(生徒会も)時にはつらいよ
カケルたちが帰った後の生徒会室。訓練が始まる午後二時限目までの間、高校の生徒会は特別に午後一時限目の授業を免除されて訓練の準備をすることになっていたため、生徒会の三人とも、そのままそこに残っていたのだった。
しかし教室にはいつのまにかもう一人、大人の女性がいた。
いつの間にか、空間よりしみ出すように現れたその人物は——高橋幸子。例の露出狂まがいのダイナマイトボディの女であった。外見のわりに地味な名前のあの人であった。
「高橋幸子様……」
明らかにその名前で呼ぶなと言った表情の高橋幸子であったが、志度生徒会長は構わずに話を続ける。無意識状態で、心遣いとか、複雑な感情を使うことができなくなった、与えら得た情報通りにしか動けない、今は人形のような状態に三人だったのであった。
だから爆乳セルフ光女こと高橋幸子は生徒会の三人にそのことを注意したりはしない。注意しても無駄というもの——そんな包み隠さない心情を生徒会メンバーは語るのであった。
「みんな何でもかんでも俺たちに押し付けやがって。」
「うまくいったことは全部全校生徒のおかげ。失敗したことは生徒会の責任なのよ」
「………………」
「生徒会を真面目にやれば内申がアップとか言われたって国立志望の俺に何関係あるんだ。試験前くらいさっさと帰って勉強したいよ」
「私だって毎日残されて書類処理ばっかり。バイトでもして新しい服買ってオシャレしたいのに」
「………………」
「なんで、みんな交通ルール守らないんだ。道路に二列なって自転車乗って、その後に付近住民から文句言われるのは校門前に立ってる言いやすそうな俺たちなんだぞ!」
「なんでみんな適当な申請ばかりするのよ。去年の文化祭なんて私が何枚書類書きなおさないといけなかったと思うの!」
「………………」
普段ならば不平不満があってもぐっと耐える。自分の感情をコントロールし、みんなのために奉公する自分たちに、誇りと責任を持ちながら行動していた生徒会の面々が、そんな人間力などは高橋幸子に剝ぎ取られ、思いのまま他への悪口と自己弁護を始める副会長と書記であった。
それは二人の本性が出た——二人は本当はそんな卑小な人間なんだ——と言うのはかわいそうだろう。舞に半妖と呼ばれた謎の女の力により、所詮もともと卑小なものである我ら人間が歳を重ねる間に得た心の成長を、まるで剝ぎ取られてしまっていたのだった。わがままな子供のようになってしまった二人は、思うままに、言いたいままに、話してしまっているのだった。
「………………」
しかし、さすが志度会長は、そんな心の状態でもじっと耐えて、自分を制御しているようであった。安易に人を非難したりすることもなく、無言で下を見つめるのみであった。心ままになっても会長はみんなの会長足ろうとしていたのであった。
しかし……
「………………やよ」
「「——!」」
「も………………やよ」
「「——!」」
「もう………………いやよ」
「「会長!」」
「もう、いやなのよ。みんな、みんな、私たちを聖人君子みたいに扱って、そんな行動ばかりとること望んで。でも、私だってそんなことばっかりできるわけないのよ!」
「俺だって思うままに怒りたいよ!」
「私だって辛い書類は全部窓から投げ捨てちゃいたい!」
「そうよ……そう……」
「「会長!」」
「そうなのよ! 私たちは良い加減、こんな辛いことやめちゃっても良いのよ! 私たちはみんなにもっと楽に過ごしたいのよ!」
「「然り! 然り!」」
「私たちはもっとみんなに感謝されるべきなのよ!」
「「然り! 然り!」」
志度会長もついに耐え切れなくなったのであった。いくら聖人君子の会長も、とうとう一度落ちてしまえば、そこから心の制御は戻らないようであった。
そして、その様子を見ていた半妖の女は、
「ふふ、これで準備は万端ってところね……」
そう言うと柏手を打ち、
「俺は?」
「あれ?」
「私は?」
ぽかんとした表情の三人に、
「それじゃ後で。期待してるわよ」
そう言うと現れた時と同じように空気に溶け込むかのように消えていくのだった。
そして——消えてしまえば——いままで女がいたことも忘れた生徒会の三人。
そこに誰かがいたような? と言うかすかな記憶はあるが、それが誰だったのか? いや、本当に誰かがいたのかももはや思い出せないまま、何もない空間をぼんやりと見つめている。
三人は、そのまましばらく呆然としていたのだったが、その間抜けな様子の自分に気づくと、はっとしたように、我に帰り、もう訓練までにあまり時間がないと慌てて準備を始めるのだった。
で、一心不乱に仕事始めれば自分たちが直前に何かが気になっていたことも忘れてしあうのだが、
しかし、
「高橋幸子?」
なぜかその名前だけは覚えていた志度会長は、今日の挨拶の原稿を書き上げた瞬間、呟く。
そして、それを聞いて亜空間で微妙な顔になっている高橋幸子本人なのであった。
*
午後一時限だけあった授業が終わり、今日はこの後は対業羅訓練となる。休み時間が終わったら教室でクラス委員による今日の訓練手順の説明があり、それが終わったあたりで整列して校庭に行くよう放送がかかり、そこでみんなが動きだすという手はずとなっていた。
また、合同訓練となる中学校の方はそれより前に学校からの移動訓練はすませてしまい校庭に待機となるのだが、今日のDJをする僕は移動訓練は免除されて先にウェブレイドのパラダイスロフトで準備をしていたので——準備を終えて校庭に降りてみれば、妹の舞が先導する中学校の隊列がこっちにやってくるのをちょうど出会わすことになるのだった。
それは——なんともまあ——やっぱり高校生と違い可愛さの残る様子が微笑ましい。中学一年生なんてほんのこの間まで小学生だもんな。三年生ぐらいだともう体は大人みたいな連中も多いけど、やっぱり顔は幼い感じがして、まあ自分もついこのあいだまであっちだったとはいえ、なんと言うか高校生という立場から見ると何だかほんわかした気分になるのだった。
一生懸命に手足をふって更新してくる女生徒たち。その目は真剣……
んっ!
まっすぐこっちに向かってくる……のは僕のいるパラダイスロフト前が目的の場所だから良いとして、なんかじっと僕を見ているような?
そりゃ今日のDJだから注目されるのかもしれないが……
一心不乱といった感じで僕にめがけてくる数十人の女子中学生なんかちょっと鬼気迫るというか、ヤバイものを感じる。
業羅? 僕の背筋に冷たい感覚が走った。
もしかしてあの集団が業羅に変わる?
そんな予感をした僕は思わず後ずさり、振り返りDJブースに登ろうと足を踏み出すのだが——
——きゃぁああああああああああ!!!!!!!
甲高い叫びと共に駆け出してきたその集団にまたたくまに囲まれてしまい、
——わっしょい! わっしょい!
もみくちゃにされた後は、なぜか突然胴上げをされてしまうのだった。




