこが間抜けで浅はかなんだ?

 分からない。でも、ロスヴィータには、勇者の責任ってやつを教えてもらった。さっきのが、意味のない罵倒だとは思えない。

 責任、責任か……。

 ロスヴィータは、俺に勇者としての責任を持てと言った。勇者という肩書を受け継いだのならば、勇者らしくしろって。

 勇者らしく、か。世界を救ったことを認めろ、商人のおっちゃんを助けたことを認めろ、あの時は衝動的に少しは理解したつもりになっていたけど。

 今になって考え直すと、やっぱりまだ俺には全然理解できていないんだな。勇者がどうして力を使うのかも。

 勇者は強い。強いから力を使って敵を倒す。俺はこう思っているが、これはロスヴィータからしたら違うんだろう。

 魔物を倒すことが間違っているわけじゃないと思うんだが。

 俺は、復讐のために勇者になった。そういう目的があるから、この強力な力を使って……。


「あ」


 ああ、そういうことか。

 いたずらに、考えも無しに使うのは勇者の力じゃないってことか。魔物討伐は人間にとって良い事だから、って理由だけじゃだめなのか。

 俺の知る勇者・ラザフォードは、勇者だから魔王討伐に向かったわけじゃない。

 魔王討伐という目的をきちんと持っていたから、勇者の力を使うと決めたんだ。今の俺みたいに漠然とおぼつかない感じではなく、しっかりとした目的があったから勇者になったんだ。

 魔物討伐すれば人間のためになる、それは確かに。でも、持て余してるからって理由を前提にして力をつかっちゃダメなんだ。

 そうだ。まだ俺は勇者ってものが分かっていない。ボケている。頭も目的も。

 やっと自分のジョブを理解できた気がする。


「勇者様、お食事の支度ができました」


 おっと、もうそんな時間だったか。


「ありがとう、リアン」

「いえ……」


 どうしたんだろう。珍しくリアンが顔を曇らせた。


「……失礼いたしました。どうぞ、こちらへ」


 え、俺なんか変なこと言ったかな?

 食卓には、もうロスヴィータがいた。そうしたら、あっちもあっちで、


「……ふん、少しはマシになったか」


 と、俺の顔を見て言ってくる。

 なんだろう、俺はそんなにおかしな顔をしていただろうか。

 いつも通りに美味いリアンの食事を平らげる。片づけは、お願いする間も無くリアンがやってくれる。

 さてと、少し歩きたい気分だけど、どうしようか。

 そこら辺を散歩、というわけにはいかない身分なので、王宮の庭でも借りて歩き回ろうか。少し、気分転換がしたい。

 王城までは走ればいいだろう。辻馬車を捕まえるまでもない。勇者の脚力なら、家の屋根でも伝っていける。

 そんなことを考えながら立ち上がると、家の扉が叩かれた。

 軽いノックじゃない。力の入った連打。

 音もたてずにリアンが出ていった。俺も尋常じゃない雰囲気を感じて後に続く。

 すると、やはり焦った顔の女性が家に入って来た。

 アーサじゃないが、ユニコーン騎士団の略式正装を着ている。確か、騎士団で隊長をしている人だったような。

 そんな人が焦って飛び込んでくるってことは、ついに来たかな。


「勇者様、バグと思わしき魔物が現れたとの報せが入りました」

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