表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

私はあきらめない

 私、華渡寺今子(イマコ)——でもコン子って人には呼ばれる——は少し怒っていた。

 なんなんだあのリッチーって奴。

 いきなり現れて——ってそれは転校生なので仕方ないとして——好き放題言って。


 そ! の! う! え!


 私も、あいつと同じみたいなこと言われて。

 ああ、頭くる。

 私が何を隠してるって?

 自分の心?

 そんなことわけあるわけない。

 隠してなんか無い。


 ああ、私は、カケルのこと好きよ。

 それは認める。


 でも……いえ!


 違うわ!


 そんな意味じゃ無い。


 好きは好きでも……


 ——それは違うの。


 カケルを好きなのは家族を好きなのと同じ事なの。

 母のように、姉弟のように。


 そんな風な「好き」なの。

 だから、全部知ってるの。


 カケルの母親がわりなのよ。


 ——と言うかカケルのお母さんに頼まれたのよ。


 そうなの。

 間違いないの。

 だから分かるのよ。

 カケルがあいつに、あのリッチーとかいうやつに何か嵌められようとしていること。

 騙されないわ。


 それに……あいつは嘲るような言い方をして。

 許さない。

 と言うか、どうやってあいつの企み暴いてやろうかしら。


 ……とか。

 

 イライラしながら昼休み、一人食堂から教室に戻る廊下で、思っていたのだけれど……


「コン子さん……報告が」


 突然後ろから声をかけてきたのは、校内三馬鹿の一人、賀場であった。

 名前は来羅で——賀場来羅がばきら

 地域の進学校でもある我が葉羽高校にめづらしい不良三人組、賀場、田州、黒枝のリーダー格。

 こいつは前にカケルにちょっかい出して返り討ちにされた後、その後は業羅になってみんなに迷惑をかけてしまったような大馬鹿者だった。

 まあ、業羅になってしまったことを咎めるのはしないのがルールだし、私もこの連中をそれでどうこう言う気はないのだけれど……

 この三人、業羅の件は差しひいいても、普通ならこの学校の誰も相手にしないと言うか、関わり合いになろうとしないハズレものなのは間違いなかった。

 だけど……


「何よ?」

「あのリッチーとかいう奴の件です」

「で……?」


 今、実は私と賀場は協力関係にある。


 ——と言うよりも向こうが一方的に言う事を聞いてくれる。


 この間、業羅から人間に戻る時に私が手を差し出したことをとても感謝しているらしく、「一生かけてでもこの恩を返す」とか言って、私の事を仕える主君かなんかみたいに扱う。

 で、今日も気を利かして、何かやってくれていたらしい。

 

