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無理やり表現有。

自分の知っている男とは別の男が存在する。

とっくに気づいていたから。

身体にあるのは痛みでも、心は歓喜に溢れていた。



それは突然のことだった。

いつもより遅い時間にやってきた仙道は、部屋に入るなり華乃を文字通り、ベッドに投げた。


驚きで言葉も出ない華乃の上に圧し掛かり、そのまま無言で手首を強引に掴んだ。

解いたばかりのネクタイで頭の上にきつく縛りあげる。

力増せなのに流れるような動作と慣れた手つき。淡々と見下ろす瞳が冷たくて。

金縛りにあったかのように身体が動かなかった。


そのまま何も言葉にすることなく、ただ嬲るように。

華乃の全てを制圧するように激しく弄ばれた。



「ん…」

気を失っていたらしい。

気づくと、ベッドに横たわったままの華乃を仙道が見下ろしていた。

「起きたか?」

問いかける低い声はいつもと変わらない落ち着いたもの。

見下ろす瞳には先ほどまでの荒々しさは微塵も見えず、いつもの平坦な冷静さが戻っていた。

「うん。…っ」

起き上がろうと身体を動かしかけて、顔が歪んだ。

…痛い。

手も足も胸もお腹もあそこも足すら。痛い。

ビリっとした痛みが走る。


「動くな。身体を拭いてやるから、そのまま待ってろ」

仙道がバスルームへと消える。

部屋の電気はついたまま。

身体にはネバつくような不快な感触が残ったままだ。

あれからどれぐらい時間が経ったのか…。

枕もとの時計を見ようにも、少しでも動くと痛い。

いや、動かさなくても痛い。

「ふぅ・・・」

華乃は息を吐いて。おとなしくそのまま動かないことにした。


ごとっ。

音がして、仙道が戻ってきた。

その手には洗面器とフェイスタオル。

テーブルの上において、水に浸したタオルを絞る。


華乃は仙道が上着を脱いだだけの姿であることに気づいた。

そういえば、華乃を嬲っている間も衣類は身につけたままだったような気がする。

そこまで気を配る余裕なんてなかったけれど。


温かいタオルがお腹にのり、ゆっくりと全身が優しく拭き清められていく。

「っ」

それでもあちこちについた傷がチリチリと痛み、華乃は思わず眉をしかめた。


「…悪い」

赤く腫れた手首を優しく撫でながら仙道が頭を垂れた。

いつも自信に溢れ堂々とした彼には珍しい、その気まずげな表情に華乃は微笑んだ。

「大丈夫」

「…」

それでも顔色の晴れない仙道に、華乃は少しだけ本心をのぞかせた。

「嬉しかったの」

「…あ?」

よっぽど意外な答えだったのか、仙道は目を見開いて固まった。


そんな表情すら愛おしい。

「いつもと違う久志さんが見れて嬉しかったの」

満面の笑顔で答えた。

「…お前・・・」

これまた珍しく仙道が言葉に詰まった。

呆れたようなホッとしたような苦虫をかみつぶしたような、いろいろな気持ちが入り乱れているであろうその表情。

「そんなこと言ってっと、次ヤバいぞ」

ちゃかしたような科白だったから。

華乃もちゃかしたように答えた。

「久志さんならいいよ」

「っ」

仙道が固まったように動かなくなった。

でも次の瞬間にはふいっと顔を背けて、洗面器を片手に立った。

「…もう二度としねぇよ」

背を向けたままの言葉には謝罪の気持ちが込められていることに気づいた。



仙道は知らないのだ。


歪んだ欲情をぶつける相手が自分であったことが嬉しい。

どんな場面であれ、仙道に必要とされたことが嬉しい。

自分の知らなかった、激しすぎる一面を見れたことが嬉しい。

仙道からもたらされるものならば、例え痛みであっても喜びなのだと。



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