表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/29

第一章〜夢想の薫〜

この話はOpeningより前の話です。

人はいつの時代になろうとも、美しく煌めく夕陽に何かを感じられずにはいられない。


それはどんな人間であろうときっと変わることのない感性なんだろう。


「なあ少年。俺は思うんだが別に強くなる必要はないんじゃないか?まだお前は9歳にもなっちゃいないガキなんだからよ。いや、別に強くなることが悪いってわけじゃねぇ。ただ急ぎすぎると早死にするぞって言いてぇんだ」


1日の終わりを告げるその夕陽は、儚くもしっかりとした光を照らし、これから迎える夜へと引導を渡すのだ。


「そうですか?…まあおじさんがそう言うならそうかもしれませんね」

「おじさんか…まだ30にもなってないんだが、なかなか刺のある言葉だな」


男は愚痴っぽく言うと、持ってきた紙袋の中から焼き芋を取り出し、「ほらよ」と言って手渡した。


「あ、ありがとうございます。お金はまた今度払いますね」

「いや、いい。それは俺の奢りだ。それにガキがそんなことをいちいち気にするんじゃねぇ」

「そういうわけにはいかないですよ。それにお金の心配もないですし」

「あー…じゃあこうしよう。その焼き芋をくれてやる代わりに少年には俺と約束をしてもらおう」

「約束…ですか?」

「ああ、約束だ。今はとりあえずそいつを食え。冷めたらおいしくないぞ」


2人はそれ以上の言葉をかわさずに、ただ目の前にある焼き芋へとかぶり付く。


12月の寒空の下。熱々の焼き芋をたった一口食べるだけで自然と体はいい感じに熱をおびてくる。


ヒンヤリとした風が暖まった体を吹き抜けると身震いしてしまうが、それでもなんとも言えない気持ちよさがあるのだった。


そんな情緒溢れる公園で、少年は焼き芋を食べながらおもむろに空を見上げた。


第一次魔法大戦が終息してからまだ一月も経っていないが、あの頃のようにこの綺麗な空を黒に染め上げるような戦闘機は見かけなくなった。


だがそれらの出来事は全て偽りだ。


第一次魔法大戦は世間一般では終戦したように思われている。しかし実際は各国の軍事力低下による休戦に過ぎないのだ。


事実、中国とロシアは未だに日本戦略の隙を狙っている。それに対抗するように日本でも常に軍が日本海および北の大地に目をひからせている。


終わりのないゼロサムゲーム。


日本に再び平和が訪れることはもしかしたら二度とないのかもしれない。


その根幹にあるのは紛れもなく日本が独自開発したバベルの塔の技術だ。


バベルの塔……正式名称、太陽光発電システム内蔵型首都圏防衛タワー。


西暦2055年に建造が開始し、現在は試運転期間を迎えている全高が1kmもある超巨大建造物。


地上300m以上には全面に太陽光発電パネルが取り付けられているうえに、熱発電システムも搭載されており、関東全域に電力供給を行っている。


バベルの塔が建造されたことにより関東の発電所はなくなったうえに、電気自動車の電力まで発電できることから、日本は極端に石油、石炭などの化石燃料の消費が減ったのだ。


さらにバベルの塔には魔力を供給する装置が内蔵されているらしく、その魔力には固定と吸収の特性があり吸収による摩擦熱を熱発電システムで電気に変換している。


だがその技術は一切公開されず、日本でもそのデータの存在を知っている人物は数えるほどしかいない。


しかしそんな次世代の技術を大国が見逃すはずなどなく、また石油などの化石燃料を輸出することによって成り立っている中東が反発しないわけがなかった。


世界は日本に技術の公開を求めたがその要望には応じず、建造は日本に依頼しなければなし得ない状態となった。さらに日本はこの状況を逆手にとるかのように莫大な予算を要求し、理解を得られなかった国と戦争になったのだ。


