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君の友達でありたい

 さて、やたらと不機嫌な妹の様子を気にかけながらも家を出て、学校に着いてみれば、あの業羅の事件からもう一ヶ月近く、ずっと平穏を保っていた僕の通う葉羽高校には、ちょっとした騒動が起きていたのだった。


 と言ってもまた業羅が現れたなどではなく……


「こんにちわ。本日イギリスから転校して来ましたリップです」

「マットです」

「「よろしくお願いします」」


「「「「「うおぉおおおお!」」」」」

「「「「「きゃあああああああ!」」」」」


 ウェブレイドの戦う美男美女の登場に教室が沸き立っていたのだった。この間の事件の時、僕のDJをサポートしてくれたウェブレイドのパワードスーツつかいの二人が、突然僕らのクラスに転校して来たのだった。

 唐突に、なんの前触れも無く現れた二人であった。


 そして、

「あれ? そういえば昨日の席替えで高見カケル君の席の前と後ろが空いてますね。二人には、そこに座ってもらいましょう。リップさんが前で、マット君が後ろで良いですね」

 二人は、担任の御曽路美子みそじみこ先生と言われて頷き、僕の前後に何も言わずに座ることになるが……

 ——怪しい。

 怪し過ぎる。

 ウェブレイドの二人が学校に転校して来たのももちろん、昨日の唐突な席替えも、僕の前後がそれで空いてたいのも……

 しかし、さらに、僕がこの二人がやって来た意味を深く考える間もなく……

「……みなさん、突然の転校生が二人やって来て驚いている所だと思いますが。もう一つお知らせがあります」

 僕らの担任の御曽路美子みそじみこ先生が言う。

 ——僕はその言葉を聞いた瞬間、ふと悪い予感が、悪寒となって背中にすっと走ったのだった。

 この間の業羅騒動で関連ができたウェブレイドー対業羅DJ組織——のリップちゃんとマットくんが僕のクラスにやって来たのは、単なる偶然なんかででは無いはずだ。業羅と戦うためにこの街に来た二人が、たまたまここを気に入って留学しようと思った——何てことが無いとは言わないが、ウェブレイドのパワードスーツ使い二人が来て僕の前後にたまたま座るなんていうのはなんか新しい事件の匂いしかしないわけで……

 するとこの二人とチームを組んで現れる人と言えば……


 ——確かにあの人、高校中退とか言ってたし、なら今更ながらこの学園に来るというのもあり得るのだろうか?


 もう結構良い歳の大人というか四捨五入すると大台に入るような……その歳なりの魅力を僕は否定する気は無いけれど……もし高校の制服を着てあの人が現れるとしたら……?


「うっぷ——」


「あれ? カケルくんどうしたのかな?」


 あの人の、どうみてもその手のビデオ女優にしか見えない、似合わない制服姿を思い浮かべ、なんかいたたまれない気分になって思わずむせて——御曽路美子みそじみこ先生からつっこまれた僕だった。

 そして、

「あれ? なんでもないなら良いけど、具合悪いなら言ってね——? この後もっとびっくりして倒れちゃうかもしれないからね——!」

 と言う先生の言葉に僕は思う。

 ——ああ! 

 ……あの人の——MCランの高校女子制服姿に意外にどきりとしてしまったらどうしようと、自分の性向の試されるその瞬間に向かって身構えるが、


「じゃあ、入って来て——! なんと、DEFディフェンス・イビル・フロントのトップDJ! リッチーくんが転校して来たんデーーーーース!!!!!」


「「「「「「「「「「きゃあああああああ!」」」」」」」」」」


 入って来たのは僕の予想外の人物——長身イケメンのスター登場に教室内には黄色い歓声がわく。


「こんにちわ」


 もう一人、三人目の転校生は、ニューヨークに本拠地を置く対強羅DJ組織、DEFディフェンス・イビル・フロントの若手DJのナンバーワン、リッチー”アメイジング”紅衣くれいであった。


 DEF——それはウェブレイドと双璧を為す、強羅に対抗するDJ集団であり、南北アメリカ大陸を中心に活動する、オリジネイターの一人フランクが作り出した対業羅最強組織のひとつなのであったが——その中でもリッチーは僕と同じ高校生ながらすでにその最強集団の中でもトップクラスの実力を誇り、またアイドル顔負けのルックスもあって、強くてカッコ良いと女子人気が最高の男なのではあるが……


