2話
「おそらくですが、ここが私の実家だと」
「ふ~ん。おじゃま~」
「おい勝手に入るなよ」
「ナポレオンさん……」
誰の許可無くナポレオンは目の前の小さな家に入る。家の中には誰もいない。
家はLDKのみ。大人が5人布団を敷いて横に寝るだけで精一杯の広さだ。そして置かれている物も少ない。生活に必要最低限な衣食に関する物だけだ。娯楽に関する物など一切ない。それでもジャンヌは――
「私はここで暮らしていた時が一番の幸せだったかもしれません。いえ、間違いなく幸せでした」
「……ジャンヌさん。もしかして、全てを思い出されたのですか? 神に封印されし記憶を」
「えぇ……。思い出しました」
ジャンヌは涙していた。その姿を見た三人は声をかけることが出来なかった。そう、空気読まない自分勝手なナポレオンでさえ。
「神よ。私にまだ戦えというのですか」
ジャンヌは神託を受けてから神の言葉に従い人生の全てをかけてきた。その結果、幾つもの戦いを勝利へと導いてきた。だがその神の言葉を聞く力を恐れた権力者達による魔手が元の世界では待っていた。
「元の世界に戻っても死が待つのみ。ならば――」
涙を拭い、呼吸を整える。そして、
「死力を尽くして神のために戦い、神に近いこの世界で命を散らす! そこに隠れている者よ! 姿を現しなさい!」
ジャンヌは家を出るとある一角に視線を向けて叫んだ。
数秒後。
「やれやれ。態々呼び出さなくていいものを。そのせいで、貴様達は今ここで命を散らすのだから」
頭を掻きながら大柄な男が1人。
「あ~ら。タイプなイケメンお兄さんにかわいこちゃん。食べちゃいたいわぁ~」
妖艶な姿で舌なめずりする女が1人。
「あなたたちはタルロス軍の戦士ですね?」
ジャンヌの問いに、
「ん~どうだったかなぁ。そもそも――」
「えぇ。私たちはかの高名なるタルロス様の精鋭ですわ」
「そこは黙っててもよくないですかね、モリーさんや」
「いえ、ベノムさん。ここはタルロス様のお名前に尻込みしてもらい、その姿を笑うのが面白いのではありませんか。そしてそこを殺すのです。恐怖を与え、痛めつけ、少しずついたぶり殺していく。その時に聞く悲鳴なんて。あぁ、なんて快感。ゾクゾクしますわぁ~」
モリーは身を抱え、身体を震わす。想像しただけで軽い快感を得ているようだ。
「くっ、外道が」
「なぁ、あいつキモくない?」
「キモいかどうかは分からないが、友達にはなれんな」
「あんな人とは友達になんてなりたくないですよ」
シュリンッ、と腰から細剣を抜くジャンヌ。その姿勢は百戦錬磨のうら若き乙女。一般人が見ればそれだけで気圧され失神してしまうことだろう。
「ジャンヌちゃんはやる気満々だな。おし、タルロスの精鋭って奴がどれくらいのものか。俺もいっちょ遊ぶか」
「これは遊びではないですよ、ナポレオンさん……」
「油断は禁物。だがそれで身体がこわばっても意味がない。適度なリラックスが必要だ。それを考えると、ナポレオンの精神状態はいい。天然の一流戦士なのだろうな」
エイロスの軍勢、ジャンヌ、ナポレオン、セラフ、レイはそれぞれの得物を構える。小型の盾と細剣、大剣、両手直剣、二本の細剣。
それに対し、ベノムは両の掌を上に向けタルロスに与えられし力を集中する。モリーは指を加え、チュッと音を鳴らして口から指を離し、自らの周囲に赤く長く太い針を何十本も顕現させる。
「神エイロスの名の下に、この勝負負けられない! いざ勝負!」
「さぁて、なぶり殺してあげるわ!」