「ワガママなんだよ…みんな」


どの国が悪い。どの国が正しい。


そんなことは誰にも言えやしない。


ただこの状況が望ましくないことだけは、この少年にも理解できるのだった。


「ところで少年。さっきの約束の件だが」

「はい、何ですか?」


物思いに耽る少年の耳に、男性特有の低い声が聞こえてくる。


「炎式を使わない。このことを俺と約束しよう」

「え…でもそれじゃ僕は…」


僕は、しおりちゃんを守れない。


しおりちゃんのかわりに戦うことができなくなってしまう。


「僕にどうやってしおりちゃんを守れって言うんですか!?」

「落ち着け…炎式を使わないと言っても、それは常にじゃない。日頃は使わないって約束だ。少年が大事な人……つまりしおりちゃんとやらを守りたいときにしか使ったらダメってことだ」


男はそう言うとおもむろに立ち上がり歩き出す。そして少年から10メートルほど離れたところで立ち止まった。


「少年は炎式なんざ使わなくても壁式が使えるじゃねぇか。しかもまだ8歳なのにニ十番台が使える。このままいけば高校生になる頃にはきっと三十番……いや、四十番台も使えるようになるだろう。少年はそれほど優秀な魔法使いなんだ」


三十番台の魔法が使える高校生の魔法使いは、国家的にみてかなり貴重な存在だ。いや、軍にいる魔法使いですら三十番台を使えないやつらもいる。


だが今俺の目の前にいる少年は、この年齢で確実に核兵器を防げるだけの壁式魔法を保持している。そんな少年が国を滅ぼせるほどの炎式魔法を使えたら戦慄すら覚えてしまう。


「強すぎる力は争いを生む。それこそ戦争のようにどでかい争いをな。少年はそんな戦いに大事な人を巻き込みたいのか?巻き込んだのに守りたいと言うのか?それはただの偽善だ。それこそワガママだ」

「でも…本当に壁式だけでしおりちゃんを守れるんですか?炎式で力を誇示すれば敵は寄ってきません」

「少年…それは昔、核兵器で世界を脅していたやつらと一緒だ。力を見せびらかし、敵を脅かし、偽りの平和で塗り固める。そんな世界で満足か?」


少年は……答えない。答えられない。


「確かに壁式だけじゃ不安になるかもしれない。だが暴力的な強さは必要ない。少年が本当に必要とするのは守るための強さだ。だから炎式は出来るだけ使うな。分かったか?」

「はい…分かりました」


守るための強さ。


それは口で言うほど簡単じゃないのかもしれない。だけどこの少年には守りたい人がいる。だから分からなくてもやるしかない。それが…決して簡単じゃないとしてもやらなきゃならない。


「おじさん…少し付き合ってもらえませんか?壁式だけの戦い方を早く覚えたいんです」


その言葉を聞き、男の顔がニヤリと歪んだ。


「その言葉……待ってたぞ、少年!」


そして法式へと魔力を流し込む。


「炎式の一五、フレイムボム!」

「壁式の八、リジェクト!」


少年の目の前で起こる爆発。だがそれは少年が作り出した六角形の壁によって阻まれる。


「そうだ、少年。敵の攻撃を見極め、その攻撃に最も適した壁式を展開させろ。それが壁式のみの戦い方だ」


少年は男から目を離すことなく少しずつ距離をとっていく。一瞬でも目を離したら、その瞬間に自分の体が黒焦げになることを理解しているのだ。


男は気持ちが乗ってきたのか、今度は連続でフレイムボムを使ってくる。だが少年も負けじとリジェクトで弾き返す。


「いいぞ、少年。それでこそ…それでこそオリジナルを持つ者の力だ!!炎式の一八、ナイトフレイム!!」


男が高々と宣言するように声を発すると同時に、おびただしい量の炎が産み出され騎士の姿をかたどった。


「さあ!これからは2対1だ!」

男が動き出す。と同時に炎の騎士も動き出した。


一瞬にして間合いを詰めてきた炎の騎士の拳をリジェクトで防ぎながら距離を取ろうと後方へ下がる。


「甘いぞ!!」

「なっ!!くっ…!」


だがそこへ炎の剣、サラマンドラを持った男が斬りかかってきた。


これは危ない…リジェクトを……いや!