 でも、女子がいくら彼の事が好きだとしても、彼は噂では……


「それじゃあ、リッチーくんは……空いてる席は……あらカケルくんの横しかないですね……(ニヤリ)」


 なんだ、「しかない」じゃないだろこれ。明らかに仕組んでただろ、今の先生の顔。


「はあ、何かしらーー凄い偶然よね。若手トップDJと、この間彗星のようにDJデビューした我が校期待のカケルくん。そんな二人が偶然隣りあって始まる友情……競いあい……そして反発……そして仲直り……そして友情は愛情に変わり……ふふふ腐腐腐腐腐腐腐腐」


 うわっ、この人絶対仕組んでた。やっぱり腐った人だった。


「「「「「「「「「ふ腐腐腐腐腐腐腐腐」」」」」」」」」


 うわっ、クラスの腐った女子連中が同調した。と、僕は思わず頭を抱えて机につっぷすが、


「ふふふ……なんか楽しいクラスのようだね」


 んっ、と顔をあげればそこには握手しようと手を差し出したリッチーがいた。


 彼の自然意差し出された手を、僕はもちろん握りながら、


「うん……少し騒がしい時もあるけどみんな良い奴で……」


 と答えるが、


「あっ」


 その途中そのまま手を引かれて、


「ふふふ……腐腐腐腐」


 虚をつかれて引っ張られる僕は、

 そのままなされるがまま、

 リッチーに近づいていって、

 ——やっぱり噂通りお前もか!

 と僕が慌てて後ずさって逃げようとしても、それを予想してもう一歩踏み出していた彼の顔がぐんぐん近づいて着て、遂にはこのままでは彼の唇が僕の唇に近づいてと言う……

 ——その瞬間、


「そこまでです」


 顔と顔の間に手を指しこんで、僕の貞操の危機から助けてくれたのはリップちゃんであった。

 そして、

「彼は、DEFには渡しません」

 と、リップちゃんが僕を後ろににかばいながら言うのだった。

 すると、

「あれ? 君はオレの目的はもう知ってると?」

 リッチーは少し意外そうな口調で言い、

「もちろんです。なので私達が派遣されました」

 リップちゃんが答える。

 そして、

「でもカケルくんはウェブレイドの持ち物と言うわけでもないだろ?」

 と言う更なるリッチーの言葉に、

「最初に見つけたのは私達です」

 と別に僕は新大陸や特許じゃ無いだろだろと言うような少し無理筋の答えを自信満々な様子で言うリップちゃん。

 だから、

「最初に見つけたからって、カケルくんは君らの物だって分けではないだろ。大事なのはカケルくんの気持ちなのでは?」

 と言われてしまうが、

「その気持ちも——彼は貴方達の中に入るような人ではありません」

「なんで? そんなのカケルくんに聞いて見ないと分からないんじゃない?」

「分かります!」

 と強気のリップちゃん。

 そして、その強気を、

「なんで?」

 と問われば、

「だって……」

 なんだろ?

「……?」

「——彼はノンケです!」

 ……うん。

 いや、だから、

「ほほう……だからDEFには相応しくないと……?」

 いやそうなんだけど、

「本当にそうかな?」

 と言いながらリッチーが僕の方を流し目で見ると、

 正直僕は少しくらくらしてへんな気持ちになり……


「カケル! 見てはいけない!」

 リップちゃんが叫んで、僕がリッチーと目をあわせるのを止めようとするが、一度あってしまった目を僕は外すことができない。

 目が釘付けになってしまったのだった。彼の目力には、男とか女とかの性を超越したような艶かしさがあり、僕はそれにどう反応して良いのか一瞬戸惑うと、

「ねえ……カケルくん君はこんながさつな連中ばかりのウェブレイドになんか入るべきでなく……わたし達、麗しきDEFの仲間となるべきなんだよ」

 リッチーはまた僕の方に近づいて来て、ウィンク。すると僕の体は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。


