門出
今日は特別な日。
お店を貸し切りにして、パーティを執り行う日。
何のパーティかって?
優介と玲子の結婚パーティ‼︎
あのライブデートから、順調に交際を進め、花見の日に正式にプロポーズ……
そして今日2人は晴れて夫婦になるのだ。
優介30才、玲子32才、詩織は7才になっていた。
詩織は小学校にあがり、新しい友達もでき、
そして今日、新しい家族ができる。
彼女の環境はにわかに変化した。
決して悲しい変化ではない。
むしろ、大好きな優介がお父さんになってくれる事を、
詩織はどこかで期待していた。
みんな精一杯おめかしして、パーティに臨んだ。
玲子のベールと、ブーケは、遥の手作り。
決して豪華ではないけれど、手作りの温もりがひしひしと伝わってくる。
優介のタキシードはレンタルのせいか、お腹の辺りが少し苦しそうだ。
ケーキは新婦である玲子自身が作った。
ご馳走は、遥の作った物が、テーブル上に所狭しと並んだ。
と言っても、普段作っているものと、さして変わらないのだが……
鳥の唐揚げ、サンドウィッチ、ポテトサラダ、そして……
なぜかアジフライ。
これは、詩織のリクエストだった。
このパーティが済んだら、玲子と詩織は、優介のマンションへ引っ越してしまう。
すぐ近くとはいえ、約2年家族として暮らして来たんだもの。
遥も、翔も、翼も、それは寂しい気持ちでいっぱいだった。
2年前のあの朝、玲子が我が家へやって来なかったら?
出会っていても、一緒に暮らす事を選ばなかったら?
今みたいな寂しい気持ちは味あわなかっただろう。
でも、その代わりに、全員の絆も思い出も、築くことはなかった。
みんなでいたからこそ、生まれた幸福もあった。
様々な思いが、それぞれの胸を熱くする。
そんな中、お祝いに駆けつけた修二が、翼と共に、自作の曲を披露した。
優介と玲子のために修二が少し前から用意していた曲だった。
幸せになって欲しいと、精一杯の思いをメロディに乗せて……
修二の優しい歌声と、翼のギターがみんなの涙を誘った。
大きな拍手が2人を包んだ。
詩織は暖かい気持ちを抱きながら、リクエストしたアジフライを口にした。
今日なら絶対大丈夫という確信があったから……
大きな口を開け、アジフライにかぶりつく詩織を少し離れた場所で、
クロがジッと見守っていた。
『美味しい‼︎』
思わず詩織が叫んだ。
みんな驚いた。
クロは一瞬クスッと笑ったようだった。
詩織はこの日生まれて初めて、アジフライを美味しいと思えたのだった。
****
翌日……
天海家から、玲子と詩織の荷物が運び出された。
優介のマンションに運び入れるためだった。
引っ越しを手伝いながら、遥は涙を必死にこらえていた。
全ての荷物を運び出すと、堪らず遥が号泣し始めた。
「もう……妹を嫁に出す気分よ……」
玲子も泣き始めた。
『私だって……実の姉さん以上の存在です、遥さんは……
お店は毎日手伝いに来ますから、今生の別れじゃないですから、
そんな泣かないでくださいよ……』
「分かってるわよ、でも……
ていうか、あんたも泣いてるじゃない⁉︎」
2人は抱き合ってオイオイ泣いていた。
『すぐそこに行くだけなのに、大袈裟だな』
翼が呆れて言った。
引っ越しの手伝いをしていた翔も笑った。
優介は、空を見上げて涙を堪えているようだった。
天海家を後にして、優介のマンションに到着した玲子と詩織は、
少し緊張していた。
『今日からここが、君たちの家だよ』
優介が改めて2人にそう言った。
2人は優介を見つめてコクンと頷いた。
詩織は何かに弾かれるようにベランダへ駆け出す。
空をキョロキョロと探す詩織。
ベランダから見下ろした駐車場にも目を落とす。
いた!
カースケだ‼︎
駐車場のフェンスの上に、
こちらを見上げる1羽のカラスが止まっている。
胸に白いブーメラン模様。
詩織は何も言わず、カースケに向かって笑顔でピースサインを出した。
カースケも笑った気がした。
しばらく見つめ合ったあと、カースケは赤く焼けた夕方の空に飛び立って行った。
詩織はまだ笑顔のままでその姿を見送った。
約束なんかしなくても、必ずまた会える。
カースケはいつも近くにいる。
夕焼け空で赤く染まった詩織の笑顔は、
とても満足気だった。




