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ハリケーン玲子

今日の玲子はいつになく張り切っていた。


あと数日で優介と出掛ける日が来る!

しかも行きたかった場所へ行けるのだ……


否が応でも張り切るだろう。

それ自体は何て事はない。

むしろ人として普通の反応だ。


ただ玲子が張り切ると、店内はハリケーンが起きる。


朝の仕込みの段階でステンレスのボウルを床へ落とし、中身を台無しにした。

玲子は『きゃっ!』と悲鳴を上げた。

「仕方ない ……サラダの内容変更しよう!」

遥がそう言って玲子をなだめた。

朝から嫌な予感……


案の定、オープンしてからも、

玲子はどこか心ここにあらずで

『いらっしゃいませ!』

の挨拶すら、声が上ずってお客様の笑いを誘ってしまう。


食事が済んでいないお客様のテーブルに、慌ててデザートを運んでしまったり、

洗い物の最中にカップを3つもダメにした。

いつもなら1つで済むところなのだが……


入り口のマットに躓いて、お水のグラスをひっくり返したりもした。

これではマズイと、マットを回収しようとするも、水を吸収したマットは

想像以上に重く、結局、遥が外へ干しに出た。

それならばと、その後の濡れた床をモップでせっせと拭いていたら、今度は滑って転んだ。


会計で、お釣りの小銭をばら撒くこと計4回。


デザートに絞っていた生クリームが跳ねて、自身の顔とエプロンを汚し、

お召し替えする事計2回。


「今日、なんか変だよね。いつも割と変だけどさ、

輪をかけておかしいよね。何かあったの?」

すっかり諦め顔の遥が言った。


『あの、本当にごめんなさい!こんなつもりじゃないんですけど……』

シュンとする玲子を 怒る気なんて、遥には最初から毛頭ない。

純粋に心配しただけだ。


「うん。大丈夫!ワザとじゃないって分かってるから。

でも、なんか心配事でもあるんじゃないかって気になっちゃって……」


『あの、どちらかといえば、心配事ではなくて……

むしろ楽しみで興奮してしまってるというか……』

玲子がモジモジしながら答えた。


「あ、そう」

おそらく本当の事だろうと遥は思った。

心配事や悩みを抱えていれば、素直にぶつけてくるはず。

玲子はそういう女性だと遥は理解している。


「ま、怪我しないようにやって。できればこれ以上損害が出ないように

してくれると助かるけど」


『あー本当にすみません……気をつけます……』

玲子は反省している様子だった。


「ところでさー興奮するような楽しみってなーに?」

遥がニヤっとしながら玲子に聞いた。


「「ガシャーーーン」」

拭こうとしたお皿が見事に玲子の手から逃れ、床へと転げ落ちてしまった。

『あ……もう、本当にすみません……』

玲子は薄っすら涙ぐんでいた。


「ごめん、ごめん、聞いちゃマズイ事だったんだね!

いいよいいよ、私が片すから」

言うが早いか、遥は さっさとほうきと塵取りを持って、

テキパキと割れた皿を回収した。


『全然!あの、久しぶりに出かけるんです!

以前から行きたいと思ってた場所なんで、嬉しくて……』


「へー そうだったんだ。私も近々出かける予定あるよ。

凄く楽しみなんだぁ……

お互い、いい一日になるといいね!

でも、それまでは仕事に集中してね」

遥はにこやかに言った。


『……はい』

玲子は申し訳なさそうに小さな声で返事をした。


遥の願いも虚しく、この日のハリケーンはその後も続いたのだった。



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