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恋愛短編集

正しい愛の伝え方

作者: Moku

 小さな頃からお隣に住む四歳年下の鳥井和麻(とりいかずま)くん。体が弱くて本が友達で運動音痴な眼鏡少年に私は昔からメロメロだった。

 元々弟が欲しかったので口を開けば生意気で強がるくせに寂しがりやで時々デレる隣人はまさに理想。可愛くて可愛くて、とことん甘やかしつくした。

 それはもうブラコンの域だったので、中学で出来た彼氏とのデートすらお願いされればキャンセルしたほどだ。それが原因で彼氏には振られた。慰めに来てくれる和麻くんは優しい。

 通算5人目の彼氏に同じ理由で振られたのは高校二年生の冬。項垂れながらもへこまず、いつかこんな(ブラコン)を認めてくれる人を見つけてみせるねと意気込んだ私に向かって和麻くんが言った。


「それ、俺じゃだめ?」

「ん?」

「由良の彼氏になりたいって、言ったつもりなんだ、けど」


 私の服の裾を掴み、少しぶっきらぼうな口調で頬を染めて視線をそらされた時の可愛さと言ったら筆舌尽くし難い。

 強いて言うなら、ぼふっと脳が爆発した気がした。胸にドスドスと連続で弓が刺さった気がした。和麻くんの周りがいつもにましてキラキラ輝いていた。

 つまり、可愛い弟が可愛い彼氏になった。この世の春が来たのだ。世界には愛が満ちている!


 そうはいっても元々和麻くん優先の日常だったので何も大きく変わることもなく、お互いの家に遊びにいったり、私の作ったお料理を一緒に食べたり、時々外でデートしたりして一年が過ぎた。




「――― 俺とやることもっと他に無いわけ!?」




 今日は一緒にゲームでもしようかなとチェスを持ち込んだら和麻くんがキレた。

 チェスは駄目ならトランプでもテレビゲームでもと色々提案してみたのだけど、どんどん機嫌が悪くなって口数が減っていく。


「えっと、どうしたの?和麻くんが何に怒ってるかわからないよ」


 こんな風に拗ねるときは大抵私に原因があるのだが、今回は本当にわからなくて困惑しながら白旗を振ると睨まれた。


「俺の家に来てるのに、二人でやることと言えば読書とか料理とかゲームとか呑気な時間過ごして帰るし!そもそも由良って本当に俺のこと好きなの!?」

「好きだよ!大好きだよ!?」


 そこを疑われるとは思わなかった私は多大なショックを受けた。昔から一途に溺愛しているのに伝わってないなんて思わなかった。


「だ、大好きだよ!この世で一番大好き!いや、宇宙規模で大好きだよ!!大好き!!!」


 この迸るパッションを伝えねばと両手を広げ、満ちる愛の広大さを伝えたつもりが和麻くんの機嫌はまだ悪い。


「大好きってさ、すごく月並みなんだけどもっと他の表現ってないの?」


 ベッドに腰掛け、クッション片手にふて腐れている姿に戸惑いつつ、リクエストに答えようと少ない知識を絞り出す。


「ジュテーム!」

「日本語を変換しろって意味じゃないから」

「月が綺麗ですね!」

「今、昼だけど」

「君がいないと生きていけない!」

「じゃあ死んでみせて」

「敬天愛人」

「三百代言」


 だめだ、言葉では叶う気がしない。私の心に宿る偽りのない清廉潔白な愛は行動で示すしかない。


「薔薇百本買ってきます!」

「邪魔だからいらない」

「今日から百夜通いします!」

「隣じゃん」

「寝る前に物語を読み聞かせします!」

「気に入らなかったら首跳ねていいの?」


 思い付くままに言ってはみたが突っ込みが的確すぎて打つ手がない。どうしたらこの恋心が伝わるのかわからない。ここはひとつ、私の名前で一句詠んでみた。


「……由良のとを 渡る舟人 舵を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな」

「それを今、言いたいのは俺だよ!!」


 すごく怒られた。

 私と和麻くんの恋の道は迷走しているのか。今つうじてないあたり確かに迷走中かもしれない。このまま川から大海原へ旅立って大後悔(・・)時代を迎えたらどうしよう!

 想像して涙目で俯きその場にへたりこむと、和麻くんが眼鏡を押さえてため息を吐いた。


「……俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、もっと単純で―――こういうことだよ」


 隣に座って眼鏡を外したかと思えば、目を閉じた顔が寄せられた。睫毛結構長いんだなと見とれていると唇が羽のように軽く押し付けられた。

 至近距離で私を見つめる瞳が潤んで揺らめく。真っ赤な顔で耳まで染めて、恥ずかしそうに顔を背けられた瞬間、ぼふっと火が出るように頬が熱くなった。


 ちゅーが。

 ちゅーがきたよ!

 ちゅーがきました!

 キャアアア!キャアアアキャアアア!


 転げ回りたい気持ちを押さえて、へらへらと緩む頬を押さえる。


「そ、そうですよね!恋人だもんね!」

「そうだよ。俺ももうすぐ高校生なんだよ!」

「じゃあ、もうペロペロしたいきもち我慢しなくていいんだよね!」

「え」


 私が目を輝かしてにじりよると少しひきつった顔をされたのは気のせいだ。だって弟じゃなくて恋人だし、もう何したって許されるよね。笑顔で擦り寄ると真っ赤な顔で押し返してくる。ああ可愛いな。可愛いな。


「ま、まてまてまて!とりあえず落ち着いて!冷静にだな!!」


 なんでそこで逃げようとするかな。可愛いけど往生際が悪い。

 腕を掴んで、引き寄せて。

 まずは可愛くない事を言うその口から美味しくいただくことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリ良いカップルの会話。元ネタわかると楽しいですね。 リア充爆発しろ [一言] はじめまして。さらっと読みやすく、面白かったです。ありがとうございました。
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