「壁式の一三、守護障壁!」


とっさにリジェクトよりも防御力の高い壁式魔法を展開し、サラマンドラの斬撃を防ぐ。


「ふっ……防御力の低いリジェクトを発動していたら今頃その体は切り刻まれていただろう…。いい判断だ、少年」


男は距離をとり剣を構えながら余裕の表情で少年に言った。だが対する少年は切羽詰まったような表情で男と自分の後ろに立つ炎の騎士を睨み付ける。


「魔法の二重発動…しかも炎式。子供相手にこれは卑怯じゃないですか?」

「ふっ…何を言っている少年。勝負の世界に卑怯も何もない。あるのは勝者と敗者の2つのみだ」


その瞬間、男の姿が視界から消えた。


もちろん本当に消えたわけではなくそれほど速いスピードで動いたのだ。今までとは比べものにならないほどのスピードで動きだしたということは、ここからが本気だということだ。


「はぁッ!!」


勢いよく降り下ろされた斬撃をサイドにステップすることでなんとか回避する。だがそこへ待ってましたとばかりに炎の騎士が殴りかかってくる。


それをリジェクトで受け流しながら少年は体勢を立て直した。しかしそこへサラマンドラから放たれた炎の軍勢が勢いよく迫り来る。


「壁式の二八、守護領域ッ!!」


少年が魔法を使った瞬間、目前まで迫った炎の軍勢が時間を停止させたのかと見間違えるほど一気にピタリと停止した。


もちろん時間を停止させることなどできるわけもなく、炎が停止しているのは少年の半径3メートルだけだった。


そして炎は音もなく綺麗に霧散した。


「まさかッ!固定の特性を持つ壁式魔法による空間凍結だとッ!?」


男が明らかに狼狽した様子で予想外といった声を上げた。


この少年が規格外の力を持っていることは俺も分かっていた。だがまさかここまで規格外の範疇を越えてくるとは夢にも思わなかった。


そもそもこの世界の空気中には魔力子と呼ばれる魔力の源が浮遊している。呼吸によって体内へと取り込まれた魔力子は、圧縮されながら蓄積され魔力へとその姿を変え、法式へと流し込むことによって魔法として初めて成立するのだ。


そして魔法はそのほとんどを外界で発動している。


外界で発動された魔法は空気中に浮遊している魔力子を己の魔法に適した特性へと変え、力として取り込んでいる。


少年が使った壁式の二八、守護領域は、魔力の持つ固定の特性を壁式魔法を介することによって一気に何倍にも増幅させ、外界へと放出することによって空気中に浮遊している魔力子全てを固定の特性に変えることによって、その場に他の魔法が発動出来ない空間を作り上げていたのだ。


つまり少年が今の魔法を発動させている限り、魔法による攻撃は通用しないということになる。


「チッ…空間凍結が使えるとは思ってなかった。こうなったら長距離魔法でケリをつけるか、それとも……」




本気を出すかのどっちかだ…。





とその時、少年の周囲に煌めいていた白い光の粒子が消え去った。


男は少しだけ身構えたが直後に倒れこんだ少年の姿を見て大きなため息をついた。


「いくら短距離魔法とはいえ空間凍結魔法を使い続けるのはさすがに厳しかったか。まあまだ8歳だ。そんなに気に病むことはないさ……」

「すい…ません……」


これじゃしおりちゃんは守れない。


壁式だけで守りきることはできない。




「強く…ならなきゃ……僕、は…」




そこで、少年の意識は刈り取られた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