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詩織とアジフライ

今夜の天海家の夕食は、ランチで残ったアジフライだった。


それを見た詩織はソワソワ落ち着かない様子……


『お前、魚キライなんだろう?』

翼が詩織をからかった。


『違うもん……』

詩織が小声で精一杯抵抗した。


「残り物でゴメンね。でも、美味しいから、一口食べてみて!」

遥の言葉に詩織は黙ったままだ。


そうじゃない!

詩織がソワソワしていたのは、魚が苦手で食べられないのが理由ではない。

気になっていたのは、カースケの事だ。


姿を見なくなってから久しい。

どこへ行ってしまったのかと、ずっと気になっていたのだ。


『カースケに ……アジフライ好きだから、カースケにあげたいなって……』

詩織が、絞り出すように言うと、


『またこの子は、そんな夢の話して!』

玲子がたしなめた。


「何それ?面白いね。続けて!」

翔が詩織の方を見て促した。


『いつも、アジフライが夕飯だと、カースケがベランダに来るの。

で、少しお喋りして、アジフライ持ってどこかに行くんだよ。

私が、幼稚園でひとりぼっちだった時も、カースケだけは近くにいてくれたんだ』

詩織は嬉しそうに話した。


「へー……じゃあ今夜、カースケが来るかもしれないって事?」

翔も嬉しそうに言った。


『じゃ、ベランダに出てみよーぜ!アジフライ持ってさぁ!』

翼はそう言いながら、手には既にアジフライを持っていた。


みんなでゾロゾロとベランダへ向かう。

クロだけは、ちらっとみんなを見ただけで、また眠ってしまった。


詩織は誰も聞いたことのないような大声で、

『カースケ!出ておいで‼︎』

と叫んだ。

そこにいた全員が心底驚いた。

詩織がこんなにも待ち焦がれるカースケとは一体……


薄暗くなった空の向こうからバサバサ音を立てて、

一羽の黒い鳥が現れた。


普段目にするよりもひと回り大きなカラス。

胸には白いブーメランのような模様がある。

みんな息を呑んだ。


カラスは臆する事なく、ベランダの手すりに止まった。


『カースケ‼︎ 今までどこ行ってたの⁈』

半泣き状態の詩織が、カースケに向かって言った。


胸を張ってカースケが答える。

「家族に囲まれて、友達もできて、詩織はもう大丈夫‼︎

そう思ったからさ」


もちろん、カースケの言葉は詩織以外の人間には聞こえない。


『大丈夫じゃないもん』

詩織はとうとう泣き出した。


会話している事が分からない周りの人間は、

カースケと詩織を交互に見ながらオロオロするばかり。


「大丈夫か?」

『何で泣いてるの?』

心配して、詩織に声をかけるが、当の詩織はカースケから目を離さない。


カースケが、ため息をついた後言った。

「いつも、お前の近くにいるから。お前がさ、アジフライを美味い!

と思えるようになった頃、きっとまた会えるから。な?」


『ホント?絶対?約束だよ!』

詩織が叫んだ。


カースケが翼の手からアジフライを奪うと、また暗くなった空へ飛び立っていった。


『わっ!でけーカラスだったなぁ……』

翼が羽音に仰け反りながら言った。


他のみんなもしばらくは、カースケが消えていった方角をポカーンと見つめていた。


詩織がカースケと何を話したのか、本当に会話していたのか、

周りのみんなには結局分からずじまいだったが、とんでもなく大きな、

胸に模様を持つカラスは実在した。


「テレパシーとか、そういう事なのかな?

それとも、子供しか持ってない独特の感性とか」

翔がそんな事を言ってみたが、誰も納得できていないようだ。


詩織はベランダから戻ると、まっすぐに食卓に向かい、

自分の席に着いた。


目をつぶって、大きな口でアジフライを迎え入れた。


『やっぱり、ちっとも美味しくない……』

詩織はしょんぼりした。


「残念だな……詩織ちゃんに美味しいって言ってもらえるように、

おばさん、頑張るね!」

遥がそう言った。


そんな事があった後、詩織は、なかなかアジフライを美味しいと思えないまま、

月日が過ぎて行った。


店は日々忙しく、翔はバイトと学業に追われ、翼は週末の修二とのセッションを励みに、

圭一はちょこちょこランチを食べに(ほぼ時間外なのだが)やって来た。

優介は店を手伝いに来てくれたり、天海家の食卓を荒らしに来たり、

そして玲子との仲はますますいい感じに。


それぞれの時間、それぞれの日々が流れて行った。



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