おまけ3
キンコンカンコーン!
お昼休みの始まりを告げるチャイムが教室に響く。
退屈な授業から解放されたクラスメイト達の待ちに待った時間、お昼ご飯だ。
普段なら私もウキウキな気分になれる時間なのだが今日はひどく憂鬱な気分だった。
「弁当がない! サイフもない!」
朝急いでたから忘れてしまったのだ。そして、財布も見事に忘れていた。
友達にお金を借りて学食で食べるという手もあるがそれはあまりしたくない。
真矢は既に学食に行っているし、友達と金の貸し借りは私はしない主義なのだ。
取り合えずやることがないので机に突っ伏す。
そのまま3分くらいたっただろうか? 微妙に眠気が襲ってきた所で私の肩を誰かが優しく叩く。
「……?」
「佐伯さん大丈夫? 調子悪いの?」
顔をあげると一人の男子生徒が側に立っていた。
声をかけてきたのは速水君だった。
机に突っ伏していたから調子が悪いと思わせちゃったのかしら。
「いえ、大丈夫よ。ちょっと伏せてただけよ」
「そう? なら良かった。昼飯も食べてなかったみたいだから気分でも悪いのかと思ったよ」
「あーお昼は忘れちゃったんだけどね」
「そうなのか? ……ちょっと待ってて」
そう言うと速水君は自分の席に戻りカバンから何かを取り出していた。
そしてそれを私の机の上に置く。
それは、弁当箱だった。
「ちょうど良かった、これ食べなよ。俺は今から山本と学食に食べに行くから」
「え? でも悪いわよ……」
「いいって、じゃあ」
速水君は教室の入口で待っていた山本の元に行ってしまった。
「……速水君って優しいのね。それにしても男の子から弁当を貰うなんて複雑な気分ね……」
しかし空腹には勝てない。お腹が空いてるのでありがたく頂くことにした。
弁当箱の中には半分にご飯と卵焼き、そしてボリュームのある唐揚げが詰まっていた。
「ああ、確かそう言えば速水君の家は唐揚げ屋さんだったわね」
そんな事を思い出しながら私は唐揚げを一口食べた。
「っ!? 何これっ!? うまっ!?」
突然叫びだした私にクラスメイト達が一斉に注目する。
「あ、ごめんなさい……」
私は顔を赤らめながら顔を伏せる。クラスメイト達の注目は外れた。
しかし何なのよこの唐揚げは! 本当に食べて大丈夫な物なのかしら。
そう思いながらも箸は止まらない。
速水君はこんな美味いものを毎日食べているのかしら? 羨ましいっ!!
そして完食、ごちそうさまでした!
「は、速水君!」
「うわ! ビックリした〜。どうしたの佐伯さん?」
いつの間にか学食から戻って来て窓の外をボーと見ていた速水君に声をかける。
うぅ、なんか変に意識しちゃうわね……。
「お弁当ありがとう。凄く美味しかった」
「そりゃ良かった。家の唐揚げは規格外の旨さだからな」
「それで、頼みがあるんだけど……」
「なに?」
「明日から私のお弁当を作ってくれないかしら!」
「何でっ!?」
「また食べたいの……」
「あの唐揚げが弁当に入るのは月に2回あるかないかなんだ。だから無理だよ」
「私もう彼なしじゃ生きられないの! まさかこれは恋?」
「ただの食欲だよっ!! あと、唐揚げの事を彼と呼ぶのはやめろ!!」
「……もしもしお父様? ちょっと買収したいお店があるのだけど……」
「電話切れっ! 買収をするなっ! 執念がとんでもねぇっ!」
仕方なく私は電話を切る。もう少しだったのに……。
しかし、私の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「今度は何を企んでるんだ?」
「いや違うの。速水君ってこんなに面白い人だったんだなあと思って。あなたと話してると凄く楽しいわ」
私の言葉に速水君は少し照れくさそうな様子を見せる。
「そ、そうか? あまり言われた事はないが……。まあ俺も佐伯さんと話して少しイメージが変わったよ」
「どんな風に?」
「高貴な雰囲気があって、みんなに人気があって俺には縁の無い人だなぁと思ってた。どこか違う世界の人の様な感じがあったんだけど」
私はそんな風に見られていたのね。全然そんな事ないと思うのだけど……。
「だから今日声をかけようか迷ったんだけど……でも、何か体調悪そうにしてたからほっとけなかった。」
「……優しいわねあなた」
「えっ? なんて言ったの?」
ぼそりと呟いた私の言葉は聞き取れなかったようだ。
聞こえなくて良かったと少し安堵する。
キンコンカンコーン!
昼休みの終わりを告げるチャイムが教室に響く。ああ、残念だわ。
「速水君、また話そうね!」
「おう」
私はそれだけ言うと自分の席に戻り授業の準備をする。
そんな私に隣の席の真矢が小声で話しかけてくる。
「由実なんか楽しそうだね、何かいいことあった?」
「ええ、お昼ご飯がとても美味しかったの」