 それは……


「奴の行動を探ってみました」

「へえ……?」


 今日は、勝手に私の意を汲んで、リッチーのことを調べていたようだった。


「やるじゃない」


 私は賀場の報告を聞こうと身を乗り出した。

 きっとリッチーがボロを出しているに違いないと期待して。


 だって……


 あのリッチーとかいう奴絶裏がある。

 なんとなく——いけ好かない。

 絶対裏ではロクでもない奴にちがいない。


 と思って、なんとかボロを見つけ出そうと思っていた私には渡りに船の話だった。


 なので興味津々の私がぐっと賀場に乗り出すと、


「一時間目終わった休み時間……」


 少しびっくりしたように後づさりながら賀場が話し始めた。


「DEFのスターDJが転校してきたのを聞きつけた他のクラスの女子連中が奴が廊下に出た瞬間に群がってきました」


「ふむ……良い展開ね」


 私は首肯しながら(多分悪い顔で)ニヤリとする。


 だって……


 あんな高慢ちそうな男だ、物珍しさでミーハー的に集まってきた女子連中なんて、無碍に扱ったに違いない、

 私はそう思った。

 きっとそれでいきなり評判落としてるだろうと。


 だいたいあいつゲイだし。

 女なんか適当にあしらったに違いない。


 私は賀場が話し出す前に、思わずサムズアップしてしまいそうなくらいであった。


 だけど……


「……一人、一人丁寧に握手しながら挨拶してました」

「はい……?」


 期待と違う賀場の報告だった。


「意外と礼儀正しい奴でした」

「…………」


 私はぽかんとした顔で賀場を見る。


 賀場も残念そうに首を振る。


「全く無理をしてる風もなく、みんなに分け隔てなく挨拶してました」

「…………チッ!」


 私は舌打ちをする。


 まあ、仮にも若手スターと呼ばれている男なんだから、それくらいはするかもしれないわね。

 まあ、ボロを出していないだけ。


 人気取り用の良い子の仮面で粗暴な性格を隠してるだけに違いないのよ。


 だから……


 気を取り直して……


「次に二時間目の終わった休み時間……」

「……うん」

「奴は気分転換なのか校庭に出ると……」

「……で?」


 私は期待に一歩踏み出して賀場の話を聞く。


「校門前のポプラの木の上に登って降りれなくなった子猫がいまして……」

「そんなの——あいつは無視でしょ」


 しかし、


「いえ……奴はものすごい身体能力で、木の枝をスルスルとジャンプして、あっという間に猫を助けて下ろしてました」


 またもや賀場の残念な報告。


「何? それ? ——みんなに動物好きの良い奴だと思わせるパフォーマンス?」

「いえ、俺が隠れて見てましたが、他にはそこには誰もいませんでした」

「…………」

「意外と動物に優しい奴でした」


 でもこれで終わりじゃないわよね?


 次の、


「そして三時間目の終わった休み時間……」

「……うん」


 今度こそボロを出すに違いないわ。


「奴は学校の様子を少し見て回る気なのか校舎裏に行くと……信号の無い道路をわたれずに困っているお婆さんがいて……」


 動物には優しかったようだけど、きっとお婆さんは無視よね。

 あんな奴、動物くらいしか友達いないから猫に優しかったに違いないわ。


 でも、


「すぐに駆けつけると……車を止めて、お婆さんの手を引いて渡らせてあげてました」

「…………」


 私の期待は落胆に終わる。


「意外と老人に優しい奴でした」


 ………………


 何? それ。


 あいつ、ボロを出さないわね。


 でも……しょうがないわ。


 きっと、やっぱり嘘なのよ。

 転校してきて1日目だもの。

 新しい環境なんだから絶対気を使うわよね。

 学校の地理にも詳しくないだろうし……

 どこで誰が見ているかとも思うだろうし……

 きっと、それで、誰か見てないと思っても良い奴のふりしてるのよ。


 そうだわ。

 そうに違いない……でも……

 あいつこのまま良い子演じられると、何を企んでるかもボロ出さないかもしれないわね。

 困ったわね。

 でも、きっと…… 


「そして四時間目の終わって昼休み……」


「今度こそ!」


「——へ?」


「……いいから続けて」

「は、はい。ずっと監視もまどろっこしいので、奴の本性炙り出そうと、ちょいとカマかけてみました」

「カマ? 何をしたの?」


「まあ、俺らもあんなスカした野郎は嫌いなので、ちょっと試してやろうかなと」

「試す……?」


「俺らみたいなのが奴の前にムスッとして立ってみるのです。そしたら奴がどんな反応するかで品格をはかろうと思ったんです……」

「なるほど……」

「奴の食事終わって一人でトイレに入った瞬間、三人であいつを囲んでみました」


 まあ、こいつら、もう昔みたいな暴力や脅かしなんかはもうしない——賀場達があの事件以来誓ったことで、学校のみんなはそれを知ってる(知っててもこいつら怖いけど)ので囲まれたって、まあ本当囲まれたってだけの話なんだけど……


 転校生のリッチーはそんなの分かんないから不良に囲まれたって思うわよね。


 そしたら彼がどういう行動に出るか?


 確かに、そんな時にどんな風にリアクションするか興味あるわ。 


「あれコン子ちゃん、賀場さんとお話中ですか」


 でも、賀場の話を聞こうとしたその時にかけられた声に私は振り返る。


「ミクス……」


 栖原未来すはらみく、1年の時にクラスが一緒でたちまち仲良くなった私の大親友。

 クラスに未来みくが二人いたので、苗字の「すはら」の「す」が後ろにくっついてミクスと呼ばれている、学校一の美少女にして、性格も良くて頭も良い最高の女の子。

 私が——カケルのお母さんに頼まれたんだから——カケルの彼女に、いえお嫁さんに一番だと思ってくっつけようとしている女の子。

 

 まだ高校生なんだから気が早いなんて言わせないわ。


 ミクスみたいな抜群な子は、引く手数多なんだし(この間ついに告白してきたのが八十人を超えたそうだわ、もう学校の男子の何分の一のレベルよ)、カケルはいい人でいてぼうっとしているうちに、肉食な連中に目の前の女の子取られていくタイプなのよ。

 中学校の……誰だっけ? カケルのことが好きだったはずなのに、カケルがどっちつかずの態度でいるうちに、別の男に告白されてそっちになびいちゃった可愛い子いたわよね。

 いえ、佐藤だったか、鈴木だったか……名前はどうでも良くて……

 そんな風にぼやぼやしていて良い機会が逃げてっちゃうタイプなのよ、カケルは。


 まあ、あの子は可愛いけどイマイチ性格とかふわふわし過ぎていたから、カケルがたまたま体育祭実行委員になった時に一緒になって、一時のちょっとかっこいいかもくらいで寄ってきたような感じだったから……


