表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

バッティング

待ちに待った休日……


遥は朝からソワソワソワソワ……

とにかく心ここにあらずで全く落ち着かない。


半年ほど前に、チケットをゲットしてからずっと心待ちにしていた、

某バンドのライブに行く日だからだ。


離婚した直後にたまたま聴いた彼らの曲が、遥の心を捕らえて離さなかった。

メッキメキにぶっ壊れた感情に、優しく包帯を巻くかの様なメロディー……

心の傷口をふさいでいくような歌声……


彼らの音楽に何度となく慰められ、癒され、勇気をもらってきた。

彼らの音楽と共に泣いて、笑った数年間……


その彼らのライブに、念願叶って初めて出かけることになったのだ。


ただ、このバンドが好きな事は遥、翔、翼の3人の秘密である。

いい年をして、こんな事にのめり込んでいるなんて、

何となく周りの友人にも言いづらかったのだ。


今日は名目上買い物ということになっている。

母の影響で、このバンドの曲を聴いている翼を伴って出かけた。

翔はバイトで忙しいし、玲子達も今日は出かけると言っていたから、

遅くなっても問題なさそうだ。


玲子と翼は現地に着くと、まずグッズを買いに走った。

早目に着いたおかげで、列も短く、並ぶことなくグッズのTシャツが買えた。

2人してトイレで着替え、時間まで会場周辺を散策する事にした。


2人きりで公園を散歩したり、ランチしたり、こんな事いつぶりだろうか……

終始にこやかに、ゆったりとした時間を過ごした後、いよいよ会場へと向かった。


指定された座席に座って開演を待った。

否が応でもも期待が高まる。

場内も異常な熱気だ。

その熱気のせいか、そこら中 霧がかかったように見える。

当然だろう。ここにいる誰もが、彼らに会える興奮を抑えきれず、

体の外へ放出しているに違いない。


そして自分もその1人なのだ。


ライブが始まると、もう頭の中は彼らに会えた事で真っ白になった。

席は遠いが彼らの質量を感じられる距離に、やっと来られた。

遥は自然と涙を流していた。


ところが、ここで頭痛持ちの遥の発作が起きてしまった。

何で今?このタイミングで?

とにかく痛い!

何とかしなきゃ‼︎


遥は鎮痛剤を探すべく、しゃがみこんで座席下のリュックを漁った。

会場内は照明を落としてあるので、なかなか見つからない。


やっとの事でピルケースを探り当て、ペットボトルの水で薬を流し込む。

翼が一瞬心配そうにこちらを見たが、直ぐにステージに釘付けになった。


ペットボトルをリュックに戻そうとした拍子、あろうことか、

前の席へ勢いよく転がり、足にぶつかってしまった。


気がついた前の席の男性がこちらを振り返る。


『どうぞ』

そう言って水を拾ってくれた男性から、ペットボトルを受け取りながら


「ありがとう……⁉︎」

と礼を言った遥は男性の顔をみて驚いた。


「優介くん⁉︎なんで⁉︎」

その声に優介の隣の2人がこちらを見た。

振り向いたのは、なんと玲子と詩織!

周りもジロッとこちらを見た。

しまった。

大きな声は禁物だった。

遥は迷惑をかけた周囲に向かって、ペコリと頭を下げた。


『遥さん……』

玲子が驚いている。

優介が、唇の前に人差し指を立てて『シー』と

玲子をたしなめた。

詩織もキョトンとしている。


バレてしまっては仕方がない。

遥は何事もなかったようにステージに目をやった。


前列の面子も、何か悟ったのか、同じくステージに目を向けた。

ちょうど、メンバーのMCが始まった時だった。


何で優介がここに居るのか。

しかも玲子と詩織を伴って、どうして?


湧き上がる疑問はとりあえず後回し!


今はライブに集中したい ……


遥の思いに応えるかのように、好きなセットリストが立て続けに流れる。

いつのまにか頭痛も消えていた。


隣で翼が拳をあげてリズムにのっている。

気がつくと遥も同じように拳をあげていた。


自分より小さかった翼は、遥の背丈を余裕で追い越し、

輝くような笑顔で隣に立っている。

さっき買った、お揃いのTシャツを着て……


いつだって翔と翼の3人で乗り越えてきた時間……

嬉しい時も、悲しい時も、いつだって3人で……


音楽って不思議。

あっという間に過去へと記憶を引き戻す。


でも辛くない。

過ぎた時間は全て大切な宝物だと、今なら胸を張って言える。

成長した我が子と共に、こんな素晴らしい日を迎えられるなんて……


『やっぱ、この人たち大好きだーーーー!!!』

ステージの彼らを見つめ、心の中で叫びながら、遥はまた涙を流した。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