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ホームパーティー

翌日からお店の宣伝が始まった。


遥はご近所に、玲子は幼稚園のママさん達に、せっせと ビラ配り。


ところが、どこでどう伝わったのか、前妻と後妻が同居して、

おまけに商売まで始めようとしている事を知り、

違和感を覚える人が何人かいた。


噂というものには、とかく根っこや葉っぱがつくもので、

中には、前妻と後妻が共謀して夫を殺害し、

手に入れた保険金で、店を購入したのではないかと言う者まで現れた。

「みなさん想像力がたくましいのね」


『サスペンスドラマの見過ぎでしょうかね』


「ドラマよりドラマチックでしょ?私達のスタートって」


『確かに!』

笑い飛ばす2人に、気にする様子は微塵もなかった。


しかしそのせいで、何の関係もない詩織は、ますます孤立していった。

変わった家庭環境の子とは遊ばせたくないという、大人の入れ知恵に

子供が素直に順応した結果だった。


まあ、詩織にとっては周りの反応など、どうでもいい事だったが……

そもそも友人にあまり執着がなかったし、

『私にはカースケとクロがいる!』

そう思えば全然平気でいられた。


生き物と仲良くする事は大いに結構だが、やはり人間の友達も必要だし、

大人の事情に子供が振り回されるのは間違っている。

そう感じた遥と玲子は、

詩織のクラスの子ども達数人を招いて、ホームパーティーをしようと計画した。


幼稚園のお迎えの時に玲子が、勇気を振り絞って、

幾人かの親子に声をかけた。


子供の方は嬉しそうにするものの、親は難色を示した。

『子供さんだけじゃなく、良かったらお母さんもどうぞ!

子供さんに目も届きますから、安心ですよね?』


ママ友同士が顔を見合わせて思案していると、子供が

『ねえ、行こうよ!』とせがみ始めた。


『そうね……少しだけならいいかしら』

母親の1人が言うと、


『そうね、子供も行きたがってるし』

別の母親も賛同した。


こうして、週末に4組の親子を招待することになった。


****


日曜日。

お昼少し前に、4組の親子が一斉にやって来た。


思い思いに食べられるように、手巻き寿司を準備をした。

玲子が作ったシフォンケーキもデザートととして、スタンバイしている。


案の定、好きな具をそれぞれが選んで味わった。

うまく巻けなくて、手をすし飯だらけにする子もいたが、

それも手巻き寿司の醍醐味のひとつだ。

楽しそうな子供達の様子に、母親達も目を細めていた。


ひとしきり食事をたいらげると、詩織が他の子供達に クロを紹介した。


「かわいい猫だね〜。何て名前?」


『この子はクロって言うんだよ。自分で名前教えてくれたんだ』


「へ?猫が?どうやって?」


『それは……』


詩織が何か言いかけると、クロが

『ウウウ……』

と低い声で唸った。


『えっと、内緒』

詩織は言った。


「クロに何かあげてもいい?」


『だめだよ。人間の食べる物は猫には良くないんだって。

でもね、本当はカリカリご飯ばっかりじゃなくて、揚げ物も食べたい

と思ってるんだよ。ねー、クロ!』


クロは知らんふりをして、丸くなった。


「詩織ちゃん、知らんふりされてる」

プーっと膨れる詩織を見て、みんな大笑いした。


「詩織ちゃんって幼稚園だとあんまり喋らないのに、

おうちだといっぱい喋るんだね」


「ほんとだね、詩織ちゃんの声初めて聞いたかも」


『だって、幼稚園にはカースケが来るから、寂しくなかったもん』


「カースケ?誰それ?」


『えっと……カラス』


詩織の答えに、みんながまた大笑いした。


「詩織ちゃん、動物と仲良しなんだねー」


詩織はにこっとして頷いた。

「今度、カースケが幼稚園に来たら教えてね」

そう言われ、


『んー……きっと無理。私が一人の時しか来ないもん』


「なーんだ。つまんない」


『あ!そうだ』

詩織が言うと、テーブルに向かって走り出した。


皿の上に残っていたマグロの切り身を一切れ掴むと、

ベランダへ走った。


『ああっ!こら、詩織、行儀悪いでしょ‼︎』

玲子が叱ったが聞いてはいない。


詩織の後を、他の4人が追いかけた。


ベランダから、5人の子供が

「「「「「カースケ、おいでー!」」」」」

と声を合わせて叫んだ。


大きなカラスが、ベランダの手すりに止まった。

胸に白いブーメラン模様。

カースケだ!


「カッコいい‼︎」

1人の子が感嘆の声を上げた。


自慢気に胸を張って見せた後、詩織の手からマグロを奪って、

カースは、あっと言う間に空へ飛んで行った。


「すごいねー」

子供達が盛り上がっていると、


遥がみんなに、食後のデザートを勧めた。

子供達は、また一斉にテーブルに向かった。


ふわっふわのシフォンケーキと、子供にはオレンジジュース、

大人には、コーヒーや紅茶が振舞われた。


子供達が詩織と遊んでいる間、母親達は遥と玲子の実の姉妹のような

雰囲気と美味しい食事、そして美味しいケーキに心が和んでいった。


この日を境に、詩織は幼稚園で一人で過ごすことがなくなった。

1人、また1人と友達が増えていったからだ。


詩織は友達ができたおかげで、幼稚園に行く楽しみができたが、

代わりに気掛かりが1つできた。


幼稚園にも、家にもカースケが来なくなったから……


今日か今日かとカースケを待ちながら、家族と、クロ、友達に囲まれて

詩織の月日は流れて行った。














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