頼れるパートナー
優勝の結果が届いてから数日後、校内で大々的に宣伝され俺と佐伯さんはちょっとした有名人になっていた。
今まで話したことの無かったクラスメイト達からも話しかけられるようになった。
今も、席の回りをクラスメイトに囲まれてる。
(速水! 料理大会優勝したんだって?)
(おめでとう!!)
(次も頑張れよっ!!)
「あ、ありがとう……」
正直、俺は人に注目されるのが大の苦手だ。人から注目されるということは少なからず期待されているということだ。
周りの奴等は当然、優勝を期待しているだろう。
でももしそれが出来なければ……周りの態度はどうなるのだろうか? 俺はそれが怖くて仕方なかった。
「ごめん、ちょっとトイレ」
そう言って俺は逃げるように教室を出て行った。
教室を出て行った俺はトイレには向かわず中庭に向かった。
昼休憩が終わるまで後二十分ほど、ここで過ごすことにした。
「初めて来たけど誰もいないな……」
この中庭は校舎からかなり離れた場所にあるせいか、人がほとんどいない。
教室三つ分くらいの空間に自動販売機が二つ、大きめの木が一列に並んでいて、木陰の中にベンチがあるだけだ。
俺はベンチに腰をかけ、昼食を取ることにした。
「ふぅ……」
俺は一息つくと、来る途中購買で買って来たアンパンとハムのサンドイッチを開封し、口に頬張る。
しばらく何も考えずに食事をしていると誰かが隣のベンチに座って来た。
「隣いいかしら? って、もう座ってるけどね」
俺の返事を待たずにベンチに座った佐伯さんは、袋から弁当箱を取り出しフタを開ける。
チラッと覗くと、卵焼き、焼きサバ、煮物などが入っており幕の内弁当を彷彿とされるラインナップだった。
「綺麗だな」
「えっ!? い、いきなり何よ、まだ心の準備が……」
「弁当の話だ」
「だよねっ! 確かに可愛い弁当だもんねっ! ふーんだっ!!」
「わけ分かんない奴だな……」
何故か佐伯さんは拗ねてしまった。俺、何かしただろうか?
「でも良かったわ、いつもの速水君で。さっき様子がおかしかったから、何かあったのかと思ったわ」
「あんまり注目されるのに慣れてなくてな」
「……ごめんなさい、私のせいよね」
責任を感じているのだろうか、佐伯さんはしょんぼりとしてしまった。
「気にするな、確かに少し強引だったけど最後に決めたのは自分だ、後悔はしていない。むしろ感謝しているくらいだ」
「えっ? どうして?」
「俺、今まで何も本気でやったことがなくてさ、何かを頑張ることがこんなに楽しいとは思わなかったんだ。だから、その……トーナメントもサポートよろしくな」
すごく恥ずかしかったが正直な気持ちを佐伯さんに伝えた。今言っておかなければ一生言えないだろうなと思ったからだ。
「……あんたのそういうとこ、すごく好きよ」
「えっ? なんて?」
声が小さくて聞き取れなかった。今のはひとりごとだったのだろうか?
すると、何故か顔が赤くなっている佐伯さんは笑みを浮かべて元気よくこう言った。
「任せなさい! 全力でサポートするわ!」
その後、なんとなく気恥ずかしくなった俺達は無言で昼食を食べる。
その時間はとても居心地のいいものだった。