8話
「それで? これからどうするの?」
果実水を片手に、エリンはアーサーを見上げ問いかける。問題はアーサーの予想が真実であった場合だ。
アーサーの直感による予想は一見突拍子もないが、神など自分たちの次元を超えた存在だ。何が起きるか分かったものではない。様々な準備をし、出来得る限りの事に対応できるよう行動を起こしておくべきだ。
アーサーの予想を聞いて、エリンは出来得る限りの準備をすべきと考えるようになった。ハミーもまたエリンと同じだ。口を開くことはないが、自分なりに何をすべきか一生懸命考えている。
「最終目標は真っさらだが、当面の目標はある」
「何よ」
「光の神エイロス、もしくは闇の神タルロスに会うことだ」
「はぁ!?」
「……驚き」
「一体どうやって会うっていうのよ!」
それは至極当然な疑問だ。戦士たちは強制的に神の元へ召喚され、そこから半ば強制的にこの姿を変える異質な空間へと送り出したのだ。ここから神の元へ行く、となると、どうしても知らなければいけない事があるだろう。それは――
「……神様がいる場所。……知ってるの?」
「いや、知らないな」
「あ、あんたねぇ」
ハミーの質問にそっけなく返すアーサー。しかしアーサーは笑顔だった。
「な~に、心配するな。あてはある」
「え? どこなの?」
「……すごく……気になる」
エリンとハミーはアーサーを見上げる。しかし、本当に大丈夫なのだろうか。ここは姿を変える異質な空間。決まった場所など絶対にない場所だ。
「あてはある。だが場所ではなく、……方法だがな」
「ん?」
「……よく……分からない」
「お、誰かが私を呼んでいる! 待っていろ、今行くぞ!」
アーサーは急に駆け出す。どうしたというのだろうか。また花が自分を呼んでいるとでも言うのだろうか。つくづく変なやつだ。
「あ、何急に走るのよ! ちょっと待ちなさい!」
「……追いかけるのね、エリリン」
「なんか言ったかしら? ハミハミ?」
「……置いてくよ」
ハミーも駆け出し、エリンも続く。
アーサーを先頭に三人が向かった場所は裏路地の薄暗い場所。周囲を三階建てほどの家に囲まれ昼間でも薄暗い。その隅にアーサーは近付き、しゃがみ込む。そこには一羽の青い小鳥が。
「……怪我してる」
「もう駄目ね。もう死ぬわ」
怪我した小鳥が苦しそうに震えている。血は流れ、羽は曲がり、命ももう数分で尽きてしまうような状況だ。だがアーサーは諦めなかった。
「まだ間に合う! 諦めるな!」
アーサーは小鳥に掌を向ける。
「まさか魔法で治そうなんて思ってないでしょうね。知識もないでしょうにどうやって治すのよ」
エリンの言葉など耳に入っていないかのように、アーサーは小鳥に集中し続ける。そして掌から淡い光が発し、小鳥へと向かう。
「……治ってく」
「うそ……」
呆然とする二人。ここに奇跡が起きたのだ。
「よし、もう元気いっぱいだな。良かった良かった」
アーサーは小鳥に木の実を与える。どこで手に入れたのかは知らないが、小鳥は与えられた木の実を元気に食べていく。先程の怪我なんぞ嘘のように元気だ。
「え? ちょ、ちょっとアーサー。あんた何したのよ」
「……信じられない。……瀕死状態から……復活させる、なんて……」
「何も難しいことじゃないさ。頑張って命を救おう、怪我を治そう、って思っただけさ」
「頑張ったって……」
「……アーサー……頭おかしい」
身長2メートルを優に超える体躯の男が小鳥を愛でるその姿も可笑しいが、アーサーという存在事態がまさに規格外。おかしすぎるのだ。
「なに!? それは本当か!?」
「ど、どうしたのよ急に」
「……この街に、脅威がやってくる」
「……脅威って?」
「魔物だ」