皇帝の策略
「盗まれたですって!?」
ホテル一階の食堂に戻ってきた俺は、先程あった事を佐伯さん達に話す。
まさかの出来事に皆空いた口が塞がらなかった。
俺はいまだにショックから立ち直る事が出来なかった。
「くそっ! 決勝前にこんな。運が悪すぎる」
ホテルマンの話によると、結局犯人は捕まえる事が出来なかったそうだ。
そして盗まれたのは俺の唐揚げだけだったらしく、金目の物には一切、手を付けてないそうだ。
「しかし変な話でござるな。犯人は何故速水殿の唐揚げを盗んだんでござろうか? 普通金目の物を盗んだりするものではござらんか?」
「まさかお腹が減ってたなんて事は無いだろうし」
「ん? 誰か来たようでござる」
食堂の入口に人影が見える。
その人影は中に入ってくると俺達を見つけた。
「おや? 皆さんお集まりで。何かありましたか?」
そう言いながら俺の近くにやって来たのは会ったことのない青年だった。
「ええと……どちら様ですか?」
「僕を知らないのかい? 牧瀬翔悟と言えば分かるかな?」
「あぁぁっ!! あんたもしかして皇帝っ!!」
柳さんが驚いた様子で牧瀬を見る。
皇帝って何だ?
「試合中と雰囲気が少し違ったから分からなかったけどあんた皇帝よね?」
「その名で呼ぶな! 恥ずかしいだろっ!!」
恥ずかしがってる牧瀬を柳さんはニヤニヤしながらからかっている。
流石に皇帝は恥ずかしいか。
……そもそも皇帝って何だ? 俺は柳さんに聞いてみる。
「さあ? 知らないけど彼のファンが付けたみたいよ。彼自身は嫌がってるようだけど」
「ふぅん。それで俺に何か用ですか?」
「別に用はない、ただ挨拶でもしておこうと思ってね」
「挨拶ですか? ちょっと今それどころじゃなくて――」
「もしかして明日使う食材でも盗まれましたか?」
「……え?」
この男は今何と言った?
確かに聞こえた、俺の食材が盗まれたのだと。
でもそれはついさっき起きた事でここにいるメンバー以外には誰も言ってない。
まさか……。
「あんたか? 俺の唐揚げを盗んだのは?」
俺は少し怒気を含んだ顔で牧瀬を睨む。
それに怯むことなく牧瀬はあっけらかんとした様子で俺に反論した。
「やだなぁ、そんなことするわけないじゃないか」
「俺の唐揚げを盗んで特をする奴はあんたしかいないんだよ」
「僕を誰だと思っているんだい? 世界の一流レストランを渡り歩いて来た料理人、牧瀬だよ? 僕の作る料理の前では君の唐揚げなんか相手にもならないよ」
今ので俺は気付いてしまった、この男の本質に。
好青年を装ってはいるが心の中では俺達を見下している。
そして勝利への執着心。勝つためならどんな事でもやる、そんなプライドの高い男だ。
「まあもっとも、どこの誰だか知らないが君の唐揚げを盗んでくれたことには感謝かな? これで決勝の不安要素は全て無くなった。明日が楽しみだククク」
「いい加減にしなさいよあなた! そんな事で勝って嬉しいの!?」
佐伯さんがこんなにも怒っているのを俺は始めて見た。それだけこの卑劣な男を許せなかったのだろう。
「君達の管理が甘かったんじゃないかな? それとも僕が盗んだという証拠でもあるかい?」
「佐伯さんもうやめろ、この男には何を言っても無駄だ。こいつのプライドを叩き折るには……料理で叩き潰すしかない」
「僕に勝つだって? チート食材もないのに? まあ、精々頑張ってくれよ。では明日、君がどんな料理を出すのか楽しみにしてるよハハハハハ!」
牧瀬は高笑いをしながら食堂から出て行った。
「速水君! 明日は絶対勝つわよ! あいつに一泡吹かせてやるんだから!」
「ああ、……しかし唐揚げが無い今、奴に勝つのは相当に難しいな……」
「速見殿、我々も協力するでござる」
「さっきのあんたかっこよかったわよ。私も協力してあげる!」
高山と柳さんが協力を申し出てくれる。
「二人ともいいのか? 違う学校なのにそこまでしてくれて」
「何を言っているでござる。我らは仲間でござるよ」
「そうよ、それにあんな奴に勝たれるくらいならあなた達に優勝して貰いたいわ」
「みんな……」
4人の知恵を絞れば牧瀬にも届くかもしれない。
俺は高らかに拳を上にあげた。
「よし、みんなで皇帝を倒すぞ!」
「「おおっ!!!!」」
そして、打倒皇帝に向けての長い夜が始まった。




