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第一章〜瞬きの四階〜

この作品はフィクションです。

「じゃ、そろそろ始めようか」


5時間目。


1年E組の生徒と担任の西条 一歩はサッカーコートが四面作れるほど広大な敷地を持つ校庭へと集まっていた。


もちろん昨日西条がふっかけた勝負をするためだ。


「最初は誰からくる?俺は誰でもいいんだが?」

「俺がやります」


結城が颯爽と名乗りをあげ、西条と対峙する。


「こちとら昨日からいろいろあって溜まってんだ。手加減なんてしねぇぜ」


よく言うよ、戦闘中毒が。


薫はヤル気満々の結城をどこか冷めた表情で見つめながら思った。


「それは俺のセリフだ、四院家四の字次期当主、四階 結城」


「やっぱりか……」


周りの生徒がにわかにざわめきだすなか、薫はポツリと呟いた。


日本には由緒正しき魔法の家系が4つある。


一色、二潟、三呉、四階の家系は総じて四院家と呼ばれ日本魔法界のみならず国際魔法界にまで多大な影響力を誇っている。


さらに本家の人間は強大な魔法力を引き継いでおり、強力な魔法を使用することができる。


故にその次期当主である結城がE組に在籍していることは異例であり、本家としての面子も丸潰れのはずだ。


「まあとにかくおっ始めようぜ。肩書きなんざ関係ねぇ、純粋な勝負をな」


だが結城はどこか達観した面持ちであった。その表情はよほど自分に自信がなければなし得ない表情だった。


「ふっ…青二才が」


西条はシニカルに微笑みながら長さ30cmほどの杖を取り出した。すると対する結城も同じものを取り出す。


これはマポレツールと呼ばれる道具だ。


マポレやツールとも呼ばれているこれは、周辺に浮遊している魔力子を集結させるライカーと呼ばれる特性を持った木から造り出されており、最低でも1、2倍。最高で3倍近くまで魔法の威力を高めさせることができるのだ。