 私がギリギリと本心を締め上げたから……


 あの、幼馴染が怖くてカケルくんには近づけないわ、とか言ってたとも聞くけれど……

 ——そんなんで逃げるんなら、所詮本気じゃないのよ。

 私のせいじゃないのよ(多分)。


 どっちにしても結果オーライよ。

 おかげで、カケルにはミクスと言う、私も納得の最高の女子が現れたのだし。

 でも、カケルなので、せっかく相手が興味持ってくれても、そのままポカンとしちゃってるかもしれないから。

 このままじゃまたトンビにアブラゲで誰かにミクス取られちゃって……

 

 でも、そんな風にカケルがいつまでも一人でいたら……

 私だって……

 もしかしてとか……

 思っちゃったり……

 して……

 とか……?

 いえ、

 とか思ってて、

 ちょっと、なぜか顔が熱くなって、


「——違がう!」


 思わず大声を出しちゃった私。

 

 その様子を見て、

  

「姉さん……?」


「コン子ちゃん……?」


 周りのみんながぽかんとした表情になってるけど、


「今の無し! 何でも……何でもないのよ。違うのは私なのよ。私の気持ちなのよ! そんなこと思ってないわ。思っちゃいけないの……」

「「………………?」」


 話をさっさと進めないとね。


「——ともかく、私のことはどうでも良いので……リッチーの奴にカマかけた話を続けてよ」


 私の言葉に、賀場は頷くが、その目は少し困ったような感じだった。


「姉さん……それがですが……」

「何よ? 話しにくいようなことが起きたの?」


「それは私が話す」


 んっ?


 振り向けば、そこにいたのはシズ子だった。

 同学年のクール系美女。なんかこいつもカケルに気があるのかしょっちゅうちょっかいを出してきて……

 警戒しなければならない奴。

 確かにこいつも見た目は悪くないし、カケルも結構気楽に接しているようだけど、——なんか気にくわないのよね。こいつ。

 クールなふりして、なんか裏ありそうなのよね。

 ——まあ、なんの根拠もないカンだけど。

 なんか、こいつにカケルくっついたら、こいつがべったりになってカケルを離してくれなくなりそうな気がするのよね。

 ミクスとカケルだったら、私も一緒に居れそうな気がするのだけど、こいつはカケルを独占しそうっていうか……

 いえ、別に私はカケルが幸せになれたらそれでいいのだけれど……

 なんかそれを考えると腹の辺りがぐっと重くなって、すごいイライラしてくるというか……

 こいつよりなら、私の方がカケルにはふさわしいんじゃないかって思うし……

 いや、違うのよ。

 あくまでも比較よ。

 比べたらで、私がカケルの彼女になりたいわけじゃないのよ。

 本当よ。

 って、心の中で誰位言い訳してるの、私?

 いえ、でも……


「……? どうしたコン子は話を聞きたくない?」


 あっと、またぼうっとしてしまっていた。

 なんかよからぬことでも考えていたのでは、と思われないように、


「いえ、そんなことはないわよ。ちょっと意外な人が現れたので一瞬考え止まってしまっただけよ——そのまま話しなさい!」


 少し不自然なくらい、強気な口調で言い返すと、


「いいわ……」


 シズ子は少し不思議そうな顔をしつつも、話し始めた。


「私がリッチーが三人に絡まれている時に近くを通りかかったら……

『あれ君たち、何か、かわいそうな顔しているね』

『何だと!』

 賀場の怒声が響いたので思わず振り向いた。

『だって、分かってもらえてないだろ』

『何をだ!』

『君らは、そんな強面でいるけれど、決して他の連中に危害を加えたり、脅かしたりしたいわけじゃないだろ』

『何? 何だお前俺らを舐めてるのか。俺らは本気で不良やってるんじゃ! 伊達や酔狂でやってるんじゃないわい!』

 ついつい賀場はこのごろ抑えていた地が出て顔を憤怒の表情に変えて脅すように言った。残りの田州、押して黒枝も一歩間に出てリッチーに掴みかからんばかりだった。

 でも、

『ふふふ、だからだよ』

 リッチーは慌てず騒がず言った。

『へっ?』

『君らは本気で筋を通そうとして生きている。だからそんな風に無理をして、周りからずれていってしまう』

「……だ、だからってそれがどうしたというんじゃい!』

『ふふふ、僕は……』

 リッチーは賀場に向かって一歩前に出ると抱きついて、

『そんなたちが好きなんだ』

 それでその場はおさまってしまった」


 シズ子の話を聞いてシーンとする周り。

 何か少し顔が赤くなっている賀場。


 ………………


 うん、

 あのリッチーというやつ、

 思ったよりも、

 ——一筋縄ではいかないみたい。


 なら…………?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