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日本にはいくつもの違う世界が存在しているのだと知った。
自分が当たり前に過ごしてきた世界はほんの一部でしかなくて。
でも培われた常識は幾重にも体を縛って私を動けなくするのだ。
仙道の骨ばった大きな手が、華乃のなだらかな曲線をつたう。
何度も、何度も、触れられた肌が熱を持つ。
ただ身体の輪郭をなぞられただけなのに、熱はあっという間に全身に伝染し身を焦がす。
熱い・・・。
自分の身体が信じられなくて華乃は思わず身をよじった。
落ちてきた唇が華乃の鎖骨を辿り
「ああ・・・」
吐息のような音がどちらからともなく漏れる。
体中をまさぐっていた手が、ようやく胸へと辿り着く。
完全に自己主張を始めた蕾に指先が触れただけで、全身に痺れが走る。
甘い甘い痺れ。
漏れた吐息を仙道が唇で奪う。
咥内を傍若無人に蹂躙する舌から逃れられない。
仙道の視線が華乃の視線と絡んだ。
その奥に激しい焔が確かに見えた。
いつもは氷の奥に垣間かすかに見える焔が、このときばかりは氷を凌駕し全てを焼き尽くすかのようで。
そこに華乃は自らを投げ出す。
あのとき、囚われた眼差しに。
何もかも、何一つ残すことなく焼き尽くしてほしいのだと。
心から願う。
溶けてしまいそうな甘い、強い刺激。
甘美な麻薬は指先から脳内まで達して精神を麻痺し華乃を征服する。
絡み合った身体は貪欲に狂おしくお互いを求めて・・・
囚われた。
呟いたのは、男か女か・・・
隣の温もりが動いて、泥のように眠る華乃の意識も浮上する。
「まだ夜だ。寝てろ」
掛けられた言葉に時計を見ると、深夜4時。
「帰るの?」
「ああ」
答える男の背中を眺める。
長身に見合う、筋肉で引き締まった身体。
その上腕から肩、背中にかけて大きく色鮮やかな彫り物。
思わず見惚れてしまう。
真っ赤な牡丹とその下に白虎が牙をむく。
それは寡黙で鋭く圧倒的な雰囲気の彼と見事に一体で。
怖いという感情すら浮かばない。
ため息をついてしまうほど。
仙道の後姿は美しい。
けれど、その眩いほどの紅と白が二人の世界の隔たりをハッキリと主張して。
静かに密かにじりじりと華乃の胸を焼くのだ。
それでも、それを直視すればすべてが終わってしまうような気がして。
痛みに目隠しをする。
自分の知らない世界に何もかもを捨てて飛び込めるような、世間知らずな真っ直ぐさも度胸もない。
気まぐれにあちらの世界からやってくる仙道を待つしか華乃に出来ることは何もない。
仙道は何事もなかったかのようにシャツを着てスーツを羽織りネクタイを締める。
そして。
華乃の額に一つキスを落として出て行くのだ。
ドアが閉まる音だけが響いた。
世界は再び分かたれた。
この瞬間だけが毎回慣れなくて。
これは夢だからと自分に言い聞かせた。