時給はオムライス
さてさて……
月日が流れ、家に招いたママ友達の口コミや、ビラ配りが功を奏し、
比較的順調に店の客足は伸びて行った。
和やかな店内の雰囲気もさる事ながら、遥が作る食事と、
玲子が作るデザートも、美味しいと評判になり、ジワジワと
リピーターが増えて行った。
スタート時は、家族プラスアルファ(なぜかプラスアルファが常にいる)を
食べさせて行くのに精一杯だったが、ほんの少し余裕も生まれ、
玲子に、わずかではあるが給料を支払えるようにもなった。
忙しいが、充実した幸せな日々が流れていた。
優介が自分の仕事の休みを利用して、店を手伝ってくれて
大助かりしていた。
自称 “動けるデブ” と言うだけあって、よく働いた。
まーるいお腹をフルフル揺らしながら、狭い店内をキビキビと
動き回っていた。
普段から客商売をしているだけあって、接客もお手の物だった。
お客さんから、
『今日は あのお兄さんいないの?』
と残念そうに言われることもあるくらいだ。
しかも完全なボランティアで、唯一の見返りと言えば、
優介の大好物のオムライス‼︎
洋食屋さんで出てくるような、ふわとろのやつではなく、
玉ねぎ、ベーコンなどの入ったケチャップライスを、
外側は固めで、スプーンを入れた時に中が微妙に半熟になっている
卵で包んだものが好みらしい。
家庭でお母さんが作るような、とてもオーソドックスなオムライス。
ただ、サイズが尋常じゃない。
ご飯3合分のケチャップライスを3個の卵で包むのだ。
それを鉄製のフライパンで作る遥の左手首は毎度悲鳴をあげるが、
こんな事くらいで、手伝ってもらえるのなら安いものだと思っていた。
優介はその特大のオムライスを、とても幸せそうに食べるのだった。
その顔を見ると、遥の苦労も報われる。
同じように遥の顔も幸せな笑顔になる。
それを見て詩織が、
『おじちゃんのお口は掃除機みたいだねー』
と感心しながら言う。
『あ、そう?すごい?ほらぁ、詩織ちゃんも吸い込んじゃうぞーー‼︎』
優介も詩織の言葉に便乗して、彼女をからかう。
詩織を抱きしめて、頭の方から吸い込むふりをする。
『キャーーー‼︎』
詩織も大声で笑いながら優介とじゃれ合う。
傍目から見たら、まるで実の親子のようだ。
遥も、玲子も、そんな2人を目を細めて見ていた。
その玲子だが、なかなかの天然ぶりで、皿やグラスを割る事は
しばしばだった。
どういうわけか、一生懸命やろうとすればするほど空回り……
オーダーミスも多いが、持ち前の大らかさと、優介のナイスフォローで
何となく店は回っていた。
ワザとでもなければ、やる気がないわけでもなく、
ただひたすらドジ子な玲子を、優介は可愛いと思っていた。
もともと子供好きな優介は、詩織の事も、可愛くて、
会いにくるのが楽しみになっていた。
詩織の方も、優介が来るのを心待ちにしていた。
数日顔を見せないと、とても寂しがり、玲子に
『遊びに来てって電話して!』
と催促するほどだった。
もちろん、そんな電話、玲子にできるはずはないのだが……
そんなある日、優介が手伝いに来た時、
玲子にこっそり言った。
『今度、一緒に出かけませんか?もちろん、詩織ちゃんも一緒に。
玲子さんもたまには息抜きした方がいいでしょ?』
玲子は驚いた。
『あの、それって……?』
『難しく取らないで。気晴らしになればと思ってさ。
どこか行きたいとこある?』
優介が笑顔で言った。
そうか。
深い意味なんかあるわけないか。
優介さん、私より年下だし、兄の元妻だもの。
気を使ってくれてるんだわ。
そう思った玲子は答えた。
『それなら行きたい所があるから、付き合ってくれる?』
『OK!どこ?』
『えっとね……』
乙女の様な顔で玲子が話し始めた。
優介はにこやかに玲子の話に耳を傾けた。




