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予選

「しかし、あんまり盛り上がってないな……」


 料理大会予選、会場前に着いた俺はまず、人の少なさが目についた。

 本当にここで合っているのだろうか?


 ピンポンパンポン~

【まもなく、全国高校料理大会の予選を開始します。参加選手は午前10時までに受付を済ませてください】


「おっ! ここだな。急がなきゃな」


 俺は建物の中に入り受付を済ませる。

 その後、お姉さんに連れられ会場の中に足を踏み入れた。


「おお~!」


 会場の中には調理台がずらりと並んでおり、色とりどりの食材や調理器具などが用意されていた。


「では、海原学園の方はそこの調理台にお願いします」

「あ、はい」


 俺は入口付近の調理台に案内された。

 時間までやることもないのでボォ~としてると……。


「速水君! お待たせ!」

「っ!?」


 上の空で気づかなかったがいつの間にか佐伯さんが隣に立っていた。

 何も喋らない俺を心配したのか佐伯さんは―――


「どうしたの? 調子でも悪い?」

「いきなりで困惑してんだよ! 説明しろ!」

「あんたが一人じゃ心配だから手伝いに来たのよ」

「……ああ、そう」

「な、何よ……もっと喜びなさいよっ!!」


 試合が始まるまで、俺はギャーギャーとうるさい佐伯さんをなだめることになった。



「料理開始!!」

 そんなわけで始まった料理大会予選。

 選手が一斉に調理に取りかかり、会場は緊張感に包まれる。

 よし、じゃあ俺も作るとするか。


「ええと、まずは……」


 持ってきたタッパーを開け、タレが染み込んだ一口大の鶏肉を片栗粉でまぶす。

 そしてそれを180℃くらいの油の中に投入する。

 はい! 終わり!


「まだ、十分も経ってないわよ……」

「俺達はこれでいい、焦げさえしなければ予選通過の可能性は充分にある」


 自分で言ってて悲しくなってくるがまともに戦ってもこいつらには勝てっこないからな。

 他の奴らを見てみると、フランス料理やら中華やら本格的な和食など、料理経験者ばかりだという事を実感する。

 俺達は唐揚げが揚がるまで、しばらく他の選手達の様子を見ていた。


「あれ凄えな、めっちゃ美味そうだ」

「そうね、でも私はあっちの刺身のお造りの方が食べたいわ」


 そんな事を佐伯さんと喋っていると、何やら変な匂いがして来た。


「何だこの臭い……まずいっ! 焦げてる!?」

「ウソっ!?」


 急いで唐揚げを油からすくうと、まるで石炭のような物になっていた。


「やっちまったな……」

「作り直しましょう! あれ? 唐揚げはどこ?」

「あー、全部入れちまった」

「……」


 佐伯さんからの視線が冷たい。なんで全部入れたの? バカなの? と、言われている気分だ。

 でも、ちょっとだけ気持ちいい――――


「あんた今、変な事考えてなかった?」

「……そんなことないよ?」

「そう? なんか一瞬、不純なものを感じ取ったのだけど気のせいかしらね」

「それより唐揚げをどうするかが問題だ今は」


 取り敢えず唐揚げを小プレートに三個ほど盛ってみる。

 黒い塊が乗っているだけのこれは、とても料理とは呼べなかった。

 時計を見ると残り時間は六分程だった。

 他の選手も最後の盛り付けに取り掛かっている。作り直しの時間はない。

 というか肉がない。


「仕方ない、これで出すぞ」


 こうして俺達の料理、通称【焦げカラ】は完成した。




「各校、料理が揃ったようですね。それではただ今より審査に移ります。審査員が順番にテーブルを回りますので選手はその場にいてください」


 アナウンスが終わると、お偉いさん達三人が会場に入ってきた。

 頑固なおじさん三人といった雰囲気で会場も緊張感に包まれる。


「……あの人達にこれを食べさせるの?」

「神に祈るしかない」

「現実逃避してるっ! ああ、もうっ! この焦げさえ無ければ優勝できたかもしれないのにっ!」

「焦げさえ無ければ? ……そうか、その手があった!」





「いや〜、今年はレベルが高いですな。どれも素晴らしい」

「そうですな、特に先程のローストビーフは絶品でしたな! 今の所、優勝候補ですよ」

「次は……あそこですな」


 三人の審査員が俺達のテーブルに回って来た。

 審査員の一人が焦げカラを見て、怖い口調で俺達に話しかけてきた。


「君達、これは一体なんなのかね? 私にはとても料理には見えないのだが」


 他の審査員も厳しい表情で俺達を見ている。

 そりゃそうだろう、みんなが真剣にやっている中こんな物を出されたら怒られるに決まってる。

 しかし俺にはある秘策があった。俺は自信たっぷりに審査員の質問に答える。


「これが俺達の料理【焦げカラ】です。外はカリッと中はジューシーに仕上がっています」

「カリッとしすぎではないかねっ!?」

「安心してください、食べてもらうのは衣ではなく中の鶏肉です」


 俺は唐揚げを包丁で半分にカットする。

 すると中から肉汁がジュワ~と染み出てきた。

 衣の惨劇が嘘のように中はふっくらとしたジューシーな状態に保たれていた。


「これが俺達の料理【焦げカラ】の真の姿です。あ・え・て外側を焦がすことで中の旨味を閉じ込めていたのです」

「まさに能ある鷹は爪を隠す、と言った所かしら」

「何を言っているのかねこの娘は?」

「アホは放っといてもらっていいです。では、どうぞ食べて下さい」

「ふむ、では頂こう」


 審査員は半分にカットされた唐揚げを口に運ぶ。当然、衣は避けてある。

 すると、審査員の三人は興奮した様子で感想を話し合う。


「な、なんだこれはっ!? こんな美味い鶏肉食べたことないぞ!」

「完璧な味付けだ……」

「米が欲しい! おい! 誰か白米を持ってきてくれ!」


 審査員達は白米を片手に夢中で【焦げカラ】を食べている。その状況はかなり異端なものだった。

 そして大会から一週間ほどたった日に、結果が届いた。


 優勝だった。

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