仲間との出会い
僕の前の一円君は驚くことしかできなかった。
別れの言葉を言う時間も、涙を流す時間もなかった。
僕は何も言えずにただ横にいることしかできなかった。
僕と一円君の間に悲しい空気が漂う。
その空気をかき分けて何か音が聞こえる。
ころんころん。ころんころん。
黄色の硬貨が転がってくる。あれは500円玉に違いない。
「やぁそこの小さきものよ。辛かろう。初めての別れなのだろう。」
500円玉は古いものだなと僕は思った。
「硬貨は、生まれながらにして、別れを背負っているのだよ。
君が、いくら辛いと思おうが、人間の世の中が、動く限り、我々は別れ続けるのだよ。
これから何度も別れ続ける。覚悟しておきなさい。」
ゆっくり500円玉は話した。
一円君は黙って聞いている。
500円玉は僕のほうを見る。
「君は何人目かね。」
どう答えよう。素直にもともと人間と言おうか。嘘をつこうか。
「それが、あの、もともと人間で朝起きたらこの姿になっていたんです。」
嘘をつくにはこの世界を知らな過ぎた。
「もともと、人間だと?そんなことも、ありえるのかもしれないなぁ。」
500円玉は意外と素直に受け入れてくれた。
「ふむふむ。そのことは、あまり、言わないほうが、いいかもしれんなぁ。
お金の中には、人間に、ひどい目にあわされてきたものも、たくさんおる。人間のために作られて、人間のために使われて、そのうえで、ひどい目にあわされる。考えてごらんなさい。そういうお金たちは人間を恨まないほうがおかしくないだろう。」
なるほど。納得だ。
「幸い、この財布の中に、そういうやつらはおらん。ここで色々学ぶといい。」
すると500円玉は財布の隅まで届くような声で言った。
「おぉい。みんな、新入りだぞぉ」
するといろんなところから声が返ってくる。
「よろしく、よろしく、よろしくねぇ。」