今の時代、魔法使いでマポレツールを持っていない者は杖無しと呼ばれ、希少な存在となっている。


「ま、若いのは認めるけどそれは今、関係ねぇだろ?」

「そういう物言いだから青二才と言われるんだよ」


西条はそう言ってニヤリと笑った。だが結城は笑わなかった。


刹那、どちらからともなく魔法を打ち出す。


「雷式の五、雷弾」

「炎式の七、炎弾」


外界へと放出された魔力は、互いに炎と雷の弾となり衝突する。だがわずかながら炎弾の威力が高かったのか、雷弾を消し去り結城に向かって飛来した。


結城はサイドに軽くステップするだけでその攻撃をかわし、西条を睨んだ。


「さすがは四階家次期当主、いい魔力を持っているな」


一般に魔法は法式が高い方が威力や効果が上位と思われがちだが実際は違う。


いや、確かに単純に考えればその一般論も間違いではない。だが魔力の圧縮率や消費量など様々な要因によってその全ては覆すことができるのだ。


「遊んでるヒマはねぇ。ハナから全開でいくぜぇ!!」


結城は己に蓄積された魔力をほぼ全部消費する。


「雷式の一八、アップデート」


魔法を発動した瞬間、結城の体が黄色い光の粒子に包まれた。その幻想的な姿に生徒全員が目を奪われた刹那、結城の姿が消え去った。


「おらぁッ!!」


一体いつの間に移動したのだろう。結城はすでに西条の背後に回り込んでおり、その拳をふるっていた。


その速度に反応できなかった西条は背中に拳を撃ち込まれぶっ飛んだ。


そのまま重力なんかくそ食らえと言わんばかりに10mほど飛び、ようやく地面に転がり落ちる。


決まった。


結城だけでなくその勝負を見ていた全ての生徒がそう思った。


ただ1人。薫の除いてだが。


「なるほど。雷式の身体強化による近接格闘。それが四階の戦闘スタイルか」


その声の主は悠然と、姿を現した。


歩み寄るその人物を視認した瞬間、結城の表情に明らかな驚愕の色が見てとれた。


それもそのはず。その人物はたった今ぶっ飛ばしたはずの西条だったからだ。


「な、なんであんたが……」

「フレイムシャドーだ、四階」


明らかに狼狽している様子の結城にそう言ったのは薫だった。


「フレイムシャドー…なんだそれ?」


結城は聞いたことのない言葉に疑問を投げかけた。


「炎式の一六、フレイムシャドー。炎で分身を造り出す魔法だ。普通なら体のどこかに炎のほころびがあるんだが、あそこまで綺麗にできるとなかなか見分けがつかないんだよ」


薫は結城に近寄るとその肩に、ポンッと手をおいた。


「お前の敗けだよ、四階。あれがナイトフレイムだったら今頃お前は黒焦げだ。それでも使わなかったのは先生の優しさだろうな」


その言葉を聞き、結城を包んでいた黄色い光の粒子が霧散した。魔法をといた証だ。と同時に、ガクッと膝から崩れた。


「敗けた…俺が…何もできずに?」


結城は半ば呆然としたままよほど悔しかったのか、はたまた予想外だったのかポツリと言葉を溢した。


「なぁに、そんなに気にすることはない」


そんな結城に言葉をかけたのは西条だった。


「お前の近接格闘は見事だった。確かにあの戦闘スタイルならE組に入学させられるはずだ。だが安心しろ、お前はA組にも敗けない力を持った魔法使いだ」

「……先生…」


西条は結城の顔を見ながら優しく微笑むと、今度は薫を見た。一寸前とはかわり、真剣な表情で。


「気付いていたのか?」

「ええ、まあ。みんな気付いてると思ってましたけどね」


真面目な西条とは違い、薫はどこか飄々とした態度で言葉を返した。


「だいぶ炎式に詳しいみたいだったが」

「知り合いが炎式使いなんで。そのせいですよ」

「…興味がわいた。お前、俺と勝負しろ」

「残念ですが、遠慮しときます」


薫は一瞬も考えることなく即答した。


「軍人さんと勝負して勝てると思うほど、簡単にはできちゃいないんで」


その言葉を聞き西条は驚愕した。確かに西条は元・軍人だ。だが軍人らしからぬ態度と雰囲気をあえて醸し出し、その素性を隠していた。


だが目の前に立つこの少年はあっさりとそのことを見破った。


それだけなのだが、この少年がいかに観察眼や理解力が高いのかがうかがえた。


いったい何者なんだ、この少年は…。


まじまじと言葉を発さずに少年を見ていたが、西条はさらに驚愕することになる。


「知り合いの炎式使いが元・軍人なんでね。そのせいですよ」

「…ッ!!」


有り得ない!この俺が手玉にとられてるだと!?


西条は驚愕したまま、その場に立ち尽くした。


正体の分からない少年を前にして体が強ばっていたからだ。思わず魔法で攻撃しようかと思った。しかしそれも寸前で思い止まった。


目の前に立っている少年はいたって自然体だ。だがスキがない。攻めこむスキが見当たらないのだ。


なぜそんなに気を張っている。


なぜそんなに周囲を警戒しているんだ。


この少年の力が見たい。魔法が見たい。全てが見たい。


「ふっ…」


西条は思わず吹き出した。


今までの人生でここまで興味をそそられる人間な出会ったことなどなかった。だがたったいま、西条は自分の半分しか生きていない人間に全てを奪われている。


この…謎の少年に。


「いいだろう。お前には別の相手を用意してやる」

「別の相手?」

「ああ。とっておきの、な」


西条はクイッと校舎を指差した。


薫はその指差す方を視線で辿って……大きくため息をついた。


「なんであいつは大人しくしてらんないかなぁ……」


そこには満面の笑みを浮かべた詩織と大胆不敵に微笑む桐埜、およびA組の生徒たちがいた。

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