表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

未咲さんの歌で作った小説

牛乳を通した日本

作者: 恋住花乃

頑張ってる人のバンドを応援できるのは嬉しい。

俺の祖父が死んだ…辛い戦争を乗り越えてこの日本で生きていた祖父が死んだ。


「昔はな。牛乳なんて高価なものでのぉ。ワシなんて飲むことが出来んかった。」祖父はよく言っていた。

「おじいちゃん。何泣いてるの?」

「牛乳さえ飲んでいれば、伝蔵。お前を死なせなかったはずなのに。」

「伝蔵さんって誰?」俺は祖父に尋ねた。

「伝蔵はワシの弟でな。元々、体が弱かったんじゃ。彼は丙種合格もなく、出征することはなかった。




-ある夏の暑い日のことだった。

私、久留間靖が戦争に出征する日は。日本の旗がまるでお祭り騒ぎのように、人々は私達を見送った。ある人は平然と、ある人は涙を流していた。当時、神風を信じることでいつかきっと来るだろう死を忘れようとした。


軍隊に入れられ、そこで少しの訓練をした後、戦地に送られた。

日の丸の飛行機に乗るときは、緊張のあまり倒れそうになった。

「今から、俺は敵兵を駆逐するんだ。おのれ、列強。大和魂で乗り越えてみせる。」

そう意気込んで、飛行機に乗り込み、敵国の飛行機と射撃戦を繰り広げた。しかし、途中で燃料が切れ、中国の南西部に墜落してしまった。


なんたる様だ。このままでは日本の恥となってしまう。

自決しよう。そう思ったときだった。目の前で、子供が泣いていた。漢学者であった父の影響を受け、中国語を学んでいた私は中国語で話しかけた。「どうしたの?」と。


「おじさん、日本人でしょ?どうして罪の無い子供達を殺すの?ねぇ。」その少年はそう答えた。

「一体、何があったんだ?」

「とぼけないでよ。先の南京を襲ったあの事件、日本人がやったんでしょ?」

後に南京虐殺とも呼ばれたあの事件のことだ。


当時、軍によって報道統制されていたためそんなことは知らなかった。だが、中国東北部にいる関東軍がやったのだと、すぐに理解できた。

「日本の政権は、報道統制されていて一部しかその事を知らない。」と私は答えた。


「そうなんだ。でも、あの子はもう帰ってこないんだ…」

彼は落胆していた。話によると初恋の相手が関東軍に殺されたらしい。私はその話を聞き、関東軍の暴走を止めようと思った。


「分かった。これ以上、犠牲を出さないように俺は善処する。俺はもう日本軍を抜ける。一人の中国人となって日本に抵抗する。」私はそう思った。天皇を敵に回すよりかは、関東軍の暴走を止めるために。


その少年の家に泊まることが出来た。流暢な中国語を話すことが出来る私は、日本人と疑われることもなく生活することが出来た。私は一家の農作業を手伝い、同じご飯を食べ、苦しいながらも一人の中国人として生活した。

何気ない日々。しかし、ある時その少年の一家はそこを離れた。


ここがまた日本軍に復帰する機会なのではないか、私はそう思った。数十里離れている軍の基地に一人の中国人の格好で向かった。途中で日本兵に会い銃撃されそうになった。

「待て!俺は日本人だ!」そう叫んで誤解を解いた。

「靖?お前か!なんで中国人の服装を纏っている。」桜木という男であった。我が旧友であった男だ。まだ生きている。嬉しかった。

「桜木!お前か。あぁ俺だ。中国人にバレると殺されるからな。この服装で誤魔化しているんだ。今から基地に戻る。頑張れよ。」「基地に色々と届いているようだ。もう一ヶ月も行方不明だからな。死んだと思われているかもしれない。」

中々辛く足が痛い。それでも水を飲みながら先へ進んだ。

ある日、水がなくて困っていたとき、とある中国人が白い液体をくれた。それが牛乳というものであった。

高級品であったため、口にしたことはなかった。

濃厚な口触りで今までに感じたことの無い幸せを噛み締めた。

その気分を忘れずに進んだ。

そして五日後に基地についた。そして上官に挨拶し、再び戦地に赴く所存だと言ったが、この書簡を見てから言いなさいと言われた。

『拝啓 久留間 靖 様

秋も深まります今日この頃、いかがでしょうか。さて先日、伝蔵が結核によって21年の生涯を終えました。無事、式も滞りなく済み、悲しみは残りますが、新たな生活を始めたところです。兄上も任務に尽力なさってください。敬具 末弟 重義より。』


「伝蔵!伝蔵…うう。牛乳さえ飲ませられれば、生きられたかも知れないのに!」上官の前で不甲斐なくも涙を流してしまった。


「久留間君。君も辛いと思う。無理するでない。もう、徴兵期間は終わった。帰るのが良い。」上官はそう言って下さり、私は帰ることとなった。


そして恥ずかしさもあるが日本に戻ってきた。皮肉なことだが、日本人を捨てるって言う者が生き永らえ、お国のためにと忠誠を尽くしたものが死んでしまう。そんな時代だった。-




「ワシの寿命はもう少しじゃ。そろそろ、伝蔵…行くで。あの世では牛乳を飲もうな。一緒に。政勝、例の曲をかけてくれ。ワシはあの曲が聞きたいんだ。純、良い曲を見つけてくれたのぉ。」

「おじいちゃん。死んじゃダメだよ!俺が二十歳になるまで頑張って見届けるって言ったじゃん!」

「すまんのぉ。だがもう少しだ。寿命が来てしまったんじゃ。でもな、純のことは天の上で見届ける。立派な大人になるんじゃよ。」

「では、父上。例の…例の曲を流します。うっうっ」

「何を泣いておる。政勝。一家を頼んだぞ。」

父、政勝は泣く泣くCDをかけた。『帰りに牛乳を…買ってきて下さい…寝る前にホットミルクがどうしても飲みたくて』

「この曲を聴いてな。よく伝蔵の事を思い出すんじゃ。昔はな。それが後悔、いや心残りやったけどな。今となっては良き思い出じゃ。眠くなってきたのぉ。」

祖父の心拍数は徐々に下がっていってる。

「もう終わりが近づいてるんやな。お前達を遺せてワシは幸せじゃ。」

『ずっと一緒に居ようねと…』心拍数は50をきった。

「で…でんぞう…」祖父は苦しそうになった。

母は急いでナースコールをした。

『いつか時間が流れて 私が冷たくなるとき』

その時、祖父は息を引き取った。まるで歌に会わせるように。

「靖じいちゃん…あぁあ」暫く悲しみは続いた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