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第一章〜恍惚の結城〜

この物語はフィクションです。

俺は今、すこぶる機嫌が良い。


今なら知らないやつらにいきなり殴られても絶対に怒らない自信がある。


もしかしたら袋叩きに遭おうとも、カツアゲされようとも、車にひかれたとしても絶対に怒らないだろう。


…いや。やっぱりさすがにそれだけやられたら怒るな。まぁそれほど機嫌が良いということだ。


理由?


そんなもの言うまでもない。


単純明快にして至極明細。


そう。バトルができるからだ。


魔法を使ったバトル。これほど俺の機嫌を良くしてくれるできことなどないだろう。


俺にとってバトルこそ最高の娯楽であり、これ以上ないイベントだ。だからこそこの学校に入学したかいがあるというものだ。


今思い返すと始まりは食堂からだった。


今日の学校は入学式と軽い説明だけだったから午前で終わった。


そして寮に帰りついた俺は、中学時代からの友人である歩夢に昼飯を食べようと誘われた。


まぁ断る理由はない。


そして俺は歩夢より少し遅れて食堂へと向かった。


するとどうだ?


歩夢はすでに食堂で食事を済ませているじゃないか。


それだけでなく見たことのない人物と楽しそうにお喋りをしている。


歩夢は人見知りが激しかったはずなのに、なぜあんなにも仲睦まじくお喋りをしているんだ!?


だが歩夢の人見知りをどうにかしないといけないと考えていた俺にとって、むしろこの状況は喜ぶべきことだ。


なんせあの歩夢が入学した日に友達を作れるなんて思ってもいなかったからだ。


しかも相手は入学式にギリギリやってきたA組の女の子じゃないか!


しかしこの百人近い人数が座ることのできる食堂で、いったいどうやって仲良くなったのだろう?


まさか、いきなり相席するわけにもいかないし…。


と悩んでいた俺だったが、歩夢の隣に座る人物の姿を確認し納得した。


そこには2人の共通の友人である秋津 薫が座っていたからだ。


「なるほどな…秋津の仲介があったのか」


確かに今日の朝、A組の少女は秋津と一緒に来ていたな。で、あの2人が友人で歩夢がそこに入ったというわけか。


なるほどなるほど…。


となると俺があそこに混ざっても問題ないよな。歩夢は俺の知り合いなわけだし。


いや…でもいきなり入ったらさすがに図々しいか?


しかし…入らないで1人だけ離れて座っても不自然すぎる…。


うーん…一体どうすれば。


悩みに悩む俺は、その場でしばらくの時を過ごしていた。


それは一瞬だったかもしれないが、もしかしたら数分経っていたかもしれない。


そしてようやく出した答えが気付かないふりをして部屋に戻るだった。


それが一番ベストな選択だ。


そう判断した俺が踵を返したその時。


「あ、おい四階!」


秋津に声をかけられたのだった。


それからの俺は、秋津と他愛ない話を繰り返しながら歩夢と彼女さん(東雲 詩織のこと)の話が終わるのを待っていた。


だが2人の会話はいつまでたっても終わる気配などなく、むしろだんだんと熱を増しているようにも思える。


ケーキしか食べていないのに、何故こんなに会話が盛り上がるのかが俺には納得できなかった。だがまぁそれが女の子の特権みたいなものであり、いつの時代も変わることのない姿なんだと1人で結論づけた。


それから1時間ぐらい経っただろうか?


やはり2人は会話をやめなかった。


何をそんなに楽しそうに話しているのか気になって耳を傾けてみると、どうやら秋津の昔のことを喋っているみたいだった。


「お前さん、話のネタになってるぜ?」


少しだけ皮肉を込めながら秋津に言ってみたが、すでに諦めているのか苦笑しながら肩をすくめた。いや、もしかしたら呆れ返っているのかもしれない。そう思わせるような顔をしていた。


