表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

あまりにありふれたドラマみたいだったから。

囚われてもなお夢を見ているようだった。

幸せな夢を。


1.


会社の飲み会の二次会を途中で切り上げた、深夜の繁華街。

華乃は薄汚れた金髪の二人組みの男に絡まれた。

「お姉ちゃんカワイイね~~。」

「おれらと一緒に飲みに行かない?」


運が悪い。

どうみてもまともな職業の人間ではない。

チンピラという職種があるなら、まさしくそれ。

関わらないのが一番だ。

そう判断し無言のまま早足で通り過ぎようとした華乃の肩を、一方の男が掴んだ。

「冷たいな~~。ねぇねぇ。」

触れた肩から伝わる体温が不快だった。


どうしよう。早く逃げなきゃ。

気持ちだけが焦る。相手の顔も見ることができない。

うつむいたまま振り切って歩き出す。

だが、男たちは予想外にしつこく悪質だった。

二歩も進まないうちに、グイッと再び肩を掴まれた。

そのまま、勢いよく人気のない路地に引っ張り込まれる。


うわっ。ヤバイ!

華乃は冷水浴びたように酔いが一気に冷めた。

「すみません。本当に帰らなきゃいけないんで!!」

振り絞ってやっと出た言葉に、男の一人が笑った。

「そうそう。そんなふうに元気のイイコがいいなぁ。」

下卑た笑い。

見上げた顔が楽しそうに歪んでいる。

背筋が冷たくなった。


「いいだろう。そんなこと言わないでさ~~。なっ。」

もう一人もニヤニヤ笑って華乃の肩を左腕で抱きこむ。

「・・・やめてください」

声が震えた。

押し戻そうとした右手が、もう一人の男に捕られた。


そして。

男の唇が華乃の右手に押し当てられた。

「!!!」

あまりに不快な痺れが身体全体を走った。

全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。

「柔らかくて気持ちいいな~。」

必死で振り払おうとするが、強くつかまれた腕はびくともしない。

嫌!!誰か!!

そんな思いだけが頭の中を駆け巡る。

男たちのニヤけた顔が華乃に迫ってくる。


「…やめてください!!」

無我夢中で華乃は顔を逸らした。

ぎゅっと目を瞑る。

これ以上直視は耐えられなかった。


「何事だ。」


突然、静かな声が路地に響いた。

途端、男たちが通りの方向に向き直ったのがわかる。

「せ…仙道さん!」


「何事だ。」

静かな声はもう一度同じ質問を紡いだ。

穏やかでそれでいて威圧感のある低い声。

男たちが動揺するのがわかった。

華乃は恐る恐る目を上げ、声のほうを見た。

濃いグレーのスーツ姿の男が立っていた。

「うちのシマで騒ぎか?」

「いえ・・・。すみません、すぐに立ち去ります!」

男たちは慌てて深く頭を下げると、華乃の手を乱暴に投げ捨てるように振り解く。

「!」

その反動で華乃はバランスを崩して地面に倒れこんだ。

バタバタと走り去っていく足音だけが耳に入る。

やがてその音すら聞こえなくなり、沈黙が下りた。


助かった・・・?

息を吐く。

徐々に身体の緊張が解けていく。

こわばっていた手が、ようやく動かせる。

華乃が座り込んだままゆっくり顔を上げると、そこにはさっきのスーツの男がまだ立っていた。


気が緩んで正常に動かない頭でぼんやり眺める。

30代前半?長身で端正な顔立ちに涼しげな目元、だが優しい感じはしない。

凄みを帯びた雰囲気が圧倒的にその場を支配している。

彼はポケットに手を突っ込んだ姿勢のまま、華乃を見下ろしていた。


「・・・立てるか?」

さっきと変わらない穏やかで低い声。

ゆったりと近寄ってくる。

差し出されたのは大きな骨ばった手。



きっと華乃はこのときすでに囚われていた。

この男の声に。手に。存在に。



そう、まるでそこらへんに転がっているドラマみたいに

現実には起こらないのにありふれたベタな出会いだったから。

夢を見るように受け入れてしまったの。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