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恋のエルミタージュ

作者: 国見遥

先に見えるは永久より続く紅く醜き道。その道を進むか進まないかは貴方次第。永久に続く道を貴方が選ぶなら、深く潔白な覚悟をその身に宿し、その両手に虚ろがざる刃を持って彼方を見据えろ。


 唯々空に広がるは、貴方を誘う狂喜の声。その声に耳をかしてはならない。その声は深き空の色と豊潤な地の香りを併せ持った死の味をもっている。その声に耳をかしてはならない。貴方が前に進む覚悟をもっているのならば。


 空に腰を降ろした雲は貴方がどんなに天を仰いでも姿を変えない。彼は異常なまでの嫉妬心を持っているからだ。その淡き嫉妬は天と地に向けられ、それは永遠に退けることは出来ない。天は神と崇められ、地は恩恵を賜る気高きもの。人々はそれら二つにのみ信仰を注ぐ。雲はそれに嫉妬しているのだ。


 いざ進め。まごうことなき迷いのなさをもって、深紅の道を。その先には光と闇の混在する世界。そこで歓喜の宴を見つけるか、死票の儀に身を委ねるかは貴方次第。もしそこで歓喜の宴を見つけたならば、一時の幸福にその身を任せ、それまでの険しき旅路の疲労を忘れ、いつ崩れるやも知れぬ興奮と快感に酔いしれるのも良いだろう。だが、これだけは心に刻め。すぐ横は断崖だということを。死票の儀に身を委ねるならば、そこで足を止めてはならない。地から伸びる人の心のように黒い腕が貴方をいつまでも摑み放さないからだ。


 苦渋ばかりを舐める旅にもいつかは終点が射す。そこで旅路の先に見つけた終わりを悔いるか、深紅の道を進まなかったことを悔いるか。それすらも貴方次第だ。しかし、もし私なら進んだ後の後悔よりも進まなかった時の後悔を怨む。たとえ世界の終わりが望むものでなかったとしても、まだ見ぬ世界に心を揺らがせるよりはずっと空は晴れ渡るだろう。


 その旅路の苦しみは何より楽しく、その旅路の悩みは何より嬉しく、その旅路の悲しみは何より甘く、その旅路に死ぬことほど幸福なことは他にない。


 さぁ、貴方ならどうする。仮に光を見出し歓喜の宴を見つけても、それは喜びのように早く消えるかもしれない。それでも貴方は進むか。それでも貴方は世界の終わりをその目に焼き付けることを望むか。もし進むのならば、もし焼き付けることを望むのならば、貴方は自分の身を切り刻むことをも厭ってはならない。


 降れ、降れ雨よ。啼け、啼け風よ。貴方が望むなら深紅の道は祝福の青き道へとその姿を変え、終わりなき至福の金色の光を降り注がせるだろう。


 神よ。もしそなたがこの世に存在するのならば、どうか彼方にも彼方にも闇の誘いが無きよう、そなたの神歌で、終わりなき擁護を。  


 神よ。もしそなたがこの世に存在するのならば、どうか彼方の首を絞める艶緑の鎖を引きちぎり、彼方に比類なき強さを賜りたまえ。

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