覚悟
修二と翼が辿り着いた先は……
そう!やはり天海家。
『これからどうするの?』
翼の問いに、
「東京に行こうと思ってる」
と修二。
『え?だって、学校とかどーすんだよ⁉︎』
驚く翼に、
「向こうに母さんが住んでるんだ。学校に行けって言うんなら、
転校してもいいし……
とにかく音楽は続けたいんだ!」
修二の決意は固いようだった。
そこへ、遥が店を終えて二階に上がってきた。
「あら、修二君いらっしゃい……
て、何かあった?2人とも真剣な顔でさ。
一体何の相談よ?」
翼が、さっきあった事を遥に話した。
「……なるほどねぇ。まあ、お父さんの仰る事はもっともだよね」
『え?母さんもあっちの味方かよ⁉︎』
翼がムッとした様子で言うと、
「いや、味方とかそういうんじゃなくて、子供に好き好んで
苦労して欲しい親なんていないじゃん!
何の保証もない世界へ、足を踏み入れようとしてる子に、
はい そうですかって軽く言える訳ないでしょ。
もちろん、子供のためを思うからこそね」
遥の言葉に修二が言った。
「夢、持っちゃダメなの?」
「ダメではないよね。ただ、もう少し現実的な目標ないの?
他にやりたい事とかさ。音楽なら趣味でもできるじゃない?」
『へー。母さんも普通の親だったんだねー』
翼が茶々を入れる。
「当たり前でしょ?子を思うのに、普通とか普通じゃないとか、
そんな区別どこにあるのよ」
翼が修二の方を見て、首を傾げ変な顔でおどけてみせた。
「俺は……音楽以外考えられない。やってけるのかどうかなんて
分からない。でも……どうしても挑戦させて欲しいんだ!」
修二は遥の方を向いて、熱い眼差しでそう言った。
遥も翼も、修二の真剣さは十分理解できたが、正直、
どうしていいか分からなかった。
そこへ圭一が訪ねてきた。
『すみません。うちの修二お邪魔してないでしょうか?』
「いらしてますよ。どうぞ……」
遥が家の中へ圭一を案内した。
修二の姿を見つけると、
『人様にまで迷惑かけて、お前はどういうつもりだ‼︎』
頭ごなしに怒鳴りつけた。
「まあまあ、お父さん!そんないきなり怒ったって……
今日はこちらでお預かりしますので、お互い、少し冷静になってから、
もう一度話し合われてはどうですか?」
遥の言葉に、圭一が俯いた。
修二は黙ったまま、圭一の顔を見ようともしない。
少し間があった後、圭一が答えた。
『それじゃあ、今夜こちらでお願いできますか?
明日改めて出直します』
「お安いご用です」
遥は笑顔で答えた。
圭一は深々と頭を下げた後、がっくりと肩を落として去って行った。
修二は気付いていただろうか……
いつも、自信に満ちた圭一の背中が、
今日は小さく震えていた事を……
その夜、修二は天海家に一泊することになった。
翼の部屋で何やら遅くまで話していて、眠りについたのは、
空が白む頃だった。
どんなに眠くても、
どんなに現実が嫌でも、
必ず今日はやって来る。
2人は朝食もそこそこに、眠い目を擦って学校へと、出かけて行った。
昨夜は遥もあまり眠れなかった。
彼女なりに色々考えるところがあって、なかなか
寝付けなかったのだ。
それでも頑張って店を開ける。
お客様の美味しい顔は、遥の生きる糧だもの。
今日のランチ はアジフライ定食。
薄付きの衣はさっくりと、中はジューシーに。
自家製タルタルソースを添えて……
なかなかの盛況だった。
ランチが終わり、玲子と共に一息ついていると、
圭一がやって来た。
『ランチ、もうおしまいですよね?』
圭一が言った。
「あの、余ってるのでよければ。
あと、私もご一緒していいですか?」
遥がそう答えた。
テーブル席に、向かい合わせで座り、
2人でアジフライ定食を食べ始める。
揚げたてで、まだモウモウと湯気が上がっている。
お箸を入れると、サクッといい音がして、
中からふっくらとした白身が現れる。
『あの、修二がお世話になって、その……
情けない話で、すみません』
圭一は本当に申し訳なさそうに言った。
「そんな!情けなくなんかないです!
子どもは、親の言う事聞かないようにできてるんですかねぇ。
ま、親と子は別の生き物ですからね、まして、子供は親の持ち物じゃないですから、
突拍子のない事言い出すのも無理ないかもしれませんね」
遥は明るくそう言った。
圭一も笑顔で
『いつまでも子供だと思ってたのに、いつのまにかしっかり自我が目覚めていて……
何だか驚いてしまって。
あれから色々考えてたら、わたし自身の若い頃を思い出しましてね、
今の修二と同じ理由で親父と大喧嘩して、家出して、でも、
1人じゃ何にも できないってすぐに気がついて、家に戻ったんですけどね。
あのまま、自分の意思を貫いていたら、今頃どうなっていたのかななんて……
あ、誤解しないでくださいね。今の生き方を選んで後悔してるわけじゃないんです。
ただ、ふと立ち止まって後ろを振り返る時が、いまだにあるんですよ。だから……
だから、あいつの好きにさせてみようかと思うんです。
あいつはまだ若い。失敗したって、軌道修正ならいくらでも可能だ。
その時、わたしの出番があれば、協力したいと思ってます』
「よく決断されましたね……我が子を信じてやれるのは親しかいませんもんね!
さ、冷めないうちにどうぞ」
こぼれそうになる涙をこらえながら、遥は笑顔でそう言った。
この出来事から約1ヶ月後、修二は東京へ……
『休みには、そっち行くからな!』
「待ってるよ」
翼と修二は硬い約束を交わした。
心配する必要もなく、週末には修二がこっちへやって来て、
例の地下室で、一緒にギターを弾いたり、歌ったりしていた。
修二に教わりながら、翼もギターを覚えた。
そんな幸せな時間が流れていった。




