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第一章〜ケーキは別腹ッ!〜

注意・サブタイトルは適当です。

「ふーん。そんなことがあったんだ」


時刻は午後2時。


今日は入学式があったため―――というか、入学式の日は午前授業という風習が残っているため、薫は寮に戻って少し遅めの昼食をとっていた。


「ああ。でも今日は午前授業だから勝負は明日するんだとよ」


食堂で食事をとる薫は、目の前に置かれたパスタにフォークを突き刺すと、クルクルと回しながら答えた。


全寮制となっているこの学校は未来の魔法使いたちの栄養管理にも気を配り、食堂が完備されている。


もちろん部屋にあるキッチンで食事を作ってもオッケーだが、今日は帰りが遅かったため食堂に来ていた。


「薫ちゃんは勝負しないの?」


薫の目の前に座る詩織はすでに食事を終えており、デザートのショートケーキを食べていた。


純白の生クリームに鮮やかな赤色をしたイチゴが、まるで一人舞台だと言わんばかりにその存在感を発揮していた。


60年たった今でも女の子は甘いものが大好きなのだ。


「しねぇよ。だって国立の魔法教師だぞ?勝てるわけないじゃん」

「そうなの?」

「そうだろ。あいつに勝てるとしたら軍の人間か―――」


そう言うと、薫はフォークで詩織をさした。


「お前ぐらいだろ」

「もうッ!人を化け物みたいに言わないでよ!」


詩織は拗ねたように言うと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


そんな表情を見せられると薫のS心が刺激させられてしまうのだが、なんとか堪えると、笑いながら「ごめん」と謝った。


「はぁ…。薫ちゃんだから許すけど違う人だったら確実に怒ってたよ、私」

「そんなこと言われるとますますイジメたくなるよな」

「な、なんでそうなるのよッ!」

「んー…なんつーか特権みたいな感じかな?詩織にちょっかいだせるのは俺だけっていう。あははッ、独占欲が強い男みたいだな」


薫はそう言うとパスタを口に運んだ。


ふむ。少し冷めてはいるがなかなかの美味しさだ。どうやら栄養管理だけでなく味にも気を使っているみたいだな。


「むぅ…薫ちゃんってすぐそうやってからかうんだから」

「ん?あぁ、今のは本心」


薫がパスタを食べながら言うと、詩織は少しばかり頬を赤く染めながら小さく微笑んだ。


「ところで詩織。お前はどうだったんだ?新しいクラスは」

「どうだろうね。やっぱり皆プライドが高そうだから少し喋りづらいかな…友達は1人だけできたけど」

「友達って…男?」

「ううん、女の子。あれ?今のはもしかして心配してくれたのかな?それとも嫉妬?」

「どっちでもねぇよ。強いて言うなら子供を心配する親心かな」


そう言って薫はシニカルに微笑んだ。


「幻滅…やっぱり薫ちゃんはイジワル…」


詩織は寂しそうな顔をしたあと、おもむろに席を立ち上がった。


「どこ行くんだ?」

「デザートのおかわり。薫ちゃんも何か食べる?」

「任せる」

「はいはい。チョコレートケーキね」


さすが幼馴染み。よく分かってらっしゃる。薫はその後ろ姿を見送りながら残りのパスタを口に運んだ。


「あ!秋津君もお昼御飯なの?」


今日1日でだいぶ聞き慣れた声が聞こえた薫が振り返ると、そこには思ったとおり歩夢がいた。


パタパタと小走りで駆け寄ってくる歩夢の姿は、まるで飼い主を見つけて喜ぶ仔犬のようだった。


もちろん本人には言わないが…。


「残念だけどたった今食べ終わったとこ。北川は今からか?」

「そうなんだ……私は今からかだよ」


歩夢は少し残念そうな顔をすると席についた。


「…」

「どうしたの?難しい顔して」

「いや、別にどこに座ろうと北川の自由なんだけど、なぜこんな広々とした空間の中で俺の横に座る?」


そう。歩夢は何を思ったか知らないが今は薫の横に座っているのだ。


「え、だって1人で食事なんてつまらないでしょ?」


確かにそれはそうだ。


だが横じゃなくても前に座るとかいろいろあるだろう。


「それに前の席には誰かいるみたいだし」

「だからって俺の横に座るのはいろいろと問題が…」


だが歩夢は薫の言いたいことが分からないのか無垢な表情をしたまま首を横に傾げるのだった。


ダメだ…癒し系の歩夢を詩織と同じように扱うことなどできない…。


そして薫の予想通り、デザートを持ち帰った詩織が発狂したことは言うまでもなかった。


