1話
神界とは、決まった姿をしていない。時に荒野。時に樹海。時に廃村。時に深海。時代もまちまちだ。時に古代。時に中世。時に近代。時に未来。ある一定領域に誰かが足を踏み入れることで、意志の強い誰かの記憶の中からランダムに再現される。その領域から人の影が消えれば、自然とその領域は無の領域へと姿を戻す。
「ここはどこだ? 廃れているし、汚い場所じゃないか」
「ここは! ここはおそらく……私の故郷です。失われた記憶から何故思い出したのか分かりませんが。見覚えがあります」
「そうなの? では、私たちは一緒にジャンヌの世界に来てしまったの?」
「神の言っていたことは嘘だったということか?」
左右には大きな木がどこまでも続いている。そして正面を見れば急斜面な上り坂が延々と続いている。その終着点には山奥にひっそりと暮らす村の入口が微かに見えた。
「お父様、お母様……」
ジャンヌは走り出した。神に与えられた力を存分に使って駆けた。
「おいジャンヌ!」
「追いましょう!」
「ほっとけよっておい二人共! ったくよぉ」
ジャンヌの後を追って三人も走り始めた。
ジャンヌという名のまだ大人になりきれていない、しかし誰しもが振り返る大人の美しさを併せ持つ少女を先頭に、後を追うのは三人。線の細い顔の整った美男子なレイ。豊満な胸を持ち、男も女も魅了する体を持つセラフ。野生の中で生きていたようなガッチリした体を持ち、だが決して無駄な筋肉で身体が盛り上がることはないバランスの取れた身体を持つナポレオン。
ジャンヌ、レイ、セラフ、ナポレオンは神によって神界に同時に連れてこられた面々だ。その為四人は行動を共にしていた。
そして光のゲートを潜ってみればそこはジャンヌの故郷だったのだ。
「お母様!」
1キロはありそうな距離をあっという間に走破し、息も殆ど上がらずにジャンヌは村の入口に到着した。
「ん~、だいぶ静かな村だな。誰も居ないんじゃね?」
「たしかに。そもそも森からも生き物の気配を感じない」
「二人共そんな不吉なこと言わないでくださいよ」
ナポレオン、レイ、セラフは静かに佇むジャンヌに追いつく。
村からは人どころか虫一匹の気配も感じられない。
ジャンヌはゆっくりとした足取りで村の中へと入る。それに黙って続く三人。
村の中は空気が美味しく、ひんやりとしている。葉の生い茂り具合から見て季節は夏と予想される。それなりの高所に存在する村なのだろう。
そんな村の中に4人に気取られることなく、ある家の中から4人を窺う二つの視線があった。