だがいかんせんこれ以上はさすがにキツイ。


俺にだってやらなきゃならないことぐらいあるわけでそれが日課なら尚更この状況は好ましくなかった。


思い立ったら即行動。


最早座右の銘と言っても過言ではないほど愛着のあるこの言葉通り、俺は秋津に日課であるトレーニングのことを説明した。


もちろん秋津も一緒にやらないかと誘ってみたが、やんわりどころかバッサリと拒否されてしまった。


だがそれぐらいで諦めるほど俺の心は弱くはない。誘ってダメなら挑発すればいい、と判断した俺は、秋津のことを真っ正面から挑発してかかった。


そして思惑通り挑発に反応する秋津の顔を確認しながら決め台詞を残すと、さっそうとその場から去っていった。


久しぶりに魔法を使った勝負ができる。


俺の心はだんだんと高鳴り、気分が乗ってくる。


相手が誰であろうと魔法を使ったバトルは俺にとって至福の一時なのだ。どんな娯楽よりも心を満たされる、世界でたったひとつの行為。


だが俺は決して戦闘狂ではない。ましてや戦闘中毒でもない。


ただ単純に男として自らの拳をふるえるバトルが好きなだけなのだ。


誰にだってひとつぐらいそういうものがあるはずだ。ゲームだったり読書だったり。俺にとってのバトルがそれなのだ。


一足先に待ち合わせ場所の広場についた俺は、静かに目を閉じた。


そして頭の中で秋津とのバトルをシュミレートしてみる。


俺は確かにE組の落ちこぼれなのかもしれない。


だが決して弱いわけではないのだ。


それは、まだ魔法という異の存在がこの世界に認められてから半世紀あまりしか経っておらず、魔法にかんするノウハウが圧倒的に低いために起こる弊害のせいなのだから。


俺が得意とする魔法は、雷式による身体能力の飛躍的向上による肉弾戦だ。


しかしこの学校の入学試験で提示された魔法は、俺の得意な身体能力の向上を促す短距離魔法ではなく、大多数の敵を相手にした場合に最も有効な攻撃手段である、広範囲を想定した広域魔法だったのだ。


そんな魔法を俺が使えるわけもなく、そのせいでE組どまりになってしまった。


だが俺は個人戦ならその力ゆえ負けるはずないと自負しており、その自信があるからこそこの学校に対する憤りも感じちゃいない。


さらに言えば俺のようなイレギュラーな力を見せつけることによってこの学校も変わることができるだろうと信じている。


まぁ言ってしまえば勝手に使命感を感じているだけだったりもするが、俺はやるときはやる男なのだから何ら問題はない。


しかし俺は秋津がどの程度まで法式を扱えるのかを知らない。分かっているのは、秋津が炎式を使うであろうことぐらいだ。


本人から直接聞いたわけではないが、あいつが炎式の魔力を持っているのはこの目で確認しているし、他の魔力を所有することはあり得ないから間違いないだろう。


だが炎式はその特性故に持っている人数が他の魔力に比べると極端に少ない。


最強と言っても嘘偽りない力を秘めているだけに苦戦することは避けようがないだろう。


しかしいくら秋津が炎式を使えると言ってもさらさら負ける気などないし、ましてや俺と同じE組に入学してきたということは、大したことない法式しか使えないということになるだろう。


さらに炎式には雷式のような身体能力を向上させるような魔法は存在しないため、接近戦に持ち込めば確実に俺の勝利だ。


結論を言おう。


この勝負、秋津がいかなる炎式魔法を使役しても所詮はE組レベル。対する俺はB組の生徒が相手でも勝つことができるであろう接近戦のスペシャリスト。


つまり…


「俺の勝ちだ、お前さん」


脳内シュミレートの結果を確信に変えた俺は、知らず知らずのうちにニヤッと笑っていた。


見る者次第で、それはかなり怪しいものでもあったかもしれない。だが今の俺にはそんな些細な(?)ことなどどうでもいいと思えるほど自信に溢れていた。


ふっ…この恍惚感。これがあるからバトルはやめられない…。


早く来い、秋津。早くバトルを始めてさらに気持ちを高ぶらせてくれ。


俺ははやる気持ちを押さえつつ、冷静を装いながら秋津の到着を待つのだった。







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