「さて、どういうことか説明してくれるよね?」


ものすごい剣幕で薫を睨み付ける詩織。それを諦めたような表情で受け流す薫。そして明らかに怯えている歩夢。


平穏だったはずの食堂はいつしか修羅場と化していた。


「こっちが俺と同じクラスの北川……」

「歩夢です」

「北川 歩夢。で、こっちが」

「薫ちゃんの恋人の東雲 詩織です」

「え!?」

「嘘を言うな。幼馴染みだろ」


ったく…詩織は昔から初対面の女子に嘘を言う癖があるから厄介なんだよな。


「ふぅ…まあ冗談はここまでにしといて、北川さんはE組なんだ?」

「あ、はい、そうです。東雲さんは何組なんですか?」

「私?私はA組だよ」

「えぇ!?」


詩織の返答に歩夢はだいぶ驚いたのか席から立ち上がると、両手を上に挙げて何故か降参のポーズをとっていた。


って言うか詩織は俺と一緒に遅刻ギリギリで入学式に来たから知ってるはずなんだけどな…。


「あはは…そんなに驚くことかな?」

「もちろんですよ!だって私こんなに可愛い魔法使いみたことないですよ!しかもA組だなんて皆の憧れじゃないですか!」

「うわぁお!薫ちゃん聞いた!?可愛いって言われちゃった!」

「そこは否定しろよ…」

「私、北川さんとお友達になれる気がする!ケーキ食べる?」


「え!?いいんですか!?」

「もちろん!私たち友達でしょ!?」

「はい!そうですね。いただきます!」


満面の笑みでケーキを食べている2人は、まるで昔からの友人であったかのようにすっかりと仲良くなっていた


そんな2人を…いや、歩夢を見て薫はあることを思っていた。


北川って昼飯食べに来たんじゃなかったか?と…。






それから意気投合した詩織と歩夢は、たった2人でケーキを10個以上食べながら盛り上がり、気が付くとすっかりと日が傾いていた。


それでも話が終わる気配のない2人に対して、薫はかなり呆れ返っていた。


「で、この有り様ねぇ」

「まぁ、そう言わないでもう少し付き合ってくれよ」


それでも薫が部屋に戻らなかったのは、どういう巡り合わせか知らないが、この場に結城がやって来たからだった。


「お前さんの頼みなら聞かないこともないが、さすがにこれ以上はキツいぜ?」

「うーん…確かにそうだな」

「それにトレーニングもしたいし」

「トレーニング?へぇ…体力作りでもやってんの?」

「まぁな。俺って体が資本だから」


結城と薫が言うトレーニングとは、魔法のことではなくもちろん体を鍛えるという意味のトレーニングだ。日本では数十年前に施行された法律によって日常生活における魔法の使用は基本的に禁止されていた。


もちろん学校や軍、魔法を使用した競技会や非常時なら話は別だが、その他の場合、最低でも懲役5年の実刑。最高で終身刑になる。


それは魔法を使えない一般人を守るためでもあり、魔法使いを快く思わない人間から魔法使いを隠すためでもあった。


だがここは魔法を勉強する学校であり、魔法を使用しなければ学校が存在する意義すら無くなってしまうため、敷地内であれば魔法の技術向上を目指しての場合のみ使用を許可されている。


「あ、良かったらお前さんも一緒にやんないか?やっぱ1人より2人でやった方が、気が楽だろ?」

「はぁ?なんで俺が…断固拒否する」


薫は、一切興味無し。といった感じに結城のせっかくの誘いを断った。


だが一度断られたくらいで結城が諦める訳もなく、執拗に喰らいついていた。


「いいじゃねぇか。それに2人でやれば魔法を使った勝負もできるしよ」

「だからやんないって言ってるだろ。それに、俺は勝てない勝負はしない主義なんだよ」

「勝つか負けるかはやってみないとわかんねぇだろ?それとも…怖いのか?」


結城はそこまで言って立ち上がると、ニヤリと嫌味な笑みを浮かべながら薫を見下して言った。


そしてその饒舌は止まることを知らないかのように、薫のことを罵倒しはじめた。


「まぁ俺が怖いってんなら仕方ないよな。人間は誰だって負けを恐れるし、それに…」


結城は明らかに挑発にのっている薫の表情を確認しながらクイッと、結城は親指で詩織と歩夢を指さした。


「好きな女の前ならな」


決まった。これで薫は完璧に戦意を持つことになるだろう。あとは、俺が秋津との勝負を楽しめばいいだけの話だ。


結城は挑発が成功したと確信すると、「先に広場に行ってるぜ」と決め台詞(?)を残して去っていった。


「行くかよ…バカ」


薫の胸中など知ることもなく。

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