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おひねり生活

「ただいま!」

薄暗くなったアパートの部屋のドアを、翼が勢いよく開ける。

『ん?おかえり』

キョトンとした顔で修二がこちらを見つめる。


「お前、飯食ったの?腹減ってない?」

翼の問いかけに、


『うん。そう言えば……』

ギターを抱えたまま修二が答える。


翼が修二の部屋で暮らし始めて2ヶ月程が過ぎた。


曲作りに夢中になると、修二は寝食を忘れる。

いつもの事だ。



「今日さ、お客さんから おひねりもらったんだ。材料買ってきたから

適当に作るね」


『グウ〜……キュルルル……`』

翼に食事の話をされ、修二のお腹の虫が急にうるさく鳴き始める。


「ふふん……身体は正直だな?」

翼が鼻で笑いながら台所に立つ。


『おひねり』と言うのは、2人のバイト先である引越し屋で、お客さんがくれる

チップみたいなものだ。

時々もらえるこの『おひねり』は、彼等の大事な食費になるのだ。

バイト代は家賃、光熱費、何よりスタジオのレンタル料金に消える。

壁の薄い安アパートでは、思い切り音を出す事は出来ない。

修二の実家の地下室という手も無くはないが、交通費と時間の節約を考えると、

スタジオのレンタル料は絶対削れない。

だから『おひねり』で食費をやりくりする必要があった。


翼は米を洗って、炊飯器にセットした。

ご飯が炊き上がる頃合いを見計らって、買ってきた豚コマを

熱したフライパンに投入し、ニンニクと共に炒める。

あっという間に部屋中に香ばしい匂いが立ち込める。


たまらず修二が台所に覗きにやって来た。

「ここへ焼き肉のタレを入れて、炊きたてのご飯にコイツを乗っけて……」


『うまそう!!!』

修二が目を輝かせた。


小さなテーブルに向かい合わせで座り

翼特製のスタミナ丼を無言で掻きこむ2人……


「そう言えばさぁ、俺がここ来た時、お前ひどい食生活だったよな?

炊飯器に、いつ炊いたか分かんないご飯入ってて、樹海みたいになってたよな?」

翼が笑いながら言い出した。


『うん。そうだな。米炊いたの忘れてたもん。しょうがないじゃん』

修二も笑った。


「で、炊飯器ひとつダメにして、茹でたパスタに塩コショウして食べてたんだもんな?

そればっか食べてたんだもんな?」


『そうそう。マジ、俺パスタになるかと思うくらいパスタ食ってた。

パスタに塩コショーかけて。俺、料理できないからさ。

お前来てから飯作ってもらえて大助かり!』

2人はゲラゲラ大声で笑った。


「俺だって得意なわけじゃないよ。母さんの見よう見真似だから」

翼が言うと、


『見よう見真似でこんなご馳走作れるんだから、お前スゴイよ』

と、修二が尊敬の眼差しで翼を見つめる。


「ご馳走って、肉と米だぞ。野菜ないし、バランス悪いよな……」

翼が肩をすくめると、


『それでも俺にはご馳走なの!』

修二が笑顔で言った。


翼が恥ずかしそうに

「そう言ってくれると作り甲斐あるわ〜。

いやあ……だって、お前、美味そうに食うから……ついね」

と言った。


『お前、お母さんそっくりだな、そういうとこ……』

修二が言った。


「そーいうのいいから!明日はバイト?」

翼が修二に聞いた。


『うん』


「じゃあ早目に寝ようぜ!」


お腹いっぱいになった2人は満足して寝床に入った。



****


翌朝は2人揃って、引っ越し屋のバイト……


汗水流して必死に荷物を運ぶ2人。


慣れない仕事で、荷物の重みに耐えれずふらつくと、

『おい‼︎気をつけろ新人!』

先輩から怒号が飛ぶ。


それでも休憩時間は、修二と翼が寄り添って、今作っているの曲の事で盛り上がった。


先輩から

『お前ら、バンドやってんの?プロ目指してるの?』

と突っ込まれ、


「え?まあ……とりあえずツインギターで、修二がボーカルで、何となく形になって来た感じですかね」

翼が、照れ臭そうに答えた。


『へえ、すげーじゃん!お前らがライブやるようになったら、俺も聴きに行くよ!

ちゃんと教えろよな!』


先輩の言葉に2人が声を揃えて

「「はい!」」と大きな声で返事をした。


2人の輝くような笑顔を見て、

『何だ?仕事の時よりいい顔しやがって』

と先輩も笑った。


本当にどこかでライブできる日が来るといいな……

いや。絶対やるんだ‼︎


2人の思いは同じだった。


『よっしゃ!続きやるか!』

先輩の声に翼と修二も立ち上がる。


再び重い荷物と格闘しながら、汗と埃まみれの2人の顔は、

夢と言う名のスポットを浴びて、

太陽みたいに明るく輝いていた。














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