 しかし、

「リッチー、チャームを使うのは卑怯だぞ」

 マッドくんが立ち上がり僕の前に立つ。

「チャーム? そんな非科学的な物が本当にあると言うのかい? そんな噂は確かにあるけれど、それはみんなオレの魅力に虜になってるだけなんだと思うけど?」

「語ってろ! 我々はすでに君の手口は暴いている」

「暴いている?」

「君の目のコンタクトに、高速で発光し、見た者を催眠状態にかける素子が仕込まれている——そうだな?」

「あらら、そんな話……」リッチーは右目に指をあて「——本当かもね?」

 リッチーの指先には、見ていると心を引き込まれそうになる、キラキラと瞬間ごとに色の変わる光——取り外したコンタクトレンズがあった。

 それを見て、

「君は、その魅惑チャームの催眠をつかって、君の意にそわぬ者も無理矢理君の物にしてしまうと我々の調査で判明しているんだ」

 マットくんはさらに一歩リッチーに近づきながら、イカサマを暴いたと言うような、強い口調で言う。

「ふううん……」

 しかし、リッチーの方はまったくあせっていないようで、

「なにを開き直っている。そんな風にして君は人の心を操って……」

 なので、その余裕の態度に逆にあせったように、問いつめるマットくんだったが、

「へえ、ウェブレイドは本気で信じているんだ」

「何を?」

「こんなもののおかげで……」

 パリン! 指先のコンタクトを握りつぶす音。

「僕が、みんなを魅了してるって……」


 リッチーはそう言うとまた僕を見てにっこりとする。その目には、さっきのコンタクトの力を使った時よりも心を引きつける力があり……僕はその目の力にあっという間に引き込まれて行くが……


「だめーーー!」


 騒々しい割り込む声に、はっとして横を向けば、昨日の席替えで僕から教室の対角線上の一番遠い所になった席から走って来るコン子だった。


 コン子——僕の家のはす向かいに住む幼馴染。元気一杯で、世話焼きで、そして僕にとって一番だい……な、その女の子は、

「まったくカケルは何考えてるの? こんな男の色目にぼーっとなって……」

「——なってないよ」

 僕の考えを遮るように、あっと言う間に僕に駆け寄ってきて殆ど体を密着させるように近づくと、いっきに文句をまくしたてるのだった。


「——いえ、なってました。まったく、亡くなったカケルのお母さんに何て言い訳したらよいのか。私は『カケルを頼みますよ』って言われたんだからね。だから、ちゃんとした女の子をカケルに見つけてやる義務があるんだからね……」

 いや、それはお前自身が母さんに頼まれたんだと思うのだが……

 それで僕も良いような気もしてるんだが……

 いやそんなことはとても恥ずかしくていえないので、いつも目でそれを気付かせようと合図するのだが……

 コン子はそんな細やかなニュアンスを分かるような奴でもなく、

「あれ、この子はゲイの差別するのかな? 今時ポリティカルコレクトに欠けるんじゃない?」

 と、もう自分の性向を隠す気もないリッチーに突っ込まれると、

 僕とのアイコンタクトの事なんてすぐさま忘れ、

「いいえ! 差別じゃないわ。確かに、カケルが本当に男の方が好きだったとしたら、私はそれを否定する気なんかない。でも……」

 と興奮しながら言うのだった。

 そして、

「でも……?」

 と、リッチーが言葉をつなげば、

「あなたの『企み』にカケルを渡す気はないわ?」

 と、ますます調子にのった様子でコン子は言い、

「『企み』? それは何の事かな?」

 と、リッチーの疑問にも、

「そんなの知らないわ。私はエスパーじゃないもの。でも分かるもの。あなたは企んでいる。その為にカケルを利用しようとしている。あなたは何か心を隠してる。私には分かるわ」

 自信満々で答え、

「なぜそれが分かる?」

「それは……私がカケルにほれ……じゃなくて保護、そう保護者変わりなのよ。カケルによこしまな心で近づいて来る物は、保護者のカンで全部分かるのよ」

 と、少しドヤ顔気味に言うのだが……


「はははは」


「ーーなぜ笑うのよ」

 リッチーの心底おかしそうな様子に、戸惑った感じのコン子だった。

 そして、

「だって面白いじゃないか」

 そんなコン子を少し憐れむような表情で見るリッチーは言うと、 

「何がよ!」

 コン子は少しあせったような表情になり、

「だって人に心を隠していると説教するものがーー自分の心を隠しているとはね」 

 と言われて、

「……………………」

 その後の言葉を、何も言えないまま飲み込むのだった。

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