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5話

 ビュオオオオォォォ~~~…………、と荒野を駆ける強風。地は枯れ、草木は存在しない。硬い土にゴツゴツとした大きな岩が点在するのみ。生物などが存在できるような場所ではないこの場所。そんな場所に一人の男が居た。

「むっ。誰かが私を呼んだ気がする」

 果てのない荒野。強風により舞う砂埃で視界も悪い。男はフードを目深に被り、砂埃をやり過ごす。

 男の背はかなり高い。2メートルを優に超えているだろう。羽織っているコートを盛り上げるような体つき。それはもう屈強な戦士に違いない。千人力に一刀両断。1人ですべてを破壊する真の力を持っていそうだ。

「やはり誰かが私を呼んでいる!」

 前後不覚に陥るであろうこの領域は、この男の記憶に存在する場所。男が元の世界で歩んだことのある場所。

「待っていろ! 今いくぞ! ウォオオオオッ!」

 男の名はアーサー。元の世界では世界最強の戦士にして伝説の王。少々性格に難ありだが、これでも頼りになる男だ。

 更なる砂埃を巻き上げて全力で走るアーサー。彼の後ろには何も残らない。土は抉れ、岩は砕け散る。避けることを知らないアーサーは目の前の硬い岩などなんのその。そのまま直進して岩に突撃、破壊するのだ。

「はっ!」

 ズザァアアアッ、と急ブレーキで止まるアーサー。

「お前だな? この私を呼んだのは」

 アーサーは喋り始める。しかし周囲に人の影はない。

「ん? なんだなんだ?」

 アーサーはその場にしゃがみこむ。よく見ると、アーサーの足元に小さな一輪の花が。

「そうかそうか。怖い思いをしたんだな。私が来たからにはもう安心だ。今快適な環境にしてやるぞ。」

 端から見ると完全に危ない人だ。しかし、ここにはアーサー以外誰もいない。好きにやらせればいいだろう。

「よし! 完成だ!」

 花の周囲に出来たのは、風避け砂避けの魔力障壁だった。

「な〜に、礼には及ばんよ。造作もないことだ」

 アーサーは再びフードを目深に被り、花に背を向ける。

「あぁまたいつか会えるさ。私は誰の助けにも手を差し伸べる。君が呼べば、いつどんな場所に私がいようとも、すぐに駆けつける。……達者でな」

 アーサーは振り返ることなくその場をあとにする。こんな方向感覚が曖昧な視界最悪な環境ではもう一度巡り合うようなことは不可能だろう。花は小さな花だ。見落とす可能性も高い。それだと言うのに、アーサーは自分の言葉に自信を持っていた。そして約束したからには必ずどんなときでも駆けつける。約束は破らない。それがアーサーの信条だった。

 だがしかし、用がなければ態々会いに行くといったことはない。アーサーは基本1人を好む。人助けは好きだが、必要以上に関わらない用にしているのだ。必要とされる時に必要最低限接するだけに留めている。だから今再び、先程の一輪の花に巡り合うとは考えていなかった。

「ぬっ? お前はさっきの……」

 アーサーの足元には魔力障壁に覆われた一輪の花が。

「いや、そのつもりはなかったのだが……。あ、いや。お前が嫌いというわけではないぞ。私はここを離れてからは、ひたすら真っすぐ歩いていたつもりなのだ。ここまで方向音痴だったか?」

 アーサーは首を傾げる。

「まぁいい。また会えた。この結果を喜ぼうではないか。ではさらばだ」

 アーサーは再び歩を進める。しかし、数分後……

「……またか」

 アーサーの足元には一輪の花が。

「いや、私はお前に三度わざと会いに来たわけではないのだ。ちゃんと真っすぐ進んだ。後ろに向かって戻るようなことは一切していない」

 流石のアーサーもかなりの異変さに気付いた。いくら歩を進めても同じ場所に戻る。まるで幻惑魔法にでもかかっているかのように。その時――

「危ない!」

 黒炎がしゃがみ込むアーサーに向かって飛来する。アーサーは花を守るように身体を丸め込み、その身に黒炎を受けた。黒炎が高く燃え上がる。

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